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ネイティブ感覚で観る『ザ・ホワイトハウス』


Updated every Monday, 更新日:8月20日

ジャーナリスト 西森マリー先生

西森先生
西森先生のプロフィール
人気海外ドラマ『ザ・ホワイトハウス』を題材に、アメリカ在住ジャーナリスト、西森マリーさんが英語の台詞とその背景をわかりやすく解説。アメリカの社会背景・文化を知れば英語の台詞もなっとく、楽しみながらアメリカの「今」を学ぼう!


ネイティブ感覚で観る『ザ・ホワイトハウス』 93
2つの文化の衝突〜西洋と東洋〜 Part 2
Clash of Two Cultures Part 2
From Season 4 episode 8, "Swiss Diplomacy"
 

3回にわたって、エピソード8のバックグランドの解説をお届けしています。


先週に引き続き、今週も二つの文化の衝突に関する話題をお届けしましょう。

まず、バートレット大統領、首席補佐官レオと参謀たちのやりとりを見てみましょう。

Serviceman: If it leaks, you've got the clerics.
Leo: But it sends a message to the reformists.
Liberal Aide: Thank you, at a time when they're breaking 70% in local elections.
Serviceman: If you're looking for ways to temper support to the Shi'ites, I don't recommend...
Liberal Aide: A benevolent power must make sure...
Serviceman: Please, this is not the time....
Pragmatic Aide: Let's not forget about the Shehab program and whats-his-name and the transport corridors along the Silk Route.
President: How old is he?
Pragmatic : I'm sorry?
Pragmatic Aide: How old is he?
Pragmatic Aide: Fifteen.
President: Fifteen. The Shiites, Manny, that's what you want me to take back to my thoracic-surgeon wife? Get this boy in preop. Somebody tell the Swiss to stop standing in the damn doorway with a mouse in their mouth. If they're coming in, come in.
軍人: これ(アメリカがアヤトラの息子を助けようとしていること)が漏れたら、イスラム教の聖職者たちから叩かれますよ。
レオ: でも改革派にメッセージを送れる。
リベラルな側近: その通り。現時点で改革派は地方選挙の7割で勝っています。
軍人: シーア派への支持を弱めようと思っていらっしゃるのでしたら、こんなことは推薦できません…
リベラルな軍人: 慈悲深い政権というものは…
軍人: 今はそんなことを論じてる場合じゃ…
実務的側近: シェハーブ・ミサイルのテスト、強硬派、シルク・ロードに沿った輸送回路のことも忘れてはなりません。
大統領: 患者は何歳なんだ?
実務的側近: えっ?
大統領: いくつなのかね?
実務的側近: 15です。
大統領: 15か。マニー(軍人の名前)、私の胸部外科医の妻にシーア派の話をしろというのか? その少年を手術前検査室に連れて来なさい。誰か、スイスに、戸口でネズミを加えて待ってないで中に入りたいならさっさと入って来い、と言ってやってくれ。

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とりまきたちが政治的波紋を心配したり、外交の駆け引きを計算したり、軍事的な裏取引のコマとして使おうと考えている最中、バートレット大統領は「15才の少年の命を救う」、という観点のみから決断を下しています。

こうした人道的措置は、実はアメリカの外交政策として最も点数をかせげる手段なんですけど、バートレット大統領がそういう打算なしに純粋に人道的立場からこういう措置を執っている点が感動的なんですよね。

大統領の最後の一言は、「スイスの外交」(Swiss Diplomacyはこのエピソードのタイトルでもあります)が、取ったネズミを加えて飼い主に見せるネコのようだ、という皮肉なんですよね。

永世中立国のスイスは、仲介/橋渡しをするだけで、自分では実際にインパクトを及ぼすようなことは何もしない、ということを揶揄したものです。


次に、秘書マーガレットから手渡されたメモを読むレオとバートレット大統領の会話を見てみましょう。

先週ご紹介した報道官C.J.と大統領のやりとりのすぐ後に出てくる会話です。

President: "The Iranians, they've taken to the streets." Perfect. That goes to the Margaret Museum.
Leo: Please don't forget all politics are local.
President: Ah, bite me.
Leo: He's got to say something...
President: Please.
Leo: He's got to say something to his hard-liners.
President: He didn't want to try, "My son is dying and these guys maybe can fix him. And maybe if our citizens didn't spend quite so much energy denouncing the infidels, they'd have time to build a damn medical school!"
大統領: 「イラン国民がデモを始めました」最高だね。マーガレット博物館入りの素材だ。
レオ: 政治は全て地元(支持基盤)優先、ということを忘れないでください。
大統領: 勝手にしろ。
レオ: アヤトラも何らかの声明を発表しなきゃならなかったんですよ。
大統領: だろうね。
レオ: 強硬派の連中向けに何か言わざるをえなかった。
大統領: こう言うべきだったんだよ。「私の息子が死にかけていて、彼らが息子を救えるかもしれない。我が国の国民が異教徒糾弾に莫大なエネルギーを消耗しなければ医大を設立する時間ぐらいできるだろう」と。

アヤトラが本音を言えないことは承知の上で、大統領は異文化の衝突の愚かしさを嘆いているんですよね。

二人の会話はさらに続きます。

Leo: Think about linking it to the missile test.
President: What do you mean?
Leo: Send a communique' through the Swiss. The Ayatollah's got to honor Bahrain. Stop all tests of the Shehab-3.
President: He's going to say no.
Leo: Then that's when you tell him you're going to turn the plane around.
President: No.
Leo: I said you threaten to turn the plane around.
President: No. Come on! That's a fifteen-year-old non-combatant on his way to a hospital. I want you to pretend that plane's got a big red cross on it.
レオ: ミサイル・テストを絡ませては?
大統領: どういう意味だ?
レオ: スイスを通じて公式声明を出すんですよ。アヤトラはバハレーンに敬意を払いシェハーブ3のテストを全て中止すべきだ、と。
大統領: アヤトラが同意するはずがないだろう。
レオ: 拒否した時点で、(息子が乗っている)飛行機をUターンさせる、と言うんですよ。
大統領: それはできん。
レオ: Uターンさせると脅せ、ということです。
大統領: 冗談だろう! 15才の非戦闘員が病院に向かってるんだぞ。飛行機に大きな赤十字がついてると思ってみたまえ。

バートレット大統領の最後の一言は、「無償の奉仕、慈悲、博愛というキリスト教の神髄をこういうときにこそ思い出してほしい」という意味なんですよね。

ちなみに、Red Cross(赤十字)はイスラム圏ではRed Crescent(赤三日月)で、マークも赤い三日月です(十字はキリスト教のシンボルのため)。

少年の命を政治の駆け引きに利用することを断固として拒むバートレット大統領の潔さ、ブッシュ政権の人々に見習ってほしいものですよねぇ。

もちろんこのくだりは、米国同時多発テロ9/11以降、子供だろうが老人だろうがムスリムは全員敵と見なして正当な手続き無しに投獄し、制裁を加えたブッシュ政権に対する痛烈な批判が込められたものです。

この後、バートレット大統領は、イランの右翼に父親を殺され、アメリカに亡命した外科医、ドクター・モヘビに少年の手術を依頼します。

で、

I won't aid the enemy.
「私は敵を助けるつもりはありません」

と言うモヘビに、大統領はこう言っています。

I'll let you know who the enemy is. That's my job. It's not a 15-year-old boy.
「誰が敵かは私が判断することです。それが私の仕事ですから。15才の少年は敵ではないですよ」

アメリカ国内、およびアフガニスタンなどでムスリムをだれかれかまわず投獄したブッシュ政権と、宗教や国籍に関わらず病人には救いの手をさしのべる、というバートレット政権はまさに好対照ですよね。

亡命した医師が、自分の父を殺した人間の息子の命を救う、という筋書きも、「憎しみに対して憎しみで挑まずに、憎しみにも愛で報いる」というキリスト教の神髄で、憎しみにはさらなる憎しみと武力で対応する、というブッシュ政権のやり方を皮肉ったもの。

イラク侵略戦争以降、それまではアメリカに対して中立だったムスリムまでもが強い反米感情を抱くようになってしまいましたが、読書嫌いのブッシュ氏はきっと北風と太陽のイソップ寓話を読んだことがないんでしょうねぇ。


来週は、9話をお届けします。お楽しみに!


ボキャブラリー
serviceman:軍人
cleric:聖職者
reformist:改革主義者
Shiites:シーア派
benevolent:慈悲深い
Iranian:イラン人
hard-liner:強硬派
infidel:異教徒
communique:公式声明、公式発表
combatant:戦闘員
Red Cross:赤十字



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