留学


Taking the First Step in London
社会人留学 ロンドンの第一歩

UK Report
from Tomoko Mase in London

大学院の課題に追われる長谷川さんに代わり、「レディング・フェス」レポート」にも登場のタミーこと間瀬さんが、期間限定でダイアリーをお届け!

 
ピンチヒッタ掃除をしたことがない名物パブ「ダーティー・ディック」

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この看板を探してください
その昔、ディックという男がいた。商売は順調、美しい恋人を得て、順風満帆かのように見えた彼の人生も、婚約者の突然の死により一変してしまう。悲しみのあまり、ダイニングルームにこもり、その扉を2度と開くことなく、ネズミやクモを食べて一生を送ったのだった。

「ダーティー・ディック」は孤独な人生を過ごした彼のあだ名。Liverpool Street駅より通りを挟んで向かい側のパブ「Dirty Dick's」は元来、悲劇の男ディックの家であった。日本のガイドブックによると、その言い伝えに基づいて、1742年の創業以来このパブでは1度も掃除を行なったことがない(!)らしい。さらには、ネズミやコウモリの死骸がそのまま放置されているという。

何?? それはかなりバッチイぞ!! しかし、臭いといわれれば嗅ぎたくなる、汚いといわれれば見たくなる、のが人間というもの。百聞は一見にしかず。「あまりのショックで、ビールすらノドを通 らないかもー!」と恐れながらも、気分はまるでお化け屋敷に踏み込む子供である。ワクワクしながら友達のアイちゃんに「ずっと掃除していない、きーったないパブがあるらしいんだけどさー」と電話するのであった。

いくら「ダーティー」って言ったって、さすがに飲食業を営むくらいだから、ドリンクをオーダーするのを躊躇するほどの嫌悪感や悪臭があるわけでもなかろう。第一、「保健衛生法」とやらに引っかかるじゃないか、と心に疑問がよぎる。そういえば、うちの弟の部屋も1年に1度、大がかりな掃除をするのみで、私たち家族にしてみれば、高濃度放射能汚染地域なみに立ち入りたくない場所なんだよね。さすがに某かの死骸が転がっていることはないらしいけれど。

午後7時、Liverpool Street 駅到着。「Dirty Dick's」の赤いネオンが目に飛び込む。他のパブと何ら変わらない門構えである。しかし、この扉の向こうにはホーンテッドマンションばりの光景が広がっているに違いない・・・「こざっぱりした服装以外での入場おことわり」との注意書きのある扉を、恐る恐る、開く。

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実は毎日一生懸命掃除をしているふたり
がーん!!! きれいなのだ。コウモリの死骸どころか、綿ボコリすら落ちていない。しかも、こざっぱりとしたビジネススーツの一団(ここはCityからも近いのだ)が、和やかに談笑している。思わず、ジーンズ姿の自分を振り返る。同行したアイちゃんも、拍子抜けしたような表情である。ふたりフラフラとバーカウンターに歩み寄り、私はラガーを、アイちゃんはレモネードを注文する。「Certainly!」と若いバーテンダーがテキパキとドリンクを用意してくれる。彼がラガーを注ぐ間に、「このパブは1度も掃除をしたことがない、って聞いたんだけど・・・?」と尋ねてみた。すると彼は、「それは、昔の言い伝えだよ。俺は毎日、一生懸命掃除しなきゃいけなくって大変なんだ!」と苦笑い。「webに載せたいから、写真撮らせてくれない?」と頼むと、オーナーらしきオジさんは「う〜ん、写真は20ポンドだな」と言いながらも、にこやかに撮影に応じてくれた。

ビジネススーツの一団の横で、ちびちびラガーを飲みながらガイドブックを再読して笑っていると、となりのOLらしき女性が「何て書いてあるの?」と話しかけてきた。「これこれこういうワケで・・・」と説明。彼女も笑いだし「それは知らなかったわ。でも、ここはとてもいい雰囲気でしょ。この辺でもいちばん古いパブなのよ」と教えてくれた。連れの男性も「仕事が終わると、いつもここで飲むんだ」と微笑む。

結局、悲劇の男ディックの伝説が真実であったかどうかはわからなかったけれど、「Dirty Dick's」が歴史ある、暖かいアトモスフィアですべての客を迎えてくれているのは事実。私もなんだかあったかいものを心に感じながら、帰りのバスに乗りこんだのでした。お酒が飲めても飲めなくても、パブはとってもステキな場所。イギリス、万歳!

*Dirty Dick'sは地下鉄およびBritish RailのLiverpool Street駅で下車。  Bishopsgate(通り名)方向の出口を出て、駅の向かい側




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●Language Box●
悲劇:tragedy ・悲劇の:tragic
言い伝え:oral tradition
死骸:corpse
百聞は一見にしかず(諺):Seeing is believing.
衛生法:sanitary code
汚染地域:polluted area
和やかに:in a friendly mood
フラフラと歩み寄る:totter to 〜


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image UK Report
from Naoko Hasegawa in London
長谷川直子 
60's東京生まれ。デザイン誌の編集者として約9年の激務を経て、99年12月に本格的に渡英。現在London College of Printingで「Enterprise and Management for Creative Arts」(デザインマネージメント)MAコースを履修中。

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