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ネイティブ感覚で観る『ザ・ホワイトハウス』


Updated every Monday, 更新日:4月9日

ジャーナリスト 西森マリー先生

西森先生
西森先生のプロフィール
人気海外ドラマ『ザ・ホワイトハウス』を題材に、アメリカ在住ジャーナリスト、西森マリーさんが英語の台詞とその背景をわかりやすく解説。アメリカの社会背景・文化を知れば英語の台詞もなっとく、楽しみながらアメリカの「今」を学ぼう!


ネイティブ感覚で観る『ザ・ホワイトハウス』 75
キャッチフレーズで決まる政治
Bumper Sticker Politics
From Season 4 episode 3, "The Red Mass"
 

5回にわたって、エピソード3のバックグランドの解説をお届けしています。


今週は、単純明快で覚えやすいキャッチフレーズがアメリカの選挙でいかに重要か、ということに関する話題をお届けしましょう。

共和党はレーガン政権の時代からこういうキャッチフレーズを作るのが得意なんですよね。

たとえばレーガン政権の麻薬対策のキャッチフレーズ「Just Say No!(麻薬に対して「とにかくノーと言え!」)」。

これは「単にノーと言えば、それだけで麻薬撲滅ができる」というニュアンスも与えてくれます。

だから、アメリカ人の半数のあまり深く考えることが好きではない層の人々が「一般市民が簡単に実行できて効き目のある政策」だと思いこんで、「レーガンはすごい!」とレーガン氏を賛美していたのです。

なにしろアメリカの選挙戦ではTVコマーシャルが大々的に使われるため、こうしたキャッチフレーズが他のどの国よりも大きな効果を発揮します。

また、候補者の演説もテレビのニュースではほんのちょっとしか使われないので、候補者はどうしても数秒から十数秒に収まるキャッチーなフレーズを言わざるを得なくなっているのです。

ですから、政治家の多くが政治に関して深く掘り下げて徹底的に詳しく語り合う真のディベートや真の政治演説には目もくれず、有権者の心に残り、なんとなくいい気分にさせてくれるキャッチフレーズ作りばかりに労力を費やしているんですよね。

この悪しきトレンドは「bumper sticker politics(バンパースティッカー政治)」(バンパースティッカーの文句になりえるキャッチーなスローガンだけの政治)、または「politics of sound bites(演説やコメントのごく一部だけを抜粋した短い言葉で決まる政治)」と言われ、民主党派の人々の多くがこのトレンドを憂っています。

こうしたアメリカの政治の現状をふまえて、次席補佐官ジョシュと彼の秘書ドナのやりとりを見てみましょう。

Josh: Teddy Tomba.
Donna: What about him?
Josh: Well, he has millions of followers worldwide, has a $20-billion empire of self-help seminars...
Donna: I know who Teddy Tomba is.
Josh: ...workbooks, board games...
Donna: Seminars?
Josh: Capitol Sheraton, tomorrow morning 10:00 AM. Your registration's been prepaid.
Donna: Why?
Josh: We're efficient.
Donna: Why I am going?
Josh: He's consulted for Ritchie in the last few weeks, and I would like for that to be embarrassing for Ritchie.
ジョシュ: テディ・トンバ。
ドナ: 彼がどうしたの?
ジョシュ: 彼は世界中に何百万人ものファンがいて、200億ドル(約2.4兆円)も稼ぐ自己啓発セミナー帝国を築いた人物だ。
ドナ: そんなこと知ってるわよ。
ジョシュ: 自己啓発の問題集やゲームも…
ドナ: セミナーが何なわけ?
ジョシュ: 明日の朝10時にキャピトル・シェラトン・ホテルに行ってくれ。セミナー参加費はもう払ってある。
ドナ: なんで?
ジョシュ: 手際がいいからだよ。
ドナ: (なぜもう払ったかじゃなくて)なんで私が行くの?
ジョシュ: ここ数週間にわたって彼がリッチーの相談役を務めていたからだ。この事実をリッチーにとって不利なことにしたいんだよ。

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アメリカには自己啓発本やセミナーで大金持ちになった人がたくさんいて、彼らの多くが「ポジティブなスローガンを唱えて自己暗示にかければ成功を収められる/問題を解決できる」と説いています。

テディ・トンバは架空の人物ですが、彼のモデルになっているのは、自己啓発セミナー主催者で最も有名なトニー・ロビンスで、ロビンス氏の教えの根底に流れている思想は「精神統一して『できる』と信じれば火の上も歩けるが、faith(信じる心)がなければやけどを負う」というものなのです。

ですから、アメリカ人だと、ジョシュとドナのこのやりとりを見ただけで、これがポジティブなキャッチフレーズや洗脳がうまい(でも内容は伴わない)ブッシュ政権を皮肉ったものだと分かるんですよね。


次は、ドナがセミナーから帰ってきた後のシーンを。 偉人や哲学者が書いた長い論文や本からキャッチーなフレーズを盗み、それに勝手な解釈を加えて自己啓発の持論として発表しているトンバに嫌悪感むき出しのジョシュとドナのやりとりを見てみましょう。

Donna: "Look outside the cave."
Josh: Right. That's from an old paperback called "The Republic" by Plato. Lucky Tomba's been able to fit on fortune cookie so it suits the attention span of the Republican nominee. Here he quotes Robert Frost. "Good fences make good neighbors." Did he talk about that?
Donna: Yeah.
Josh: What did he say?
Donna: Basically, that if you stay within your personal space, you'll end up getting along with everyone.
Josh: You had to study modern poetry.
Donna: Yes.
Josh: Is that what Frost meant?
Donna: No, he meant that boundaries are what alienate us from each other.
Josh: Why did he say "Good fences make good neighbors?"
Donna: He was being ironic, but I still don't see...
Josh: What does this remind you of? "I believe in hope, not fear." "I'm a leader, not a politician." "It's time for an American leader." "America's earned a change." "I before 'E' except after 'C'!" It's the fortune-cookie candidacy! These are important thinkers, and understanding them can be very useful and it's not ever going to happen at a four-hour seminar.
Josh: When the President's got an embassy surrounded in Haiti, or a keyhole photograph of a heavy water reactor, or any of the fifty life-and-death matters that walk across his desk every day, I don't know if he's thinking about Immanuel Kant or not. I doubt it, but if he does, I am comforted at least in my certainty that he is doing his best to reach for all of it and not just the McNuggets.
Josh: Is it possible we would be willing to require any less of the person sitting in that chair? The low road? I don't think it is.
ドナ: (トンバの持論を読みながら)「洞窟の外を見ろ」
ジョシュ: うん、それはプラトンが書いた大昔の書物『国家』からの抜粋だ。幸運にもトンバはこれをフォーチュン・クッキーの文句みたいに扱って、共和党候補リッチーの集中力が続くだけの短い時間にフィットさせることができたわけだ。ロバート・フロストの引用もあるぞ。「良い柵は良い隣人を作る」トンバはこの一言に関しても何か言ってた?
ドナ: ええ。
ジョシュ: なんて言った?
ドナ: 自分の空間の中にとどまっていれば、みんなとうまくやっていける、っていう感じだったわ。
ジョシュ: 君は現代詩を勉強したんだろう?
ドナ: ええ。
ジョシュ: 今の解釈がフロストの意図か?
ドナ: いいえ。境界線は人と人とを疎遠にする、という意図で彼はそう言ったのよ。
ジョシュ: なぜ彼は「良い柵は良い隣人を作る」と言ったんだ?
ドナ: 皮肉でそう言ったの。でもどうして…
ジョシュ: こういうフレーズを聞くと思い出すだろう?「重要なのは希望だ。恐怖ではなくて」「私はリーダーであり、政治家ではない」「今こそアメリカのリーダーの出番」「アメリカには変化が必要」「Cの後以外はEの前にI*脚注1)」フォーチュン・クッキーの文句を使った選挙だよ! 偉大な思想家の考えを理解するのはとても重要なことで、たった4時間のセミナーなんかじゃ絶対分かりっこない。
ジョシュ: ハイチでアメリカ大使館が包囲されてるとか、重水炉の暴露写真を見せられるとか、大統領は毎日50個ぐらいの生死に関わる問題に直面するわけで、そういう時に彼がイマヌエル・カントのことを思っているかどうかは僕には分からない。まぁ、カントの哲学のことなんかは考えてはいないとは思うけど、もし考えていたとしたら、少なくとも彼(バートレット大統領)はカントの書物のほんの一節ではなく全てを理解している、と僕は確信できるから、それで心が安らぐんだ。
ジョシュ: 理性や知性がそのレベルに達していない人物を大統領の座に就けたいと思うかい? そんな恥ずべき道を選ぶのか? 冗談じゃない。

ジョシュの台詞は、ディベートは嫌いで、他人の意見に対しては全く聞く耳を持たず、大衆にウケるキャッチフレーズを一方的に言いっぱなしにするだけ、というリッチー(=ブッシュ氏)に対する痛烈な批判です。

微妙なニュアンスを理解する能力を必要とする話や複雑な話題をちゃんと話したいバートレット政権と、10〜15秒に収まる簡潔な印象深い言葉で全てを決めようとするリッチーとの対比が見事に描かれていますよね。


マイケル・ガーソン、カレン・ヒューズ、カール・ローヴなどがブッシュ氏のスピーチや政策を制作・管理し、「Axis of Evil(悪の枢軸)」、「death tax(死税)」、「tax relief(減税)」、「Healthy Forest Initiative(健康森林発議)」、「Clean Air Act(大気浄化法)」、「Clear Skies Initiative(澄んだ空の発議)」などのウケのいいフレーズを作り上げていることは以前にも何度かお話ししていますが、実は共和党政権が送り出すキャッチフレーズは常人の想像を絶するほど巧みなのです!

共和党の人々は、light、faithという言葉を使うのが大好きで、特に親ブッシュ氏が1988年の選挙キャンペーン中に頻繁に使っていた「a thousand points of light(千束の光)」というフレーズは今でも覚えている人が多いんですよね(「私には千束の光が見える」とか、「私はアメリカを千束の光に向かって前進させる」などの形で使われていました)。

で、このフレーズ、ごくふつうの人には「なんか明るい感じはするけど意味不明の言葉」としか思えないのですが、原理主義キリスト教徒が聞くと条件反射的に光り輝く十字架とか後光がさんさんと差しているイエス・キリストのイメージが心の中に思い浮かぶのです。

faithという言葉も、ふつうの人は「信じる心、信念、自分が信じている宗教に対する信仰」という概念で受け止めますが、原理主義者の耳には「キリスト教に対する信仰、原理主義キリスト教の信念を貫く信念」のことのみを意味する言葉としてしか響かないんですよね。

ですから、共和党の政治家たちはlightとかfaithという言葉を使ったキャッチフレーズを言うことによって、ふつうの人に対して「耳心地のいい演説」をできると同時に、支持基盤である原理主義者たちには「私はキリスト教の教えを大事にする候補者だ!」というメッセージをしっかりと伝えることができるわけです。

子ブッシュ氏が最初の大統領選で使い、メディアで頻繁に取り上げられた一言、

I'm a uniter, not a divider.
「私は人々を一つにまとめる者であり、分裂する者ではない」

も、原理主義者たちが聞くとイエス・キリストの名言、

Every city or house divided against itself shall not stand.
「どんな町でも家でも内輪もめをしたらしっかり立ってはいられない(内部分裂をする組織は滅びるが、神/良心の声を聞いて一つにまとまれば悪を追放して地上を統一できる、という意味が含まれています)」

を反射的に思い浮かべ、「ブッシュはキリストの再来」と目がハートになってしまうのですよ。

こうした、ある特定の人々のみに真意が確実に伝わる暗号のような言葉を使って演説や遊説、記者会見などをすることは 「dog-whistle politics(犬笛政治:犬笛は、人間の耳には聞こえないが、犬の耳には聞こえる高周波音を発する)」と呼ばれていて、現ブッシュ政権のお家芸なんですよね。

ほんのちょっと前も、ブッシュ氏は泥沼化したイラク侵略戦争のことを、

When the final history is written on Iraq, it will look like just a comma.
「イラクに関して最終的な歴史が記されるときは、これ(イラク侵略戦争)はただのコンマにすぎない」

ふつうの人は、この発言を聞いても「ブッシュは物事を長い目で見ている」とか、「人がたくさん死んでるのに単なるコンマだなんて失礼!」と思うだけですが、原理主義者や熱心なキリスト教徒は反射的に、

Never put a period where God has put a comma.
「(キリスト教の)神が単にコンマを打った場所に絶対にピリオドを打つな」

という格言を思い浮かべ、「イラク侵略戦争はまだ終わったわけじゃなくて、これから神の介入がありうまく行くに決まっている」という言外の意味を読み取れるのです。

ちなみに、Every city or house divided〜という一節の後にイエス・キリストは自分の指導のもとに民衆が一致団結することの大切さを強調し、こう言います。

He that is not with me is against me; and he that gathereth not with me scattereth abroad.
「私の味方でない者は私に逆らう者であり、私と共に集めない者は散らかす(統一を阻む)者です」

米国同時多発テロ9/11直後のブッシュ氏の一言、

Either you are with us, or you are with the terrorists.
「あなた方は私たちの味方か、テロリストの味方かのどちらかだ」

が原理主義者たちに特にウケたのは、彼らがイエス・キリストのこの一言を思い浮かべ、ブッシュをイエス・キリストとオーバーラップさせてブッシュを預言者として崇めたからなのです(原理主義者の中には、家に後光の差したブッシュ氏の写真を飾り、それに手を合わせて拝んでいる人も少なくありません)。


来週は、政教分離に関する話題をお届けします。お楽しみに!


脚注
*1.I before 'E' except after 'C'は、英語圏で国語(つまり英語)の時間に先生が教えてくれるスペルの暗記法。ieeiかわからないときに、この法則を覚えていると役立つ、とされていて、piece/friendEの前にI)、deceive/ceilingCの後はIの前にE)などはこの法則に従っているが、vein/seize、science/efficientなど例外も多々ある。


関連リンク
後光の差したブッシュ氏の写真
http://www.slapnose.com/


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「世論調査での政治家の言葉遣いと英語公用語化案」
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ボキャブラリー
self-help:自己啓発
fortune cookie:おみくじが入ったクッキー
quote:引用する
boundary:境界
alienate:遠ざける
axis:枢軸
uniter:まとめ役



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