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ネイティブ感覚で観る『ザ・ホワイトハウス』


Updated every Monday, 更新日:5月14日

ジャーナリスト 西森マリー先生

西森先生
西森先生のプロフィール
人気海外ドラマ『ザ・ホワイトハウス』を題材に、アメリカ在住ジャーナリスト、西森マリーさんが英語の台詞とその背景をわかりやすく解説。アメリカの社会背景・文化を知れば英語の台詞もなっとく、楽しみながらアメリカの「今」を学ぼう!


ネイティブ感覚で観る『ザ・ホワイトハウス』 80
真のディベートv セールス・トーク
Real Debate v. Pitching a Story
From Season 4 episode 5, "Game On"
 
今週から4回にわたって第5話に関して詳しく説明していきますね。

今回は、厳しい時間制限のあるテレビのディベートは真のディベートではなく、ただのセールス・トークになってしまうことが多い、という現状に関する話題をお届けしましょう。

まず、バートレット陣営がディベートのリハーサルをしているシーンを見てみましょう。

President: Ten words. Ten words.
Josh: We don't have them yet, Mr. President.
President: All right, let's do a drill.
C.J.: Mr. President, despite a rise in tension around the globe, you've held up funding for a missile defense shield.
President: Too much money for too little protection.
All: Good.
President: Next.
Josh: Sir, you oppose a voucher system that would offer children a choice of better schools...
President: That would offer some children a choice of better schools, but I haven't given up the ghost on better schools for everybody, and vouchers drain money from that goal.
大統領: 10語、10語だ。
ジョシュ: 大統領、まだ10語での説明(10語で説明する文章)はできていません。
大統領: 分かった。ドリルを始めよう。
C.J.: 大統領、世界で緊張感が高まっているのにあなたはミサイル防衛シールドへの予算を出し渋っています。
大統領: 莫大な費用がかかるのにほとんど防衛ができないからです。
みんな: いい答えだ。
大統領: 次。
ジョシュ: 生徒がよりよい学校に移ることを許す転校券システムに反対する理由は?
大統領: 転校券システムでよりよい学校に移れる生徒の数は限られていますが、私はあらゆる生徒によりよい学校を、という夢をまだあきらめていません。転校券はそのゴール達成のための資金から予算を奪うだけです。

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school voucher system(転校券システム)」とは、成績の悪い公立学校の生徒のほんの数人に「school voucher(転校券)」(私立の学校へ転校するための資金援助)を与えて、質の高い私立学校へ転校させてあげる、というものです。

ブッシュ兄弟が知事を務めていたテキサス、フロリダでは既に実施されていますが、この恩恵にあずかれるのはほんの数パーセントの生徒にすぎないため、その他大勢の公立学校の生徒たちは成績の悪い公立学校に取り残されてしまうだけなんですよね。

ですから、民主党は連邦/州政府の教育予算は転校券にあてて無駄遣いすることを避け、公立学校の建て直しそのものにあてるべき、という方針を採っています。


次に、大統領、及びホワイトハウスのスタッフがten wordsにこだわる理由を説明するレオの一言を見てみましょう。

It's a debating phrase. It has to do with making things simpler.
ディベートのフレーズだよ。ものごとを簡素化しなきゃならない、ってことだ。

アメリカではよく映画の脚本をスタジオに売り込むときに「ストーリーラインを10ワード以下で説明せよ」と言われています。

これは、スティーヴン・スピルバーグが「10ワード以内で説明できないような複雑な映画はそもそも作る価値がない」と言ったからだと言われているんですけど、確かにアメリカで大ヒットになる映画のほとんどが単純明快な筋書きのものなんですよね。

ですから、大衆受けするためにはディベートの内容も10ワード以下で説明できる超簡素化したものにしないと、ふつうの視聴者(有権者)の頭の中に残らないし、そもそもテレビやラジオのニュースで候補者のコメントとして扱ってもらえない、ということなのです。

実際、アメリカの選挙ではメディアのリポーターが候補者によく 「Please describe what you stand for in ten words or less.(あなたの政権方針を10ワード以内で説明してください)」と言っています。

テレビ、ラジオのニュース・リポートのワン・セグメント(1〜2分)に収まり、一般大衆の集中力が持続する時間にも収まり、有権者の印象に残るキャッチーな文章を追求していくと、どうしてもバンパースティッカーのような単純明快な短い文章になってしまう、ということなんですよね。


次に、超安直化のうまいリッチー共和党フロリダ知事(2000年の選挙当時テキサス知事だったブッシュ氏がモデル)とバートレット大統領のディベートを見てみましょう。

Moderator: Governor Ritchie, many economists have stated that the tax cut, which is centrepiece of your economic agenda, could actually harm the economy. Is now really the time to cut taxes?
Ritchie: You bet it is. We need to cut taxes for one reason―the American people know how to spend their money better than the federal government does.
司会者: リッチー知事、あなたの経済方針の中核をなす減税は経済を悪化させる、と多くの経済学者が言っています。本当に今が減税にふさわしい時なのですか?
リッチー: もちろん。減税しなきゃならん理由を教えてあげましょう -- 連邦政府よりアメリカ国民のほうが自分たちのお金の使い方を心得ているからですよ。

リッチーの答えはまさにブッシュ氏が2000年の選挙以来繰り返し言っていることなんですよね。

ブッシュ氏は、税金の話題になると必ず国民に、

It's your money.
「それ(税金)はあんたらのおカネだ」

と言うんですよ。
で、その後に、

We ought to send some of your money back to the people who pay the bills.
「あんたらのカネの一部を、家計をまかなってる人々に送り返してやるべきだ」

Let the American people spend their own money to meet their own needs.
「アメリカ国民が自分の必需品を自分のカネで買えるようにしてやろう」

The people of America have been overcharged and on their behalf, I’m here asking for a refund. Some say my tax plan is too big, others say it’s too small. I respectfully disagree. This plan is just right.
「アメリカ国民は自分たちのために高過ぎる税金を課せられ続けてきたんで、私は返金を要求する。私の減税プランは額が大きすぎるとも小さすぎるとも言われているが、そのどちらでもない。このプランの減税額はちょうどいいのだ」

と力説するんですよね。
どの一言も、バンパースティッカーになる簡潔で分かりやすい文章なので、ブッシュ氏の減税政策は「非常に分かりやすいアメリカ国民のお金を守ってくれる政策」だと思われ、多くの人々から支持されてしまうのです。

もちろん、ブッシュ氏の減税政策は富豪や大企業のための減税であって、中産階級以下の人はほとんど得をすることはなく、下層階級の人は損ばかり、というものなんですけど、税金に関して、

It's your money.
「それはあんたらのカネだ」

と言われてしまうと、下層階級の人々も「政府に税金を払っていろいろな社会保障政策を作ってもらうより、減税で手元に残ったカネを使って自分にとって得策となることを自分で考えて実行したほうがいい」と思いこんでしまうんですよねぇ。

ブッシュ政権って政策説明の簡素化が本当にうまいので、いつもひたすら感動させられてしまいます。


最後に、リッチーのこの回答に反駁したバートレット大統領の一言を見てみましょう。

That's the ten-word answer my staff's been looking for for two weeks. There it is. Ten-word answers can kill you in political campaigns. They're the tip of the sword.
今のがまさに私のスタッフが2週間ずっと探し求めていた10ワードの答えです。お見事。10ワードの答えで政治生命が絶たれることもあります。10ワードの答えは剣の先端ですよ。
Here's my question: What are the next ten words of your answer? Your taxes are too high? So are mine. Give me the next ten words. How are we going to do it? Give me ten after that, I'll drop out of the race right now.
質問させていただきたい。あなた次の10ワードの答えはどんなものになるんですか?「あなたの税金は高すぎる」ですか? わたしも(あなたの税制に対して)同じ事が言えますよ。その次の10ワードの答えは? 減税の後のどうやって予算を獲得するつもりなんですか? 10ワードで次々と答えてくだされば、今ここで私は大統領選から身を引きましょう。
Every once in a while... every once in a while, there's a day with an absolute right and an absolute wrong, but those days almost always include body counts. Other than that, there aren't very many unnuanced moments in leading a country that's way too big for ten words.
たまに…たまに白黒の区別を明確につけられるというケースに遭遇することがありますが、そういう時は決まって死者が出ます。そういう例外をのぞいては、10ワードでは表現し尽くせないこの大きな国を率いるという仕事は、微妙で複雑なニュアンスに満ちているのです。
I'm the President of the United States, not the President of the people who agree with me. And by the way, if the left has a problem with that, they should vote for somebody else.
私は合衆国の大統領であり、私と同意見の人々のみの大統領ではありません。リベラルな人々の中に私の見解に反対な方がいたら、私以外の候補者に投票してください。

バートレット大統領のこの一言は、字面を追っているだけではわかりにくいかもしれないので、いくつか説明を加えておきますね。

まず、税制に関して。
共和党は「民主党が政権を取ると増税する」という脅しで票を集めることが非常にうまいんですよね。

でも、実際には民主党はほんの一部の億万長者や大企業への税金は上げても、一般庶民に対する増税は反対しています。

共和党はこの逆で、富豪と大企業に対しては減税してあげて、中産階級以下の税率を上げる、という政策を採っているんですよね。

ですから、リッチーが「民主党は税金が高すぎる」と言ったら、大統領も「共和党こそ中産階級以下の一般市民に対する税率が高すぎる」と反駁できる、ということなのです。


次に、アメリカが10ワードでは表現し尽くせない大きな国、というコメントに関して。

これも、まさに民主党の考え方なんですよね。 共和党はアメリカに関して「アメリカはキリスト教徒の自由と正義の国」と、バンパースティッカーに収まる定義を提示できますが、様々な宗教/文化/伝統/人種/価値観の共同体である民主党はアメリカを10ワードでは定義できないわけです。

大統領のこの一言の後、バートレット政権は政権方針を簡略化して表現する、という戦略を止めるんですけど、アメリカの政治の現状は残念なことに「バンパースティッカーに収まるスローガンでうまくPRしたほうが勝ち」という状況が続いています。


こうしたPR合戦の犠牲者として最も有名なのはジョン・ケリー氏です。

2004年のキェンペーン中、ブッシュ陣営が「ケリーはイラクで戦っている兵士たちに防護服を与えるための870億ドル(約10兆円)の予算案に反対票を投じた。」と、ケリー氏を攻撃したとき、ケリー氏はこう言ったのです。

I actually did vote for the $87 billion before I voted against it.
「実際は、私はあの870億ドルの予算案に最初は賛成したのですが、後で反対しました」

このすぐ後、ケリー氏は、「年収30万ドル(3,600万円)以上の人に対する減税額を縮小して870億ドルを捻出する、という法案だったときは賛成したが、共和党に減税額収縮案を潰されて単に赤字を激増させるだけの法案と化してしまったので、反対した。中産階級の子供たちが戦場で戦っているのに、金持ちは何の負担も担わない、というのは不公平だから」と説明したのですが、メディアではI actually did vote for the $87 billion before I voted against it.という一言のみが繰り返し報道され、ブッシュ陣営もこのコメント引用して「ケリーはflip-flopper(意見をコロコロ変える節操のないヤツ)だ」というCMを流したため、ケリーは主義主張に一貫性のない日和見主義者、というイメージが定着してしまったんですよね。

こうした史実をふまえて鑑賞すると、このエピソードをさらに深く味わえますよね。


来週は、選挙キャンペーン中に候補者が死亡した場合に関する話題をお届けします。お楽しみに!


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ボキャブラリー
voucher:割引券、賞金引換券
tax cut:減税
sword:剣



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