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ネイティブ感覚で観る『ザ・ホワイトハウス』


Updated every Monday, 更新日:7月23日

ジャーナリスト 西森マリー先生

西森先生
西森先生のプロフィール
人気海外ドラマ『ザ・ホワイトハウス』を題材に、アメリカ在住ジャーナリスト、西森マリーさんが英語の台詞とその背景をわかりやすく解説。アメリカの社会背景・文化を知れば英語の台詞もなっとく、楽しみながらアメリカの「今」を学ぼう!


ネイティブ感覚で観る『ザ・ホワイトハウス』 90
ベネズエラのクーデター
Venezuela Coup
From Season 4 episode 7, "Process Stories"
 

4回にわたって、エピソード7のバックグランドの解説をお届けしています。


今週はベネズエラのクーデターに関する話題をお届けしましょう。

まず、首席補佐官レオと参謀本部の軍人たちとの会話を見てみましょう。

Leo: Ignacio's two top generals-- Martinez and Rojas-- threw their support behind Luna, and Martinez placed Ignacio and his Vice-President under arrest.
Jack: Does their control extend beyond Caracas?
Colonel: No. Ignacio's got the PDVSA refinery at Punto Fijo.
Leo: There's 63 Americans in the refinery.
Colonel: Mr. McGarry need you to call the pertinent intelligence data and put together a two-page briefing he can give the President. So, how much time do you need?
Jack: Um... three hours?
  (Everyone begins to laugh.)
Leo: 20 minutes, son.
レオ: イグナシオ(ベネズエラ大統領)の右腕の将軍、マルティネスとロハスの二人がルナを支持して、マルティネスがイグナシオと副大統領を逮捕した。
ジャック: カラカス(ベネズエラの首都)以外の地域にも彼らの支配が及んでいるんですか?
大佐: いや、プント・フィージョのベネズエラ石油会社の精油所はイグナシオが抑えてる。
レオ: 精油所にはアメリカ人が63人いる。
大佐: マクギャリー氏が大統領に報告できるように、関連情報のデータを集めて2ページのリポートをまとめてくれ。どれだけ時間がかかる?
ジャック: えぇ…3時間ですね。
  (みんな笑い出す)
レオ: 20分でやってくれ。

ジャックがリポート制作に3時間かかる、と言って、政治/軍隊の上層部のベテランに笑われる、というくだりが、ホワイトハウスは舞台裏で常に急を要する事態に対応しなければいけない、という切迫感をもりあげていますよね。

レオがアメリカ市民に関して言及していますが、クーデターを含め、外国で緊急事態が発生したときにまず自国の市民の安否を気遣う、というのはどこの国の同じでしょう。


次に、レオが大統領にこの件を報告するシーンを見てみましょう。

Leo: It sounds like Commando Especial units under Luna broke into the refinery and took control.
President: The Americans?
Leo: They're safe. It's over.
President: Yeah. Well, we kind of knew it was going to be like this.
レオ: ルナの指揮下の特殊部隊が精油所に押し入って支配下に入れたようです。
大統領: アメリカ市民はどうなったんだ?
レオ: 無事です。これで(クーデターは)終わりです。
大統領: そうだな。まぁこんなふうになるだろうと予測はしていたよな。

大統領の最後の台詞は、「ベネズエラの政情が不安定なので、そのうちこういう結果になるだろうと予測がついていた」と解釈すべきでしょう。

レオはさらに、弁護士のジョーダンにこう言っています。

Leo: Luna took power tonight. About three dozen people are dead, and Ignacio's under arrest. He'll be dead soon.
Jordan: Well... Luna's who you wanted.
Leo: The process matters more than the outcome and that's what we wanted.
レオ: 今夜ルナが権力の座についた。36人ほど死者が出て、イグナシオは逮捕された。ほどなく殺されるだろう。
ジョーダン: あらそう…もともとルナを政権につけたかったんでしょう?
レオ: 結果より過程が大事なんだよ。我々は過程を大切にしたかったんだ。
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このやりとりで、イグナシオは反米でルナが親米であること、そしてアメリカはルナを政権につけたがっていたことが分かりますよね。

さらに、レオの最後の一言で、バートレット政権がルナを心情的には応援していたものの、ルナの起こしたクーデターには関わっていなかったこと、そして平和的な過程を経て親米政権を樹立したいと思っていたことがよく分かります。

そして、この前にバートレット大統領が「こうなると予測していた」と言っているので、バートレット政権はベネズエラでクーデターが起きるだろうと予測はしていたけれど、それを事前に防ぐ行動(=ベネズエラ政権の内政干渉)は避けた、ということも分かります。


実は、これは2002年の4月11日に、実際にベネズエラで起きたクーデターはブッシュ政権の仕業では? という南米アナリストたちの分析をもとに書かれたシナリオなんですよね。

ベネズエラのシャヴェス大統領は低所得者から圧倒的な支持を得て正当な選挙で選ばれた大統領ですが、平等主義/社会主義的な政策を推し進めているため、大企業や金持ちは彼を忌み嫌っています。

で、4月に反シャヴェス派と一部の軍人がクーデターを起こし、ビジネスマンのペドロ・カルモナが2日間暫定大統領に就任しましたが、軍部と国民の大多数がシャヴェス氏を支持し、シャヴェス派の軍人が政権を奪還し、シャヴェス氏が大統領の座に返り咲きました。

ベネズエラは世界第五位の産油国でアメリカの石油の13%はベネズエラ産なので、ベネズエラの石油会社の利権絡みで石油業界と親密な関係を持つブッシュ政権にとっても石油の利益を全てベネズエラ国家のものとしたいシャヴェス大統領は宿敵とも言える存在。

さらに、ブッシュ政権の要人、エリオット・エイブラムズ氏、ジョン・ネグロポンテ氏、オットー・ライヒ氏は、社会主義的な思想を目の敵にしている人物で、子ブッシュ政権発足直後からカルモナ氏などのシャヴェス転覆を画策する人々をホワイトハウスに招いていたし、クーデター勃発直後のホワイトハウスの記者会見もやたら怪しかったので、南米アナリストたちは「このクーデターはブッシュ政権が陰で糸を引いている」と主張していたのです(3人とも、レーガン政権がイランへの武器売却代をニカラグアの反政府ゲリラ「コントラ」に渡していたという「イラン・コントラ事件」の黒幕でした)。

クーデター勃発直後で、まだその後の見通しが立つどころか現状さえ全貌がつかめていない段階で行われた、2002年4月11日の記者会見の一部をご紹介しましょう。

記者に「イラクのサダム・フセインが石油輸出を30日間停止する、と発表しましたが、中東からの石油輸入が減ることの悪影響は?」と聞かれて、ブッシュ政権広報官は、なんと平然とこう答えたのです。

I think it's fair to say that as of today, the confluence of events in Venezuela, the decision by Iraq to shut off its oil supplies, has not created an impact in the markets.
「ベネズエラの動向を鑑みると、イラクが石油供給をストップしても市場にインパクトがないと言えるでしょう」

ちょうどブッシュ政権が「イラクがWMD(大量破壊兵器)*脚注1)を持っている」とか、「イラクに民主主義をもたらすため」などの大義名分にかこつけてイラクを侵略したがっていた最中の記者会見だったんですけど、カルモナ暫定政権がどうなるのか全く見えない段階で「ベネズエラの石油がちゃんとアメリカに来る」と断言している、としか解釈できないこの一言は、やはり怪しいですよねぇ。

この後も、ブッシュ政権広報官は、クーデターの実情が明確になっていない段階から、「シャヴェス政権が平和的にデモ行進していた反シャヴェス派の人々に発砲して10人死亡した」、などの発言を繰り返していましたが、クーデターが失敗した後、アマチュア・カメラマンが撮ったビデオのおかげで、これが事実無根のプロパガンダで、実際には反シャヴェス派が先に発砲した可能性が高いことが発覚しました(実際には20人が死亡し、約100人が負傷しています)。

また、ブッシュ政権は「このクーデターには関与していないし、事前に情報をつかんでもいなかった」と主張していましたが、2004年11月に情報公開法によって明らかにされた文書で、CIAが微に入り細にわたった情報をつかんでいて、2002年4月6日(クーデターが起きる5日前)にはホワイトハウスに詳しい報告書が提出されていたことが発覚しています。

で、この報告書の中に、

To provoke military action, the plotters may try to exploit unrest stemming from opposition demonstrations.
「軍事行動に発展させるために、クーデターを企んでいる者たちは反シャヴェス派のデモによる混乱を悪用するかもしれない」(つまり、デモ隊をけしかけて軍部に発砲させるかもしれない、という意味)

と書いてあったんですよね。そのため、アナリストたちは「ブッシュ政権はクーデターに関与はしていなかったのかもしれないが、ここまで知っていながらシャヴェス政権に何も知らせなかったのは無責任にもほどがある」と怒りをあらわにしていました。

クーデターが軍事行動に発展して人が死ぬことが分かっていても見て見ぬふりのブッシュ政権と、親米政権樹立は結果よりも過程が大切、というバートレット政権の差がハッキリ分かるこのエピソード、実際のベネズエラのクーデターと照らし合わせながら見るとさらに深く味わえますよね!


脚注
*1.WMD(大量破壊兵器)
Weapons of Mass Destructionの略語で、一般的に、WMD(「ダブリュー・エム・ディー」とアルファベット読み)と呼ばれている。


関連リンク
公開されたCIAの文書
http://www.democracynow.org/
http://lanr.blogspot.com/
http://www.handsoffvenezuela.org/
http://www.venezuelasolidarity.org/

ブッシュ政権要人とクーデター首謀者との関係
http://observer.guardian.co.uk/


ボキャブラリー
coup:クーデター
general:将軍
under arrest:逮捕されて
refinery:製油所
dozen:12の
outcome:結果
provoke:誘発する



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字幕:日本語・英語・日本語吹替え用字幕
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