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ネイティブ感覚で観る『ザ・ホワイトハウス』


Updated every Monday, 更新日:4月2日

ジャーナリスト 西森マリー先生

西森先生
西森先生のプロフィール
人気海外ドラマ『ザ・ホワイトハウス』を題材に、アメリカ在住ジャーナリスト、西森マリーさんが英語の台詞とその背景をわかりやすく解説。アメリカの社会背景・文化を知れば英語の台詞もなっとく、楽しみながらアメリカの「今」を学ぼう!


ネイティブ感覚で観る『ザ・ホワイトハウス』 74
真のディベート
Real Debate
From Season 4 episode 3, "The Red Mass"
 

5回にわたって、エピソード3のバックグランドの解説をお届けしています。


今週はディベートのあり方に関する話題をお届けしましょう。
まず、報道官C.J.の記者会見を見てみましょう。

Reporter: When do you anticipate the debate issue will be settled? And then I have a follow-up.
C.J.: The President believes the debates are good and that more the better. The President's asked for five debates. Governor Ritchie's asked for two. The President said, "How about four?" Governor Ritchie said, "How about two?" We're waiting for the commission to make its recommendation.
Reporter: And follow-up is what would be considered a debate win for the President?
C.J.: At this point, participating in one would be a victory.
記者: ディベートに関する問題はいつ解決する見込みですか? それに関し続きの質問がもう一つあります。
C.J.: ディベートはいいものなので、数多いほどいい、というのが大統領の信条です。大統領は5回のディベートを希望しましたが、リッチー知事は2回を希望し、大統領が「4回では?」と言ったところ、リッチー知事は「2回では?」と答え、ディベート委員会の提案を待っているところです。
記者: 続きの質問です。大統領にとってディベートの勝利の基準は?
C.J.: 今の時点では、ディベートに1回でも参加できれば、それ自体が勝利ですね。

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インテリの極みバートレット大統領はディベートの達人なので、たくさんディベートをやってリッチーの無能さをさらけ出したいんですよね。

それに対して、英語もろくにしゃべれないリッチーはできる限りディベートを避けたいと思っています。

これは、まさに理路整然としたディベートの達人として知られていたゴア前副大統領とブッシュ氏の対比そのものです。


この後C.J.は、広報部次長サムに「リッチーは、とんでもなく低い(国民の)期待を乗り越えるだけで選挙に勝てる」と言っていますが、このコメントも2000年の大統領選のディベートを皮肉ったものなんですよね。

3回行われたディベートはすべて論理的には明らかにゴア氏のほうが優れていたのに、国民のブッシュ氏に対する期待があまりに低かったため、ブッシュ氏がブロークン・イングリッシュを話さなかった/3音節以上の単語をちゃんと発音できた、というだけで多くの人々が「ブッシュはよくやった!」とブッシュ氏をほめていたのです。

これは、陸上のオリンピック選手が100メートルを11秒で走ったら「遅い」とけなされるのに対して、幼稚園児が100メートルを転ばずに50秒で走ったら「スゴイ!」と拍手喝采を浴びる、というのと全く同じ。


実は、2000年のディベートでは、ブッシュ氏が非論理的なこと(「富豪と大企業のための減税は中産階級や貧者救済に役立つ」など)を言う度にゴア氏があきれかえってため息をついていたんですよね。

これが「必死に何か言おうとがんばってる幼稚園児を、頭脳明晰な大学院生がせせら笑っている」という感じに受け止められ、判官びいきのアメリカ人がブッシュ氏に同情票を入れてしまった、ということも忘れてはいけない史実です。

この史実をふまえて見ると、広報部部長トビーに言ったC.J.の、

If the whole thing is, he can't tie his shoelaces and it turns out he can, then that is the ball game.
「靴ひもさえ結べないリッチーがちゃんと靴ひもを結べた、ということになると、それで勝負が決まってしまうわ」

という一言をより深く味わうことができるでしょう。


次に、リッチー側がどうしても折れず、結局ディベートは2回しかできない、ということになった後の大統領のコメントを見てみましょう。

It's not even the number of debates, as much as the format. 2 minute response followed by a 1 minute reply. That's not a debate. That's not a debate! It's a joint press conference.
「ディベートの回数も問題だが、フォーマットもひどいものだ。(質問に対する)応答が2分、それに対する対応が1分。こんなのはディベートじゃない。ディベートなんかじゃなくて共同記者会見だよ」

大統領はさらにこう続けています。

It's a joint press conference. It's not neccessary for the candidates to be in the same room. That part's just theater.
「そんなのは共同記者会見だ。候補者が同じ部屋にいる必要さえない。一緒にいるのはテレビ的にウケがいいから、というだけのこと」

大統領とスタッフのディベート論議が続きます。

President: Be nice to be able to respond to what the other person has said, and ask them a question. And the moderator should be empowered to press for an answer, just as a judge can of a witness, or a member of Congress in a confirmation hearing.
Sam: Hmm.
C.J.: Sam, what do you think about me writing you an urgent memo? "I think Ritchie's a more skilled debater than we're anticipating. He has, after all, debated three gubernatorial candidates and won each time."
Sam: And leak the memo?
C.J.: Yeah.
Sam: I think you'll look silly.
C.J.: I'm used to that.
Sam: I don't think it'll do much.
C.J.: Me, neither.
President: Cicero wanted to restore the overthrown king of Egypt, and the Roman Senate debated all day and into the night, every military and diplomatic consequence until they collapsed on the Senate floor.
President: Lentulus is trying to overthrow the Republic. Ceaser goes up against Cato-- by the way, in the very first public debate on the death penalty. They were against each other, it was a debate and they explored the meaning of spirituality and suffering.
大統領: 対立候補が言ったことにちゃんと対応し、質問もできる、というフォーマットであるべきだ。司会者もまともな答えを要求する権限を持つべきだよ。判事が証人に証言を要請する権限を持ち、公聴会で議員が(質問に対する答えを)要求する権限を持っているのと同じように。
サム: えぇ。
C.J.: サム、私があなたに「リッチーは予想以上にディベートがうまいと思う。知事選で3人の対立候補とディベートして全部勝っているのだから。」というメモを書く、というのはどうかしら。
サム: それをリークするの?
C.J.: そう。
サム: 君がバカに見えるだけだろう。
C.J.: いつものことよ。
サム: 大した効果はないと思うよ。
C.J.: やっぱり。
大統領: キケロが追放されたエジプトの王を復位させようとしたとき、ローマ帝国の元老院は一日中ディベートし、夜になって全員が疲れ切って床に倒れるまで軍事、外交面のあらゆる可能性を話し合った。
大統領: 共和制を倒そうとしたレントゥルスの処分に関してシーザーはケイトウの意見に反対だった。ちなみに、これは死刑に関する最初の公開討論だ。このシーザーとケイトウの討論は真のディベートで、彼らは精神や苦悩のあらゆる意味合いを探求し尽くした。

レントゥルスは結局処刑されてしまうのですが、処刑するかどうかに関してシーザーとケイトウが徹底的に討論し尽くした、という点が重要なんですよね。

シーザーとケイトウの討論の模様は、古代の歴史家サルスティウスの『カティリナの陰謀』(ローマの政治家カティリナがキケロ政府転覆の陰謀を企て失敗した事件に関する書物)やプルタルコスの『シーザー』などの文献に詳しく記されています。


バートレット大統領が批判しているディベートの形式は実際のディベートで使われているものです。

バートレット大統領は時間制限などなく候補者同士が徹底的に討論できて、司会者も候補者に対してきついつっこみを入れられる真のディベートを希望しているのですが、テレビという枠の中では、コマーシャル無しで放送できる短いディベートしかできない、というのが現状です。

だから、質問への答えにも、相手の答えに対するさらなる返答にも制限時間が設けられ、しかも司会者を通さず候補者同士で話し合うことは禁止(候補者同士が直に話すと議論が白熱して制限時間内に収まりにくいから)、というフォーマットになってしまい、このフォーマットに従うと、「端的なキャッチフレーズを有権者の心に残したほうが勝ち」ということになってしまうのです(ディベートが苦手で、キャッチフレーズ作りがうまいブッシュ氏にとってはこのフォーマットは最適です)。

で、このフォーマットでは真の討論は成り立たないから候補者の本音や本質は有権者に伝わらない、ということは誰もが百も承知なのですが、テレビで放送してくれなければディベートをやっても無駄だと思っている人が圧倒的に多いので、誰もこのフォーマットに文句を言おうとしないんですよねぇ。

でも、ドラマの中のバートレット政権はあくまでも理想を追求し、ディベートの数をたった一度に減らす代わりにフォーマットを変えることを要求します。

ディベートが一度しかできない、ということはディベート中に多発性硬化症(視力の低下、手足の麻痺等を引き起こす脳と脊髄の病気)の症状に見舞われてしまうかもしれないバートレット大統領にとっては大きな賭になるわけですが、そういう大きなリスクを犯してまでも真のディベートを行いたい、という志を持ったバートレット大統領はまさに政治家の鑑(かがみ)ですよね。


来週は、テレビ受けをねらったスピーチのおそろしさに関する話題をお届けします。お楽しみに!


ボキャブラリー
anticipate:予想する、見込む
shoelace:靴ひも
That is the ball game.:勝負が決まる
joint press conference:共同記者会見
moderator:進行役、仲介者
gubernatorial:知事の
death penalty:死刑



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