留学


Starting Out in London
社会人留学 ロンドンの第一歩

UK Report
from Naoko Hasegawa in London

編集者人生を一時棚に上げ、視野と経験を広げるために大学院留学を決行するも、予想外のハプニングに右往左往!

遠距離恋愛を成功させるコツ
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「あ、そいえば、もうすぐバレンタインですねぇ」
この1月からコースが始まって来英したばかりのC子が、ふと口にするまで、私はこのイベントのことすっかり忘れてた(情けな)。C子は、「日本に置いてきぼり」のBFと、朝晩2回のメール送受信が hot に続いているらしい。e-mail は時差を気にしないで済むから、ほんとに便利だ。C子のみならず、離れて暮らしている恋人や夫婦間の関係において、e-mailは多大な恩恵をもたらしたはず。
「日本に居たときは、毎日なんて連絡とらなかったのにね。来たばかりだからだと思うけど・・・」 とC子。しかし、語尾の「・・・」には「この後はどうなるか誰もわからない」のニュアンスがある。恋愛は「しょせん離れると無理」ということを体言する諸先輩方も多い。positive な結果につながるものかどうかは、話題になっても「無理、無理」的な論調に流れ、留学生女子同士ふと遠い目、みたいな。しかし、ここに great な遠距離ラブストーリーがあるのだ。

2人は昨年結婚した日本人同士のカップル。この結婚、なんと12年におよぶ東京〜ロンドン間の国際遠距離恋愛が結実したものなのだ。信じられます? ちょっと国内転勤してガタガタ抜かしてるカップルってゴマンといると思いますが、時差8時間、直行便で11時間の距離を超え、結実した人たちがいるんです。私は多くの不安におののく遠距離恋愛者たちに勇気を与えるべく、eigoTownの「恋愛特集」のために、インタビューを敢行したのでありました。

まず、このカップルのプロフィールを紹介しよう。彼A男は、12年前、日本の某美術大学を出て、より自由なアート表現を目指し、ロンドンにやってきた。性格および行動様式的には美術界にいがちな破天荒型。一方、彼女B子は、良家の子女が通うことで有名な某女子大付属系を下から上がってきた典型的なお嬢様。高校時代、父親が海外に転勤していた関係上、女子校付属の寮に入れられ、門限6時、男女交際一切禁止、親族以外の男性名できた手紙は寮監によってすべて開封されるという環境下で女子高生時代を送る。 「6時に寮帰ってから、やることない」B子は、プラトン(注:「プラトニックラブ」の語源の人)などを読みふけり、哲学としての恋愛は精神と精神の関わりあいこそ本質と信じ、無菌状態の女の園で、生身の男を「男子ねぇ」と怪訝な目で見る清く正しい女子大生へと成長していった。

通常なら接点のない2人が出会ったのは、お嬢様エスカレータ女子大を脱出し、A男と同じ美大に進学したB子の学友の紹介。破天荒型アーティストとハードコアな超お嬢様という、方向性はかなり違うが、「世間一般からは、はみ出ている」という共通点をもつ2人は付き合いはじめる。しかしその頃、すでに留学を決めていたA男は、B子を日本においてイギリスへ。インターネット時代を前に、2人のコミュニケーションは手紙と国際電話で行なわれた。しかも、B子に「銀行員との結婚」を幼稚園時代から昨年の結婚式前夜まで、諭し続けてきたB子の母に、交際は極秘。国際電話の通 話料から足が着かないように、B子は朝の4時頃、電話局前の国際電話がかけられる公衆電話に自転車で出かけ、当時はあった高額テレホンカードで「今日は5千円分話そう!」と決めて電話していた。

「ふつうに話す」こと自体が、「夜明け前に自転車で」というイベントに化したことは、恋愛の重要なスパイスだったのかもしれない。大学生時代、B子はアルバイトのお金をすべて注ぎ込んで、年2回のイギリス行き。社会人になって年1回になったが、おもにB子が出かけることで関係が持続。しかし一方、A男は、ついて早々イタリア人のGFができ・・・テキトーによろしく、そしてB子が来れば来たで、その関係は復活する、という、なんとも、B子(および私を含め一般女子の)希望的誠実さを裏切る生活を送っていたのである。

女子の嗅覚は鋭い。年2回のロンドン行きで、B子はすかさず臭いをかぎつける。そういう場合、「同時ってのはあり得ないのよ、私と別れるのか、あの子と別れるのかハッキリして!」と、ダイレクト攻撃。これは功を奏したらしい。結局「いろいろアリ」ながらも、A男はB子に収束されていく。つらい体勢を耐えて、土俵際、寄り切って勝ち、である。こういうタイプってやっぱり勝負師としてはいちばん強いのかも。

しかし、ここで着目しなければ(って深刻な・・・)いけないのは、その勝負師の「心技体」の「心」の部分。B子自身の内面はどうだったのだろうか? B子は、松坂慶子似の正当派美人。当然、近付いてくる男性もいただろう。寂しいときもあったに違いない。A男は遠くロンドンの地にいて、いつ帰ってくるともしれないし、第一、向こうで何しているかもわかったものじゃない、というのはB子自身がいちばんよく知ってるのだ。そんなときに誘われたら・・・どうだったの?
「うーん、誘われて、いいムードまではいくけど、最後のところでロンドンの方面が気になって、ゴメンナサイ、だったかな」。

B子は言う。「結局ね・・・、本気じゃない関係を許したら、恋愛って楽しめないんじゃない?」

朝4時に電話ボックスに自転車で乗り付ける日々から12年、2人は昨年の夏にロンドン郊外の公園で結婚式を挙げた。そのパーティの最後のスピーチでA男は「私はB子に追いかけまわされ、これ以上逃げられないと観念し、今日結婚の決意をするに至りました」とやらかした。イギリス人と日本人が混ざった列席者からはブーイングと歓声が乱れとんだ。当然、女性列席者からは大ブーイングだ。式から半年、私はA男に、その真意を聞きたかった。だって、「テレ隠し」にしても、結婚式で、親、兄弟、友人の全員に言うのに酷すぎない? 
「いや、あれ、特にイギリス人からは、『あんな正直な結婚式のスピーチは聞いたことがない』って、絶賛されてるんだよ。俺もこうなった(結婚した)からには、ケジメはつけるけど、昔の考え方は、恋愛なんて何でもあり、だと思ってたから、ほかにも付き合ってた子がいたりしたんだよ。でもさ、そんなことも知ってながら、結局、12年間も思い続けてくれたこと自体がすごいことでしょ。他にそんな人いなかったわけだから」。
つまり、あのスピーチは、いわゆる日本人の中高年男性が妻を公衆の面前でオチョくるのとは全然違う、A男の正直な気持ちであり、同時に12年間、距離や時間差を超えて、思い続けてくれた女性への賛辞だったのだと思う。

「続いた秘結? 頭でっかちであることかな」とB子。清く正しく、精神の昂揚がなければ恋愛ではないと信じてたプラトン派女子高生は遠距離恋愛の勝利者となった。



●Language Box●
遠距離恋愛カップル:long distance lovers
時差:jet lag/time difference
厳しい門限:rigid curfew

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from Naoko Hasegawa in London
長谷川直子 
60's東京生まれ。デザイン誌の編集者として約9年の激務を経て、99年12月に本格的に渡英。現在London College of Printingで「Enterprise and Management for Creative Arts」(デザインマネージメント)MAコースを履修中。

編集 萩村


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