Updated every Monday, 更新日:8月6日
ジャーナリスト 西森マリー先生
人気海外ドラマ『ザ・ホワイトハウス』を題材に、アメリカ在住ジャーナリスト、西森マリーさんが英語の台詞とその背景をわかりやすく解説。アメリカの社会背景・文化を知れば英語の台詞もなっとく、楽しみながらアメリカの「今」を学ぼう!
ネイティブ感覚で観る『ザ・ホワイトハウス』 92
2つの文化の衝突〜西洋と東洋〜 Part 1
Clash of Two Cultures Part 1
From Season 4 episode 8, "Swiss Diplomacy"
3回にわたって、エピソード8のバックグランドの解説をお届けしています。
本題に入る前に、まず、西洋文化と東洋文化の衝突の歴史と言っても過言ではない、イランの歴史をざっとおさらいしておきましょう。
イランはその昔ペルシアと呼ばれていました。
紀元前5世紀にアケメネス朝ペルシア帝国(今のイラン、イラク)が、小アジアを支配していた時代は古代ギリシアの宿敵、紀元前3世紀から約500年間続いたパルティア王朝は古代ローマの大敵、3世紀から7世紀のササン朝ペルシアの時代はローマ帝国(4世紀以降はキリスト教の基盤)の宿敵でした。
で、中世から近代は、「西洋の大敵」という役割はアラブやトルコが受け持っていたのですが、20世紀半ばには石油の利権を巡り、欧米にとってイランの存在がまたまた無視できなくなってきたのです。
まず、1941年にイランの石油を手に入れるためイギリスとソ連がイランを占領し、パフラヴィー氏を国王とした傀儡政権を擁立しますが、10年後にイラン国民に人気のあるモサデク博士が首相に選ばれイギリスの石油会社が牛耳っていたイランの石油を国営化しました。
そのため、イギリスはアメリカと組んでモサデク政権転覆を企てます。1953年、アイゼンハワー共和党大統領の指示でCIA が工作員を派遣して、イランでクーデターを起こさせ、パフラヴィー国王の独裁体制が誕生したのです。
パフラヴィー体制下、イランではソ連のKGB に匹敵するSAVAK という秘密諜報組織が暗躍し、パフラヴィー政権に逆らうものは次々と抹殺/追放され、イスラム教シーア派の指導者アヤトラ・ホメイニ師も投獄の末、国外追放になり、フランスに亡命しました。
1979年、パフラヴィー独裁政権に不満を持つ人々が革命を起こし、ホメイニ師がフランスからイランに戻って、イランはシーア派のイスラム教国に変身(イラン革命)。
モサデク政権を裏工作により転覆させたアメリカに恨みを抱いている一般市民がテヘランにあるアメリカ大使館を占拠して、アメリカ人(非白人と女性は即釈放されたので白人男性のみ)52人が444日間人質にされました。
その後、英米独仏ソ連の支援を受けたイラクがイランを攻撃し、7年続いたイラン・イラク戦争の間、故フセイン大統領が使った化学兵器により10万人以上のイラン人が死亡。
1989年にホメイニ師は亡くなり、比較的穏健な政権が誕生しますが、右翼が司法と軍部を牛耳り、法律を盾にメディアを統制し、税金控除を受けている右翼宗教団体がイラン経済の3分の1を支配しているので、大統領や議員の多くが穏健派でも穏健な政策は施行できない、という状態が続きます。
米国同時多発テロ9/11直後は、アルカイダという共通の敵を前にしてイランとアメリカは急接近しますが、2002年にブッシュ政権がイランを悪の枢軸に入れたことで、またまたアメリカとイランの関係が悪化。
で、ブッシュ政権はイラン侵略を企む中、2005年には保守派のアハマディネジャド氏が大統領になり、イランとアメリカの関係は悪化の一途をたどるばかり、という状態です。
つまり、イランは紀元前6世紀という大昔から、ひたすらず〜っと西洋の宿敵で、近代に入ってからはアメリカの宿敵であり続けている国、というわけなのです。
これをふまえて、8話を見てみましょう。
まず、イランにアメリカとの仲介を頼まれてやってきたスイス大使と首席補佐官レオのやりとりから。
Ambassador:
The Ayatollah's son has a congenital heart condition: Eisenmenger's Syndrome. His best chance is a simultaneous heart and lung transplant.
Leo:
They asked Japan?
Ambassador:
Their procedure's different. They want yours.
Leo:
What's wrong with Japan's?
Ambassador:
Well, I don't know how to, um... No one's...
Leo:
It hasn't been successful?
Ambassador:
No.
大使:
アヤトラの息子がアイゼンメンジャー症候群という先天性心疾患で、心肺同時移植しか助かる道がないんですよ。
レオ:
彼ら(イラン側)は日本には聞いたんですか?
大使:
やり方が違って、彼らはアメリカのを希望しています。
レオ:
どうして日本じゃダメなんですか?
大使:
どうお答えしたらいいか…そのぉ、誰も…
レオ:
成功例がないんですか?
大使:
そうです。
高度な技術を必要とする手術の先進国は、アメリカ、フランス、ロシア、ドイツ、イギリス、そして日本なわけですが、レオがどうして日本と言ったのか、イランの歴史を見れば一目瞭然ですよね。
キリスト教徒が多い欧米の国々、さらにイラン・イラク戦争でイラクを応援した国々にイランが援助を申し込みたくはないだろう、という配慮があったわけです。
また、化学兵器による大量虐殺の犠牲者になったイラン人は、唯一の被爆国である日本に対して他の国よりも深く同情している、ということもあるので、宗教的にも中立で、それまでイランに被害を及ぼしたことのない日本の援助なら受けやすいだろう、ということなんですよね(それまで、というのはこのエピソードが放送された2002年11月20日まで、という意味です。2003年に日本がブッシュ政権のイラク侵略に肩入れして以来は、シーア派イスラム教国イランでも、日本がイスラム教の敵に荷担した、と見なす人が激増してしまいました)。
大使とレオのやりとりはさらに続きます。
Ambassador:
Iran has a donor.
Leo:
A donor or a dissenter?
Ambassador:
This is form Doctors Without Borders.
Leo:
It wasn't directly from the Ayatollah?
Ambassador:
They were approached by the Ayatollah's brother-in-law.
Leo:
This is coming through you, through an NGO, through the
brother-in-law? Guy's gonna put his son's life in the hands of the infidels but he'll keep his distance, huh?
Ambassador:
The hardliners control the Majlis. Things are difficult for him with the Shehab missile tests. He cannot have a problem with his right flank.
Leo:
No, much better that we should have a problem with ours. I'll talk to him.
大使:
臓器提供者はイランにいます。
レオ:
(現政権)反対派が臓器提供を強いられたんじゃないんですか?
大使:
国境のない医師団からの情報です。
レオ:
アヤトラから直接の情報じゃなくて?
大使:
国境のない医師団がアヤトラの義弟から連絡を受けたんですよ。
レオ:
つまり、義弟を通してNGO に連絡があり、それをあなたが伝えてる、ということですね? アヤトラは自分の息子の命を異教徒に託そうというのに、自分は関わりがないと見せかけようとしてるわけですな。
大使:
議会は強硬派がコントロールされてますから。シェハーブ・ミサイルのテストも迫っているので難しい立場にいるんですよ。右翼と問題を起こしたくないんです。
レオ:
でしょうな。アヤトラが(自国の)右翼と衝突するより、我々がアメリカの右翼と衝突するほうがマシでしょうから。大統領に話してみます。
レオの最後の一言は、最高裁も右翼に牛耳られてしまった(* 脚注1) 今となってはジョークとしか思えませんが、2002年の段階ではうなずけたんですよねぇ。
2002年暮れの時点では、アメリカの右派キリスト教徒は、中絶クリニックを爆破したり中絶医を射殺したりする以外は、人々の生命に直接危害を加えるような行動はとっていなかったので、民主党派の人たちは彼らの脅威を過小評価していたんですよね。
でも、今では最高裁が右翼キリスト教徒にのっとられてしまったため、環境保護から人種差別、言論の自由などのあらゆることが最高裁の判決、という形で右翼キリスト教化していて、アメリカの右翼もイランの右翼と同じぐらい巨大な力を持つに至っています。
最後に、報道官C.J. と大統領の会話を見てみましょう。
C.J.:
The Ayatollah's issued a statement.
President:
What kind?
C.J.:
Denouncing it. Bitterly denouncing it, sir. "Our nation can take care of its own. Interference from the West is an affront to Islam."
C.J.:
アヤトラが声明を発表しました。
大統領:
どんな?
C.J.:
(息子が移植手術をアメリカで受けることに対する)非難声明です。激しく非難しています。「我が国の国民は我が国で面倒を見られる。西洋の介入はイスラムに対する侮辱である」
これを聞いて大統領は激怒するんですけど、アヤトラが立場上こういう声明を出さざるを得なかったことは、みなさんはもうよくおわかりですよね。
なにしろ、イランは古代ペルシア帝国の時代からギリシアやローマから野蛮人扱いされバカにされ、中世以降はイスラム教国はキリスト教国に敵としてまたまた野蛮人扱いされバカにされてきて、ブッシュ氏はイスラム教のことを「some kind of false religion (わけの分からんエセ宗教)」とまで言ってのけたのですから。
ちなみに、ハリウッド映画でもテロリストはイラン人かアラブ人と相場が決まっているし、『アレキサンダー』や『300』でもペルシア人が敵として描かれていましたよね。
『300』の元になっているのは300人のスパルタ人がペルシアの大軍と勇敢に死ぬまで戦ったという史実が元になっていて、テルモピュラの戦いとして知られるこの戦いは西洋の民主主義(の基本であるギリシア都市国家)と野蛮な東洋人(ペルシア人)の戦いと見なされています。
で、ヒットラーがベルリン陥落直前に「Man denke nur an Leonidas und seine dreihundert Spartaner! (レオニダス王と300人のスパルタ人のことを思い出すがいい)」と言って、死ぬまで戦えと部下たちを鼓舞したことから、テルモピュラの戦いには「優越な人種の少数精鋭軍団と劣等人種の大軍の戦い」というイメージがついています。
そのため、『300』の封切り直前に、イランが「この映画はイラン(ペルシア)文明、およびイラン人(ペルシア人)を侮辱し、西洋文明こそが最高の文明であると吹聴するハリウッドの人種差別的プロパガンダだ」と抗議したことは、まだ記憶に新しいところでしょう。
紀元前5世紀に始まった西洋文明と東洋文明の衝突は、ブッシュ政権になってからエスカレートするばかり、という感じですよね。
来週は西洋文化と東洋文化の衝突を避けようとするバートレット大統領の偉大さに焦点をあてたコラムをお届けしますので、お楽しみに!
脚注
* 1.最高裁の右翼化
現在の最高裁判事の構成(定員9人)は以下の通り。右派が優勢となっており、中絶反対などの右派原理主義キリスト教徒や利潤追求を重んじる大企業優遇の判決が出されている。
極右が4人
右派だが時々公民権などを擁護するswing voters が1人
中道派の判事が4人
詳しくは過去のコラム「最も重要な大統領の仕事」
ボキャブラリー
diplomacy :外交、外交上の駆け引き
congenital :先天性
lung transplant :肺移植
dissenter :反対派
Doctors Without Borders :国境なき医師団
hardliner :強硬派
right flank :右翼
denounce :非難する
interference :干渉
affront :侮辱
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字幕:日本語・英語・日本語吹替え用字幕
音声: 英語・日本語
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次回更新日は2007年8月20日です。お楽しみに!