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Home翻訳・通訳セクション翻訳者・通訳者インタビュー > 井上一馬さん
第一線で活躍中の翻訳者にインタビュー  

作家・翻訳家 井上一馬さん
Author, Translator: Kazuma Inoue

Omori Nozomi

「適切な訳が浮かんでくるようにするには、普段からできるだけ多くの本を読んで、自分の中に『言葉の湖』を作っておくことですね」

『チーズバーガーズ』などボブ・グリーンの作品の紹介者・翻訳者としてデビュー。自らアメリカ文化を紹介するノンフィクションを書く一方、『英語できますか―究極の学習法』(新潮文庫)など、英語学習の世界でも活躍。多彩な井上一馬さんに、翻訳のコツなどについてうかがった。


翻訳の仕事をするようになったいきさつは?
元々、英語の辞書や英文学、英語学の本を作る出版社に勤めていて、ボブ・グリーンやマイク・ロイコといったアメリカのコラムニストの本を出そうと思っていたのですが、単行本の出版から雑誌の編集部に異動になってしまったんです。「それなら自分で翻訳して出そう」とほかの出版社の知り合いのところに持っていったところうまく話が進み、最初の訳書『アメリカン・ビート』(ボブ・グリーン著、河出書房新社)を出すことができました。28歳のときのことです。

実は、翻訳の話が決まったとき、出版社勤務はやめてしまったんです。今考えれば無謀だったかもしれませんが(笑)、幸いにしてボブ・グリーンなど一連のアメリカのコラムニストの作品が人気を博し、翻訳の仕事が好調に続きました。

そもそもボブ・グリーンは、私が学生時代にアメリカを旅行していたとき、『エスクァイア』という雑誌でたまたま見つけて、「ぜひ日本で紹介したい」とい思っていた作家だったんです。日本ではまったく知られていなかったんですが、いざ出してみると、新聞記者ながら自分の署名入りで自由にコラムを書くグリーンのスタイルが、日本ではとても新鮮に映ったようでした。


自分で本を書く仕事は、どのように始めたのですか?
翻訳の仕事を続けているうちに、だんだん「自分の文章を書きたい」という欲求が出てきたんです。人の文章を訳すというフラストレーションを解消するために、自分の家族や、仕事場がある街の話を中心とした日記を書き始め、それを『自由が丘物語』という単行本にまとめることができました。エッセイなどを出すようになったのは、それからです。

私は「頼まれて書く」ということはあまりなくて、翻訳にしてもエッセイにしても、普段、日常生活や、本・雑誌を読んでいる中で「これは」と自分のアンテナに引っかかったものをテーマにしています。雑誌の原稿は、「こういうことを書いてください」と依頼されることが多いので、あまり得意ではないですね。単行本の仕事は比較的自由にできるので、「自分が編集長」というくらいの意気込みでやっています。

普段、『ニューヨーク・タイムズ』紙や『USAトゥデイ』『タイム』といった雑誌を読んでいて、次に翻訳したい本はその書評欄で見つけることが多いですね。出版社に話して、出せるということになったら、翻訳権を取ってもらっています。流行作家の新作はすぐに版権が取られてしまいますが、私が目をつけるような本は、不思議と残っていることが多いんですよ。


英語には以前から関心があったのですか?
高校時代からよく洋書を読んでいて、「もう英語はできるから、今度はフランス語を」(笑)と、大学ではフランスとアメリカの比較文学を専攻しました。そこで初めてフランス語を習ったときに、日本の中学・高校の英語教育がいかにいびつなものであるかに気づいたんです。外国語の習得は、本来、読む・聞く・書く・話すの4技能をバランスよく練習するべきなのに、日本の学校教育では、大学受験を意識するあまり文法と読解の勉強に偏りすぎているんですね。

「英語はできる」といっても話せるわけではなかったのですが、学生時代にそれまでの学習法の間違いに気づき、フランス語を初めて習ったときと同じやり方で、自分で英語を勉強し直しました。

本を書く仕事をするようになってから、「私なりの英語学習法をまとめた本を書こう」という話がまとまって、『英語できますか―究極の学習法』という本を出しました。その後その学習法を実践するためのテキスト(『会話編・英語できますか?』)なども書くことになり、一連の学習書の仕事につながっていったのです。


翻訳の仕事には何かコツがあるのでしょうか。
『音読王』(小学館)といって、英語の名文を紹介しつつ、その訳と解説を書いた本を出したことがあります。『チャタレイ夫人の恋人』といった名作が入っているのですが、例えばチャタレイ夫人の夫が戦場で負傷して送り返されてくる場面に、to be shipped over to England again six months later, more or less in bitsという部分があります。

最後のmore or less in bits のbitsがなかなかの曲者です。「半年後、ほとんど小片になって、またイギリスに送り還されてきた」では、なんのことだかわかりませんね。ここは想像力を働かせて、「ほとんどずたずたに引き裂かれて」といったように訳したんです。

こういう仕事は、調べるだけではできません。普段からできるだけ多くの本を読み、自分の中に「言葉の湖」のようなものを作っておいて、いざというときに適切な言葉がわきあがってくるようにするんです。


最近のお仕事について教えてください。
『次世代に伝える言葉――偉人たちがわが子に宛てた66通の手紙』という訳書が8月頃出る予定です。アメリカの大統領や有名な科学者、映画関係者などが、実際に自分の子どもにあてて書いた手紙をまとめたものです。有名人が自分の子どもにあてた生の声を聞くことができて、おもしろいですよ。

それから最近、自分でホームページを始めたんです。気になる映画や洋書、レストランなどを紹介するほか、日常生活でよく使う英会話フレーズを覚えるためのメルマガや、毎日私と英作文のできるメルマガもあるので、ぜひ一度ごらんになってみてください。

井上一馬公式ホームページ
http://www001.upp.so-net.ne.jp/kazusho/



Omori Nozomi
 
井上一馬(いのうえ かずま)

1956年東京生まれ。東京外国語大学卒業。大学時代にヨーロッパやアメリカを歩き回る。編集者として研究社に勤めたのち、作家・翻訳家として独立。著書に『アメリカ映画の大教科書』(新潮選書)、『「使う」ための大学受験英語』(ちくま新書)、訳書に『ウディ・アレンの浮気を終わらせる3つの方法』(ウディ・アレン著、白水社)、『希望―行動する人々』(スタッズ・ターケル著、文春文庫)など。これまでに多くの著書・訳書がある。

『井上一馬の翻訳教室』
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井上一馬 著(筑摩書房/定価1575円)

翻訳に必要な基本的技術、辞書探しといった実践的な内容とともに、翻訳家になるための資質、翻訳業界の事情や自らの翻訳・執筆経験などにもふれた書。翻訳家志望者だけでなく、すでに仕事を始めている人、編集者・ライター志望者なども、おもしろく読めるはず。
『井上一馬の翻訳教室』を買う

『会話編・英語できますか? 定番・話すための基本英会話 上・下』
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井上一馬 著(新潮社/定価各1575円)

ベストセラー『英語できますか?』が会話の練習書として登場! 英語の基本構文を、口に出しながら覚えていく。「学校教育の間違いに気づいて、自分で英語をやり直した」井上さん自身の経験が生かされた、初級者にも取り組みやすい学習書。
会話編・英語できますか? 定番・話すための基本英会話 上・下』を買う

『モンキーアイランド・ホテル』
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井上一馬 著(講談社文庫/620円)

初めて挑戦した、本格的な小説作品。スコットランドのホテルを舞台に、日本の骨董商と不思議な女性の出会いを、ミステリー風に描く。なお、井上さんは現在ブログhttp://inouekazuma.ameblo.jp/で新作小説(『ぼくのマリアさま』)を発表している。
『モンキーアイランド・ホテル』を買う

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