留学


Starting Out in London
社会人留学 ロンドンの第一歩

UK Report
from Tomoko Mase
大学院の課題に追われる長谷川さんに代わり、「レディング・フェス」レポート」にも登場のタミーこと間瀬さんが、期間限定でダイアリーをお届け!

 

英国と戦争──IWMを訪ねて

イギリスは軍隊保持国である。National Militaly Serviceに参加を呼びかけるテレビコマーシャルは毎日のように放映されているし、空軍宣伝のためのフライヤーがレストランのレジ横に置かれていたりする。「軍隊」というものに不慣れな私も、最初のうちこそ「おや?」と思ったが、今では特に意識することもない。

現在通っているMorley Collegeのすぐ裏手に“Imperial War Museum”がある。約180年前に建設されたというドーム付きの由緒ある建物で、前庭にはそぐわない二筒の巨大な大砲が設置され、虚空を狙っている。その異質な印象に惹かれて、先日、初めて博物館の中を訪れてみた。一体何が展示されているんだろう、という興味もあった。

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ドームが印象的なIWMの建物。実戦で使用された巨大な大砲が手前に見える。
メイン・エントランスを抜けると大きな吹き抜けのエキシビション・ルームが広がる。ここには、第一次・二次世界大戦で実際に使用されたFirst World War BE2c、Battle of Britain Spitfire Mark 1A、P-51 Mustang などの戦闘機、the WW1 Mark V、the WW2 Shermanといった戦車、その他潜水艇、大砲が展示されている。地下一階は、世界大戦に関連するさまざまな資料、例えば、世界各国の軍服や重火器類、書簡、兵士の所持品などの膨大なコレクションの展示。中には日本軍が着用していた戦闘服、帝国時代の国旗もあった。現在、“Holocaust Exhibition”“Spitfire Summer”などの特別展も見ることができる。

地下1階の数ブロックを見終わったところで、私は目眩と吐き気を感じた。これ以上ここにいたくない、という気分に襲われた。何を見るわけでもなく、ぼんやりと立ち尽くしていると、近くにいた祖父と孫らしきふたりの会話が聞こえてきた。「これ、どこの国の軍服?」 「これはソビエトのだな。隣にあるのがブリティッシュだ。こっちの方が洗練されていて格好いいだろう?」

私の母は、彼女の父親に会ったことがない。生まれた彼女に会う前に、満州で戦死してしまったからだ。だから母は絶対的に反戦派で、私もそういう風に教えられてきた。「軍服が格好いい」などと言おうものなら、数時間のお説教は逃れられない。この少年とお祖父さんの会話を聞いて、先程から私の感じていたものが何か、はっきりとわかった。強い嫌悪感である。

特に衝撃的な写真や映像があるわけではない。むしろ、古代の遺物を展示するように、歴史の証拠が淡々と並べられているだけ。前線の戦闘用壕や戦時中のロンドン市街・防空壕が再現され、実際にその中に入って戦闘や空襲シミュレーションを体験できる Trench Experience や Britz Experience に至っては、まるで遊園地のアトラクションである。恐竜の模型を見るように、戦闘機を眺める人々。展示する側にも見る側にも、戦争は人を殺す、という感傷がまったくない。私にはその客観性が、血を見るよりも血生臭く感じられた。

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現在行なわれている特別展示の看板。ウィンストン・チャーチルが首相になったときの公式文書などが見られる。
植民地支配によって繁栄を遂げた国。大きな敗戦を経験していない国。戦いはイギリス国家と国民にとって富をもたらす正義であった。そして、軍事力が世界の均衡を保つ現代。強い国家は、世界に誇るべき強い軍事力をもって成立する。Imperial War Museum は英国軍事に対する市民の意識を高める上でも、重要な役割を担っているのだろう。

悲惨な戦争、そして敗戦。徹底した平和教育。私のアイデンティティーは日本の完全平和主義によって築かれた。それを疑うことすらなかった。しかし私は今、渡英後初めて深い観念的ギャップに出会い、強い戸惑いを感じずにはいられないのである。

住所:Imperial War Museum, Lambeth Road, London SE1 6HZ, United Kingdom

アクセス:地下鉄最寄り駅Lambeth NorthよりKennington Rd.をLambeth方面へ徒歩5分。 Elephant & Castle駅よりSt.George's Rd.を直進、徒歩10分。



●Language Box●
目眩:dizziness 目眩がする:feel dizzy
血生臭い:bloody
植民地支配:colonial rule


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from Tomoko Mase in London
間瀬知子 
元・某有名ダンス系レコード会社の営業ウーマン兼シンガー。現在は、London College of Printing で Sound and Music Technology のコーススタートに備えて準備中。将来の夢は「コムロになる」。音の世界で活躍することを目指す27歳独身。

編集 萩村


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