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ネイティブ感覚で観る『ザ・ホワイトハウス』


Updated every Monday, 更新日:9月3日

ジャーナリスト 西森マリー先生

西森先生
西森先生のプロフィール
人気海外ドラマ『ザ・ホワイトハウス』を題材に、アメリカ在住ジャーナリスト、西森マリーさんが英語の台詞とその背景をわかりやすく解説。アメリカの社会背景・文化を知れば英語の台詞もなっとく、楽しみながらアメリカの「今」を学ぼう!


ネイティブ感覚で観る『ザ・ホワイトハウス』 95
外交官特権の濫用〜国連とNY市との確執〜
Diplomatic Immunity Abuse
From Season 4 episode 9, "Arctic Radar"
 

3回にわたって、エピソード9のバックグランドの解説をお届けしています。


今週は、外交官特権の濫用に関する話題をお届けしましょう。

まず、首席補佐官レオと大統領の私設秘書チャーリーの会話を見てみましょう。

Leo: I need a favor. The President's gonna be getting a phone call and I don't want him to take it, and I don't want him to know why.
Charlie: The first part is okay the second part gets ethically tricky.
Leo: The U.N. has had a decades-old conflict with New York City. Foreign diplomats will park anywhere they want, and they get tickets.
Charlie: And?
Leo: Don't pay them. And that's where the action begins 'cause every once in a while the city goes on a jihad and starts towing all their cars and that's just happened.
Charlie: So someone's complaining to the President?
Leo: Yes.
Charlie: Who?
Leo: The Secretary-General.
レオ: 頼みたいことがある。大統領に電話がかかってくるんだが、その電話に出ないようにして欲しいんだ。理由は知らせずに。
チャーリー: 前半部分は分かりましたが、後半は倫理的にトリッキーですよね。
レオ: 国連とNY市との間の10年に及ぶ問題に関する電話なんだよ。外交官たちが好き勝手な場所に駐車して、駐車違反チケットを切られてる。
チャーリー: それで?
レオ: 彼らは罰金を払わないんだ。それで、時々NY市がジハードを決行して、レッカー車で駐車違反の車を撤去するんだが、まさにそれが今起きたんだ。
チャーリー: で、誰かが大統領に文句を言うために電話をかけてくる、ってことですか?
レオ: そうだ。
チャーリー: 誰が、ですか?
レオ: 事務総長だよ。

一度目の電話はなんとかブロックに成功しましたが、二度目はレオの裏工作がバレて、大統領は受話器に向かってこう怒鳴ってしまいます。

There are big signs! You can't park there! They should get towed! I hope they get towed to Queens and the Triboro is closed and there's a big craft show at Shea, a flea market or a tractor show!
「駐車禁止という大きな標識があるでしょうが! 駐車しちゃいけない、ってことですよ! レッカー車で引かれて当然です! クイーンズまで引かれていきゃぁいいんですよ。(クイーンズとマンハッタンをつなぐ)トライボロー橋が通行止めになってて、(NYメッツの拠点)シェイ・スタジアムで大きなトレード・ショーや、フリー・マーケット、トラクターの品評会かなんかがあって、交通渋滞に悩まされればいいんですよ!」
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実は、このくだりは、1997年から大問題になっていたNYにおける国連関係者の駐車違反を皮肉ったものなんですよね。

1997年に、当時NY市長だったジュリアーニ市長が国連関係者の車にも違法駐車の罰金や罰則を厳しく適用すると発表し、それに対して国連側が「外交官特権(diplomatic immunity)の侵害」*脚注1)、と文句を言ったんですよね。

かねてからNY市民たちは、国連関係者が二重駐車をして道をブロックしていることに頭に来ていました。

ちょうど1997年1月にワシントン駐在のグルジアの外交官が飲酒運転で16才のアメリカ人少女をひき殺し、外交官特権のおかげで保釈された事件が大々的に報道されてアメリカ全土が外交官特権に怒りを抱いていた時期だったので、NY市と国連の駐車問題論争も外交官特権という観点から全国ネットの話題に発展していたのです。

ジュリアーニ氏の好戦的な態度もこの問題をさらに「おもしろいネタ」にしてくれました。

国連側が文句を言ったとき、ジュリアーニ氏はこうおっしゃったのです。

I'm not a mayor who is easily threatened, so if they'd like to leave New York over parking tickets, we could find another use for that area of town. It's the most valuable real estate in the world.
「私は簡単に脅される市長じゃないですよ。彼ら(国連)が駐車違反チケットのせいでNYから出て行きたいというなら、(国連本部のある)あの場所を違う用途で使えばいいだけのことです。あそこは世界一貴重な不動産ですから」

ニュース素材としておもしろいことを言ってくれたのはジュリアーニ氏だけではありません。

国連でこの問題が話し合われたときに、ブラジルの代表者が「外交官特権は全面的に認められるべきであり、駐車に関して外交官特権を認めないのはおかしい」と怒って、こう訴えました。

Diplomatic immunity, Mr. Chairman, is like virginity. Either you have it or you have not. I have not seen a half-virgin.
「議長殿、外交官特権というのもは、処女性と同じです。処女か、非処女かのどちらかで、半処女などということはあり得ないのです」

この超オモシロ発言が夜のトーク・ショーでジョークのネタになり、国連とNYの駐車違反をめぐる話題は様々なテレビ局が特集を組むほどの大きなネタへと発展していったのです。

それで、最終的には2002年8月に、駐車特権を許される車の数を2,600台から530台に減らし、未納の駐車違反罰金が230ドル(約2万7千円)以上の車はレッカー車で引いてもいい、などの条項が含まれる合意書が作られ、またしてもこの問題にスポットライトが当たっていました(このエピソードが放送されたのは 2002年11月27日です)。

で、1997年から2001年の間の国連による未納罰金額が2,000万ドル(約24億円)以上、というニュースが流れたときは、当時まだ米国同時多発テロ9/11の被害から復興できていなかったニューヨーカーたちを怒らせ、リベラルな人たちまでもが国連に腹を立てるようになっていたので、バートレット大統領が怒鳴ったのもうなずけるんですよね。

ちなみに、共和党支持者の多くは国連を無用の長物、あるいはアメリカの国益追求を阻む障害物とみなしています。

実は、ブッシュ政権は発足後すぐにイラン・コントラ*脚注2)の黒幕の一人ネグロポンテ氏を国連大使に任命したのですが、ネグロポンテ氏は南米で暗殺部隊を組織していた疑いがあるため、民主党議員たちがこの人事に反対していました(ネグロポンテ氏はレーガン政権下でホンデュラス大使だったときに、正当な選挙で選ばれた左派政権を倒すために反政府のテロ組織を政治的経済的に援助していたことが、後に情報公開法で公開された資料により明らかになっています)。

でも、9/11でアメリカが一気に右翼化した時期、2001年9月14日に、遂に民主党議員たちもこの任命を受け入れました。

ネグロポンテ氏が国連大使に任命されたとき、ニュー・ヨーク・タイムスは、「これは、ブッシュ政権がイラン・コントラ関係者を表舞台へ復帰させようとしていることの証拠の一つ」と述べた上、こう書いています。

Negroponte is known as a guy who is devoted to realpolitik, which is in many ways the opposite of what the UN stands for. Giving him this job is a way of telling the UN: 'We hate you.'
「ネグロポンテは、多くの意味で国連が目指していることの対局を行く現実政治(=武力外交/権力政治)の信者だ。彼に国連大使という地位を与えることは、国連に対してWe hate you.とメッセージを送っている、ということである」

余談ですが、2004年5月にネグロポンテ氏がイラク大使になった後、ブッシュ政権が国連大使に任命したジョン・ボルトン氏は、

There is no such thing as the United Nations. There is only the international community, which can only be led by the only remaining superpower, which is the United States.
「国連など存在しない。合衆国という唯一残っている超大国により導かれる国際的なコミュニティがあるだけだ」

とか、

The Secretariat building in New York has 38 stories. If you lost ten stories today, it wouldn't make a bit of difference.
NYの国連事務局は38階のビルだが、今日10階消え去っても、何も変わりはしない」(つまり、国連は世界に何の影響も与えていないから、なくなっても何も変化はない)

と豪語した大の国連嫌い!

さすがにボルトン氏の任命は民主党がなんとか阻止したのですが、ブッシュ氏が上院の認可を必要としない「recess appointment power(議会休会中の任命権)」を行使して、ボルトン氏を国連大使に据えてしまいました。

こうした社会背景をふまえて見ると、国連とNYの確執をより興味深く味わうことができますよね。


来週は、スタートレックの話題をお送りします。お楽しみに!


脚注
*1.外交官特権(diplomatic immunity
ウィーン条約に基づいて外国公館や外交官、国際機関などに対して与えられる特権。公館の不可侵権(車等の輸送手段なども含まれる)や不逮捕特権など。

*2.イラン・コントラ事件
レーガン政権が、イランへの武器売却代をニカラグアの反政府ゲリラ「コントラ」に渡していたという事件。1986年に発覚し、一大政治スキャンダルになった。


ボキャブラリー
diplomatic:外交の
immunity:免除、免責
diplomat:外交官
secretary-general:事務総長
tow:けん引する
flea market:フリー・マーケット
mayor:市長
virginity:処女性



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