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ネイティブ感覚で観る『ザ・ホワイトハウス』


Updated every Monday, 更新日:3月5日

ジャーナリスト 西森マリー先生

西森先生
西森先生のプロフィール
人気海外ドラマ『ザ・ホワイトハウス』を題材に、アメリカ在住ジャーナリスト、西森マリーさんが英語の台詞とその背景をわかりやすく解説。アメリカの社会背景・文化を知れば英語の台詞もなっとく、楽しみながらアメリカの「今」を学ぼう!


ネイティブ感覚で観る『ザ・ホワイトハウス』 70
ブッシュと正反対のバートレット大統領 パート2
President Bartlet: The Complete Opposite of Bush Part II 
From Season 4 episode 1, "20 Hours in America"
 

3週続けて、シーズン4エピソード1(2時間の特番として放送)のバックグラウンドの解説をお届けしています。



今週は、バートレット大統領とブッシュ氏の人格や品位の違いにスポットライトを当てた台詞を見てみましょう。まず、広報部次長サムと次席補佐官ジョシュの電話での会話から。

Sam: Let me ask you something. He was saying that Commerce didn't have enough input on the stump speech and I started to say it was my fault, and the president kind of ran me over.
Josh: Yeah, he doesn't like the appearance that his staff is covering for him.
Sam: It genuinely wasn't his fault.
Josh: Nothing's not his fault in the Oval Office.
サム: ちょっと聞きたいことがある。遊説演説に商務省からのインプットがなかったと商務長官に言われたんで、それは僕のせいだと言ったら、大統領に遮れらた。
ジョシュ: 大統領は、スタッフにかばってもらってると思われるのがイヤなんだ。
サム: 本当に僕のせいだったんだけど。
ジョシュ: 執務室ではすべてが大統領の責任だというのが彼の信条だ。

次は、海外の首脳暗殺(国際法に反する行為)の件に関して、バートレット大統領は知らなかった、ということにして、大統領を国際裁判所の訴追から守ろうとする総合参謀本部議長フィッツウォレスに大統領が言ったこの台詞を。

It was my order and you executed it flawlessly and I stand by it. I stand by you, I stand by you all. I stand by it till I die. Plus, I'm going to need some cell mates in Holland.
私が(暗殺の)命令を下し、君がそれをそつなく実行した。私はこの事実を曲げる気はない。私は死ぬまで君を、そして君たち(軍人、レオなど暗殺計画を知っていた人々)全員を見捨てたりはしない。それにオランダの刑務所に一緒に入ってくる仲間も欲しいし。

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最後の一言は、「国際刑事裁判所に裁かれて有罪にり、オランダのハーグにある刑務所に入れられるまで、私は君たちと行動を共にする」という意味です。

このエピソードが放送されたのは2002年9月25日。
9/11のほぼ1年後で、ブッシュ政権はテロを察知できなかった責任をとるどころか、テロを利用して言論統制を敷きイラクを侵略しようと躍起になっていた時期でした。

で、メディアがほんのちょっとでもブッシュ政権の責任に関して触れようものなら、ブッシュ政権は「オサマを捕まえなかったのはクリントンのせい」と、クリントン政権に罪をなすりつけていたので、民主党派の人々がブッシュ政権に激しい怒りを感じていたんですよね(2001年8月6日にブッシュ政権は諜報部から「Bin Ladin Determined to Strike in US(ビン・ラディンは米国内での攻撃を決意している)」という報告書をもらっていたにも関わらず何の対策もとりませんでした)。

ですから、バートレット大統領のこの一言には、「真の大統領とはこういう人物であってほしい」という『ザ・ホワイトハウス』の脚本家アーロン・ソーキンの悲願がこめられているんですよね。

また、アメリカは実際には国際刑事裁判所(ICC)の管轄に入っている国ではないため、アメリカ人はどれほど極悪な罪を犯しても国際刑事裁判所で裁かれることはありません(現在、日本も入っていませんが、年内加盟との一部報道もあります)。

ですから、バートレット大統領のこの一言は、自ら進んで責任をとろうというバートレット氏の精錬潔癖で正義感に満ちた人格を象徴しているのです。


次に、目的地とは反対方向に進む列車に乗ってしまったジョシュとトビーの、対立候補リッチー(モデルは現大統領のブッシュ氏)に関する会話を見てみましょう。

Toby: Frivolous law firms.
Josh: What?
Toby: He meant to say "frivolous law suits" and he said "frivolous law firms."
Josh: Who?
Toby: Benjamin Disraeli.
Josh: He misspeaks!
Toby: Yes, he does. He also thinks Sarajevo and Bosnia are two different countries, so that's bit of a setback for the region.
Josh: Yes.
Toby: "Chamberlain led England in World War II". I don't mind that he doesn't know history, I mind that he hasn't seen a movie. "Mexico is part of NATO." Josh: He meant they were an ally.
トビー: くだらない法律事務所。
ジョシュ: えっ?
トビー: 「くだらない訴訟」と言うつもりで「くだらない法律事務所」と言ったんだ。
ジョシュ: 誰が?
トビー: (皮肉で)ベンジャミン・ディズラエリ。
ジョシュ: (リッチーのことだと気づいて)あいつ、失言するんだぁ!
トビー: そういうこと。彼はサラエボとボスニアが別々の国々だと思ってる。あの地域にとっちゃ困ったことだな。
ジョシュ: うん。
トビー: 「第二次大戦中の英国の首相はチェンバレン」だとさ。彼が歴史音痴だってのは許せるが、映画を見たことがないとはねぇ。「メキシコはNATO加盟国だ」とも言ってる。
ジョシュ: メキシコはアメリカと同盟関係にあると言いたかったわけだ。

この後、リッチーが中国に対する政策方針を聞かれたときに、

First off, I'm going to send them a message-- meet an American leader.
まず、彼らにメッセージを送ってやる。一人のアメリカ人のリーダーに会え、ってな。

と答えたことが話題にのぼり、トビーは、

I don't know what that means, but everybody cheered.
どういう意味だか僕には分からないが、(彼の聴衆は)みんな拍手喝采してた。

と言って、あきれかえります。

この一連のやりとりは、ブッシュ氏が外交音痴で、歴史や地理も不得意で、さらに英語もかなりヘンであったことを皮肉ったものなんですよね。

このエピソードが放送されたのは、ちょうどブッシュ氏が「frivolous and junk lawsuits(くだらない、ゴミのような訴訟)」というフレーズを連発して医療ミス裁判の賠償金に上限を設けるための法案を出していた時期。

ブッシュ政権は「医療費が高いのは、たいしたことのない医療ミスの被害者がカネ欲しさにくだらない訴訟を起こし多額の賠償金を得られるから」と主張して、この法案を通してしまいました。

実際には医師の保険料が不当に高いことが医療費を上げている原因で、ブッシュ政権が医療ミス裁判を叩きたかった最大の理由は、被害者(つまり無名の一個人)の弁護士のほとんどが所属する団体が民主党に献金しているからなんですけど、国民はブッシュ政権が連発した「frivolous and junk lawsuits」というフレーズにだまされてしまったんですよね(保険業界や大企業の弁護士は共和党に多額の政治献金をしています)。


ブッシュ氏の話す妙な英語 Bushisms今までも何度かご紹介していますが、今回はこのやりとりのモデルになったものをいくつかご紹介しましょう。

まず、1999年春、共和党の大統領候補の一人だった時期のブッシュ氏(当時テキサス知事)のコメントから。


東ティモールの独立問題が世間を賑わしていたときの一言。

If the East Timorians decide to revolt, I'm sure I'll have a statement.
「東ティモーリアンたちが反乱を起こすと決めたら、おいらも声明を出す」

ティモール人はTimorianではなくTimoreseです。


コソボに関する一言。

Kosovians can move back in.
「コソヴィアンたちは故郷に戻れる。」

コソボ人はKosovarです。


両方とも当時ニュースでさんざん使われていた言葉なので、テレビのニュースを見たり新聞を読んでいればこんな間違いを犯すはずはありません。

ギリシアに関する一言。

Keep good relations with the Grecians.
「グリーシャンたちと友好関係を保つ」

新聞を読まない小学生でも英語圏の人間ならギリシア人はGreekだと知っています。

こうして無知をさらけ出した後もブッシュ氏は勉強を怠り、1999年11月の段階でもチェチュニア、台湾、パキスタンの大統領の名前、インドの首相の名前を挙げられないままでした。

2000年1月には、アメリカの教育を強化する、という主旨の演説で、

Rarely is the question asked: Is our children learning?
「アメリカの子供たちは学んでいるのか? という質問はめったに出ない」

Are our children learning?が正しい)と言ったことはあまりにも有名ですよね。

2000年8月、既に共和党の大統領候補となった時点でも、

A leadership is someone who brings people together.
「リーダーシップというのは人々をまとめられる人物のことだ」

とミョ〜なことを言い、拍手喝采を受けていました。
A leader isが正しい)

2000年9月にも、

We'll let our friends be the peacekeepers and the great country called America will be the pacemakers.
「我々は同盟国に平和維持の仕事をまかせ、アメリカという偉大な国はペースメーカーになるのだ」

peacemaker「平和を作る人」をペースメーカーと言い間違え、民主党派の人々からは小馬鹿にされたにも関わらず、支持者たちからは熱狂的な拍手を浴びていました。

ブッシュ氏の外交音痴と英語音痴を最もよく表しているのは2000年9月27日のこの一言。

I will have a foreign-handed foreign policy.
「おいらは外国の手の外交政策をとるつもりだ」

(本当はeven-handed「公正な、公平な」と言うべきだった)

ブッシュ氏は2002年に訪日した際にも、

For a century and a half now, America and Japan have formed one of the great and enduring alliances of modern times.
「アメリカと日本は1世紀半に渡って近代まれに見るすばらしい、揺るぎない同盟関係を続けています」

と言ってるんですよね。

これも歴史の勉強は怠っていたとしても、ブッシュ氏が同年代のごくふつうのアメリカ人と同じ程度の好奇心があって映画館に足を運んだりテレビで映画を見ていたら、有名なものだけでも50本以上ある第二次世界大戦の映画からアメリカと日本がこの1世紀半の間に戦争をしたことに気づいていたはず(そして、第二次世界大戦中の英国の首相がウィンストン・チャーチルだったことにも気づいていたでしょう)。

ブッシュ氏って、ラテン語も得意で、経済博士としてノーベル賞を受賞した雄弁なバートレット大統領とはまさに正反対ですよね。

ちなみに、トビーの皮肉として名前を挙げているベンジャミン・ディズラエリは19世紀後半の英国の首相。雄弁で演説がうまいことで有名で、小説家としても知られていました。


関連リンク
ベンジャミン・ディズラエリの経歴
日本、国際刑事裁判所に年内加盟へ・北朝鮮をけん制(日本経済新聞)


ボキャブラリー
oval office:大統領執務室
flawlessly:完ぺきに、そつなく
frivolous:つまらない
misspeak:失言する
revolt:反乱



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