Updated every Monday, 更新日:6月11日
ジャーナリスト 西森マリー先生
人気海外ドラマ『ザ・ホワイトハウス』を題材に、アメリカ在住ジャーナリスト、西森マリーさんが英語の台詞とその背景をわかりやすく解説。アメリカの社会背景・文化を知れば英語の台詞もなっとく、楽しみながらアメリカの「今」を学ぼう!
ネイティブ感覚で観る『ザ・ホワイトハウス』 84
投票の難点〜「フュージョン」制度の落とし穴〜
Voting Problems
From Season 4 episode 6, "Election Night"
今週から3回にわたってシーズン4の第6話を詳しく説明していきましょう。
今回は投票の難しさに関する話題を。
まず、投票所に赴いた次席補佐官ジョシュと、彼に質問を浴びせる人々のやりとりを見てみましょう。
Man:
You're Josh Lyman, aren't you?
Josh:
Yeah.
Man:
Yeah. I've seen your picture a lot. Can I ask you something?
Josh:
Sure.
Man:
Bartlet's on the ballot for the Democratic Party and for the Statehood Party. It's okay that I voted for him in both columns, right?
Josh:
No, you can't vote for him in two columns.
Man:
I already did.
Josh:
You're ballots going to be invalidated.
Man:
What the hell for?
Josh:
You're only allowed to vote once.
Man:
He's on the ballot twice.
Josh:
He's on the ballot more than that. He's on the ballot as the Liberal Party nominee...
Man:
I'm saying I'm for statehood.
Josh:
Me, too, and I'm saying yours is a vote we didn't get.
男性:
あんた、ジョシュ・ライマンさんだよね?
ジョシュ:
ええ。
男性:
だと思った。あんたの写真、何度も見たことあるから。ちょっと聞いていいかい?
ジョシュ:
どうぞ。
男性:
バートレットは民主党だけじゃなくて州自治党の候補でもあるから、僕は両方の欄でバートレットに投票したんだけど、大丈夫だよね?
ジョシュ:
いいえ、二つの欄で彼に投票しちゃダメです。
男性:
もうそうしちゃったんだ。
ジョシュ:
あなたの投票は無効になります。
男性:
いったいなぜ?
ジョシュ:
投票できるのは一度だけだからですよ。
男性:
彼の名前は二度出て来るんだぞ。
ジョシュ:
彼は自由党が推してる候補者でもあるから彼の名前は2度以上出てきます。
男性:
僕は州の自治はいいことだと思うが。
ジョシュ:
私もですが、あなたの投票は無効ってことなんですよ。
アメリカは州によって選挙法が大幅に異なり、コネチカット州、デラウェア州、アイダホ州、ミシシッピー州、ニューヨーク州、サウス・カロライナ州、バーモント州では同一候補者を複数の党が推すこと(フュージョンと呼ばれています、fusion :融合)が許されているんですよね。
ですから、そうした州では、バートレット大統領が複数の小さな党の指名候補者となっている、というこの設定は「起こりうる状況」なのです(ただし、ジョシュが訪れた投票所が存在すると思われるワシントンD.C. では、フュージョンは基本的には禁じられています)。
フュージョンが許されている州でも、投票できるのは有権者一人あたり一度限りなので、複数の候補者に投票してしまうと、その投票は無効になってしまうんですよね。
ですから、候補者自体が同一人物でも民主党のバートレットと別の党からの候補者としてバートレットに投票したら、それは二度投票した、ということになり、その票は無効になります(票は、党ごとにまず集計されますが、最終的には候補者別に集計されるので、民主党のバートレットの票も州自治党のバートレットの票もバートレットの票としての得票がまとめられます)。
これって、常識的に考えればごく当たり前のことなんですけど、選挙になれていない人とか、お年寄り、あるいはアメリカに移民したばかりでちょっと複雑な英語の指示はよく理解できない人などは、同一候補者の名前が二度以上出てきたりすると、間違って二度以上投票してしまうこともあったりするわけなので、バカにできない問題なのです。
ちなみに、フュージョンは19世紀まではアメリカ全土で許可されていました。
フュージョンの利点は、小さな党の支持者の票が無駄にならない、ということ。
小さな党が当選の可能性のない候補者をノミネートすると、支持者たちは「どうせ投票しても当選するはずがない」と分かっているため、わざわざ投票所に行かないことが圧倒的に多いんですよね。
でも、小さな党が二大政党の候補者をノミネートすれば、「二大政党の方針は嫌いだが、この候補者個人のポリシーには賛成できる部分が多い」と思える小党の支持者たちは投票所へ向かい、彼らの一票が意義あるものになるのです。
たとえば、もし2000年の選挙で緑の党がラルフ・ネイダーではなくゴア氏をノミネートしていたら(ゴア氏は環境保護の先駆者なので、緑の党の支持者の中には民主党全般の方針には反対でもゴア氏の環境政策には賛成している人がたくさんいます)、フロリダでもゴア氏が勝つことができたんですよね(フロリダの最終結果は、ブッシュ:2,912,790 票、ゴア:2,912,253票、ネイダー:97,421票でした)。
このやりとりの直後、実はこの人たちは広報部長トビーが雇った劇団員で、ジョシュをからかっていた、ということが判明するのですが、その後も劇団員の男性に、
Do you happen to know if I need to be... I don't know, pre-registered or something?
(投票するためには)前もって有権者登録とかしなきゃならないのかどうか、ひょっとしてご存じですか?
とからかわれ、ジョシュは、
と叫んでいます。
この後、ホワイトハウスに戻ったジョシュは、秘書のドナが線の引き方を間違って、誤って共和党に投票してしまったことが発覚します。
ドナとジョシュの会話を見てみましょう。
Donna:
This is a photocopy of my absentee ballot. I was hoping the President could sign it and I'd have it framed.
Josh:
Yeah.
Donna:
You know the President's the first winner I've voted for.
Josh:
Is this a joke?
Donna:
It's not hard to believe that...
Josh:
No, I mean this.
Donna:
What are you talking about?
Josh:
Toby already did the thing this morning with the invalid ballots.
Donna:
My ballot's invalid?
Josh:
This isn't a joke?
Donna:
It's invalid?
Josh:
You voted for Ritchie.
ドナ:
これ、私の不在者投票用紙のコピー。大統領にサインしてもらって額に入れようと思ってるの。
ジョシュ:
ふ〜ん。
ドナ:
勝者に投票するのはこれが初めてだから。
ジョシュ:
これって冗談?
ドナ:
信じがたいことじゃないわよね…
ジョシュ:
いや、マジで。
ドナ:
何言ってるの?
ジョシュ:
今朝もうトビーに無効票に関するいたずらをされたってのに。
ドナ:
私の票、無効なの?
ジョシュ:
これ、冗談じゃないわけ?
ドナ:
これ、無効なの?
ジョシュ:
君はリッチーに投票したんだ。
この一連のやりとりは、2000年の大統領選でフロリダのパーム・ビーチ・カウンティの投票用紙がわかりにくかったため、ゴア氏に投票しようとした人々の多くが間違ってブキャナン氏(改革党)に投票してしまった史実を皮肉ったものです。
パーム・ビーチの投票用紙を見てみましょう。
(以下のURLをクリックしてください)
http://archives.cnn.com/
http://www.asktog.com/columns/
ごらんのように、左側に上から順に共和党のブッシュ/チェイニー、民主党のゴア/リーバーマン、以下4つの党の候補者たちが並び、右側に上から順に改革党のブキャナン/フォスター、以下3つの党と記入投票の欄があり、真ん中に黒い丸が10個あって、有権者は投票したい候補のすぐ横にある黒丸に穴を開ける、というもの。
でも、共和党と民主党の候補者にしか目が行かなかった人々の中には、左側だけを見て、ゴアは上から二番目なので上から二番目の黒丸に穴を開けてしまった人がたくさんいたのです。
特に、パーム・ビーチは老後を暖かいフロリダで過ごしている老人のコミュニティーが多いため、目の悪いお年寄りの中にこのような間違いをした人が多かったのです。
パーム・ビーチでのブキャナン氏の得票数は3,407票。他のカウンティ、および他の州でのブキャナン氏の得票を遙かに上回る得票率でした。
上から2番目の黒丸と3番目の黒丸の両方に穴を開けて無効になった票が5,330票もありました。
パーム・ビーチにはユダヤ人の老人ホームが多いので、ユダヤ人差別発言で有名なブキャナン氏が多くの票を獲得できるとは信じがたいため、これはゴアに投票しようとして上から2番目の黒丸に穴をあけ、間違いに気づき3番目の黒丸にも穴を開けた人の票である可能性が圧倒的に高いんですよね。
ブキャナン氏自身も、選挙の数日後にこう言っています。
When I took one look at that ballot on Election Night ... it's very easy for me to see how someone could have voted for me in the belief they voted for Al Gore.
「選挙の日の夜にあの投票用紙を一目見て、アル・ゴアに投票したつもりで私に投票してしまった人がいたのだろうと、たやすく想像がつきました」
ドナは、この後、ウィスコンシン州での過ちをワシントンD.C. で正そうと、近くの投票所の前で共和党支持者を呼び止めては「私の間違いを相殺するためにバートレット大統領に投票してください」と懇願します。
この無謀で理不尽な行為は当然のことながら、多くの人に小馬鹿にされるだけなのですが、ドナは、
It's an honor thing.
道義心の問題よ
と言うんですよね。
このドナの一言は、2000年の大統領選挙でフロリダの有権者の真意が無視されたことに対する民主党支持者の不満を見事に言い表しています。
共和党陣営に道義心があったら、少なくともパーム・ビーチでの選挙をやり直していただろう、という皮肉が込められているのです。
史実と照らし合わせながら見ると、このエピソードをより深く味わうことができますよね。
来週は、選挙に勝つための様々な要因に関する話題をお届けします。お楽しみに!
関連コラム
ボキャブラリー
vote :票、投票
ballot :投票用紙
Democratic Party :民主党
invalid :無効な
absentee ballot :不在者投票用紙
ザ・ホワイトハウス ― フォース・シーズン コレクターズ ボックス 発売中!
価格:¥11,918(税込)
字幕:日本語・英語・日本語吹替え用字幕
音声: 英語・日本語
DVD発売元:ワーナー・ホーム・ビデオ
>> アマゾンで購入する