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ネイティブ感覚で観る『ザ・ホワイトハウス』


Updated every Monday, 更新日:2月26日

ジャーナリスト 西森マリー先生

西森先生
西森先生のプロフィール
人気海外ドラマ『ザ・ホワイトハウス』を題材に、アメリカ在住ジャーナリスト、西森マリーさんが英語の台詞とその背景をわかりやすく解説。アメリカの社会背景・文化を知れば英語の台詞もなっとく、楽しみながらアメリカの「今」を学ぼう!


ネイティブ感覚で観る『ザ・ホワイトハウス』 69
ブッシュと正反対のバートレット大統領 パート1
President Bartlet: The Complete Opposite of Bush Part I 
From Season 4 episode 1, "20 Hours in America"
 

先週から3週続けて、シーズン4エピソード1(2時間の特番として放送)のバックグラウンドの解説をお届けしています。



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このエピソードが放送されたのは2002年9月25日。
米国同時多発テロ9/11から1年経って、アメリカに旧ソ連並みの言論統制が敷かれ、愛国心の名の下に好戦的/独裁的な政策を推進するブッシュ政権に異議を唱える人々が非国民呼ばわりされて社会的に抹殺されていた時期でした。

そのため、ケーブルTV以外のテレビ局ではコメディアンさえもブッシュ政権を揶揄したジョークを控え、red states(共和党の支持者が多い州)でも人気があるためアメリカ全土で一番視聴率の高い『The Tonight Show with Jay Leno』という夜のトーク・ショーではブッシュ関連のジョークは全く出てこなくなり、代わりに反戦を唱える人々がジョークのやり玉にあがる、という状況に陥っていました。

で、ブッシュ政権はテロ対策を口実に、対テロ関連以外の予算をことごとくカットし、国民に対してスパイ行為を働いていました。

そのため、対立していた民主党と共和党が、9/11以降に共通の敵に対して一丸となっていたのが再び分裂し、民主党派の人々のブッシュ政権に対する怒りが以前より激しく燃え上がっていたんですよね。


こうした社会背景の中で放送されたこのエピソードでは、バートレットがブッシュと正反対の大統領として描かれています。

つまり、このエピソードは、『ザ・ホワイトハウス』の脚本家アーロン・ソーキンが発言権を奪われた民主党派の人々の代弁者として「真の大統領とはこうあるべき!」というブッシュ政権に対するアンチテーゼをドラマ(フィクション)という形を借りて提示したものなのです。

バートレット政権はあらゆる面でブッシュ政権の対局を行っていますが、一般庶民の暮らしに最も大きな影響をもたらす政策の差異は、ブッシュ政権が大企業とお金持ちを露骨に優先しているのに対して、バートレット政権は一般庶民、および貧しい人々の味方である、という点です。

この違いを明確に示すバートレット大統領の演説を見てみましょう。

You know the story about the guy whose car gets stuck in a muddy hole. A farmer comes along and says he'll pull the car out of the mud but he's going to have to charge 50 bucks 'cause this is the tenth time he's had to pull it out of the mud today. The driver says, "God, when do you have time to plow your land, at night?" The farmer says, "No, no. Nighttime is when I fill the whole with water."
みなさんは泥の穴に何度も落ちたクルマの話をご存じですか? 農夫がやって来て、クルマを引っ張り出してくれると言うんですが、「代金は50ドルだよ。なにしろ今日だけでクルマを泥から引き出すのが10回目なんだから」と言うんですよ。ドライバーが「そりゃ忙しいですねぇ。いったいいつ畑を耕してるんですか? 夜ですか?」と聞くと、農夫はこう答えるんです。「いや、夜は穴に水を注いでる」

....We need to find energy alternatives. We're getting our cue. We're getting it right now. The Republicans are busy. They're trying to convince us that they care about new energy and that they're not in the vest pockets of big oil, and that's a tough sell. I don't envy them, 'cause their only hope is that we don't notice that they're the ones who are filling the hole with water every night, and I think Americans are smarter then that. I think we noticed.
……我々は代替エネルギーを開発しなくてはなりません。代替エネルギーが必要だという兆候を我々はしっかり把握しているのですから。共和党の人々は必死になって、自分たちが新エネルギー開発派であり石油業界の回し者ではない、と力説していますが、そんなことは信じられませんよね。彼らは苦しい立場にいるんです。彼らは、自分たちが毎晩穴に水を注いでることに我々が気づかないままでいるように、と祈っているわけですが、アメリカ国民は利口だからも う気づいていますよね。

泥の穴のジョークは、共和党が表面的には「代替エネルギーを支持する」と言いながら、陰で石油業界と手を組んで代替エネルギーをつぶしていることをおもしろおかしく伝えたもの。

ブッシュ政権が石油業界から莫大な献金をもらっていることはもう何度もお伝えしましたが、石油業界と共和党の癒着は昔からのことなんですよね。

1981年に共和党のレーガン氏が大統領になって最初にやったことは、前任者である民主党のカーター大統領がホワイトハウスの屋根に設置したソーラー・ウォーター・ヒーターの撤去と廃棄でした。

レーガン氏は、カーター大統領が設置した太陽エネルギー研究所も事実上潰しています(レーガン政権が太陽エネルギー研究所を潰した経緯や、石油業界が太陽エネルギーの特許を買い取ってお蔵入りにしたことはチェルシー・グリーン社から出ている『Who Owns the Sun?』に詳しく記されています)。

で、ブッシュ政権は、レーガン政権に輪をかけた露骨な石油業界優遇政策をとっていて、石油会社や自動車産業のための大幅な減税のおかげで、福祉がおろそかになりそのツケを国民が払ってるわけです(ブッシュ一族とサウジアラビアの癒着はマイケル・ムーア監督のドキュメンタリー映画『華氏9/11』にも明確に描かれていますよね)。


最近では、遂にred statesの人々もブッシュ氏の支持率が下がるとガソリンの値段も下がる(ガソリン代が安くなれば経済的にゆとりができるので現政権の支持率が上がるから)ということに気づき、サウジアラビアが陰でブッシュ政権を支えていることが問題になっています。

ボブ・ウッドワード記者(ニクソン政権のウォーターゲート事件を暴露した辣腕記者)が2004年に発売した著書『Plan to Attack(邦題:攻撃計画)』に「サウジアラビアは2004年の大統領選の直前にブッシュ再選を助けるために石油の値段を下げると約束した」と書いていますが、民主党派のアメリカ国民はこの本が出るずっと前からサウジアラビアとブッシュ政権の深い関係を把握していたんですよね。

もちろんブッシュ政権は「支持率が下がると、あるいは選挙の前になるとガソリンの値段が下がる、というのは単なる偶然」と言っていますが、ブッシュ支持率/選挙とガソリンの値段の関係のグラフを見ると、こんなに何度も偶然が重なっていいの? と思えてしまいますよね。


環境対策も環境保護派のバートレット政権と環境破壊派のブッシュ政権は好対照!

次に、バートレット大統領が「アメリカはグリーンハウス・ガス(地球温暖化ガス)排出を自主的に削減する」と演説したことに対してブライス商務長官が文句を言うシーンを見てみましょう。

商務省に相談せずに大統領がこうしたスピーチを行ったことに対し不平を言うブライス商務長官に、広報部次長サムが「それは私の責任」と言おうとしたのですが、大統領はサムのことを遮ってブライス商務長官と話を続けます。

Bryce: It is sheer lunacy to suggest America takes unilateral steps while exempting 80% of the world's nations from the same obligations.
President: Developing nations, and I think what's lunacy is a nation of SUV's telling a nation of bicycles, that they have to change the way they live before we'll agree to do something about greenhouse emissions.
Bryce: Among our economic competitors there's the principle of fairness.
President: Well, in international law there's a principle called differentiated responsibilities. We're the ones making the greenhouse gas!
ブライス: 世界の国々の80%がグリーンハウス・ガス削減の義務を免れているのに、アメリカ一国が義務を遂行すると提案するなど全く常軌を逸してます。
大統領: その80%の国々とは開発国だろう。私に言わせりゃ、(ガソリンを食うことで知られている)スポーツ用多目的車の国が自分たちはグリーンハウス・ガス対策を怠っておきながら、自転車の国に生き方を変えろと命じることこそ常軌を逸してる。
ブライス: 経済競争の原則はフェアである、ということですよ。
大統領: 国際法の原則は責任の分化だ。グリーンハウス・ガスを出してるのは我々なんだぞ!

グリーンハウス・ガスの最大の排出国であるアメリカが率先して排出量を削減する、というバートレット大統領のこの一言、いまだに「温室効果は科学的に証明されていない」と言い張って京都議定書を無視し続けているブッシュ政権の人々に聞かせてあげたいですよねぇ。


教育政策も、できる限り多くの人々が高等教育を受けられるように経済援助を徹底させたいバートレット政権と、大学とは能力とは関係なく金持ちの師弟が入るもの、と思っているブッシュ政権は全く正反対!

空港のロビーのバーで広報部長トビーが中年のサラリーマン、マットと世間話をするシーンを見てみましょう。

マットはトビーに、娘と一緒にノートル・ダム大学のキャンパスを見学してきた、と言った後、市場の急落で被害を被ったことを告げ、こう続けます。

Mutual fund that's supposed to send her to college. I never imagined at $55,000 a year, I'd have trouble making ends meet. And my wife brings in another 25. My son's in public school. It's no good. I mean, there's 37 kids in the class, uh, no art and music, no advanced placement classes. Other kids, their mother has to make them practice the piano. You can't pull my son away from the piano. He needs teachers. 
投資信託会社の株で娘を大学に入れるつもりだったんですよ。学費が年間5万5千ドル(約660万円)にもなるとは思ってもいませんでした。家計のやりくりが大変でね。妻が2万5千ドル(約300万円)稼いでくれてるんですけど。息子は公立学校に行ってますが、これがよくない。1クラス37人で芸術や音楽の授業もなけりゃ、成績優秀者のみを集めたクラスもないんです。他のうちじゃ、母親が子供に無理矢理ピアノのレッスンを受けさせてるけど、うちの息子はピアノから離れようとしない。彼にはいい教師が必要なんです。

I spend half the day thinking about what happens if I slip and fall down on my own front porch, you know? It should be hard. I like that it's hard. Putting your daughter through college, that's-that's a man's job. A man's accomplishment. But it should be a little easier. Just a little easier.
私は1日の半分は、自分が玄関先で滑って転んだらどうなってしまうんだろう、と心配してるんですよ。おわかりでしょう? 責任が重い、というのは当然のことですけどね。娘を大学に通わせる、というのは父親の義務、男としてなすべきことですから。でも、もうちょっと楽であるべきなんじゃないかなぁ、って思うわけですよ。ほんのちょっとだけね。

1990年代末期から、有名私立大学の学費が年間のインフレ率の2倍の割合で上がっていて、このエピソード放送時はちょうどブッシュ政権下でテロ対策費が肥大化し、教育予算(公立学校の維持費、公立学校教師の給料、大学の奨学金)が大幅にカットされた時期だったんですよね。

だからマットのこの一言はアメリカ人の胸に染みたのです。 また、「もし玄関先で転んだら」というのは、自分の家で転んでケガをしたら会社の保険はカバーしてくれないから医療費だけで破産してしまう、という意味です。

この会話の後、トビーと次席補佐官ジョシュは中流以下の人々への経済援助を強化しようと決心するのですが、ブッシュ政権下では企業の保険料の負担が激減し(つまり労働者の負担が激増し)、しかも医療ミス裁判の賠償金にも低い上限が設けられてしまいました。

上限は州によって異なりますが、アメリカで一番リベラルなマサチューセッツ州でさえ企業の過失に対する裁判で勝訴した場合の損害賠償の上限はたった10 万ドル(約1,200万円)です。2006年にベクテル社(イラク侵略戦争で何十億ドルという単位でぼろもうけしているブッシュ一族、チェイニー氏と親しいハリバートンの系列会社)が造ったボストンのトンネルの天井から2.5トンのコンクリートのかたまりが走っていた車の上に落下して、助手席にいた女性が亡くなりましたが、被害者側がたとえ裁判で勝ったとしても、弁護士への報酬などを支払った後に遺族に入る金額(=企業の過失の下敷きとなって亡くなった人の命の価値)は6万ドル(約720万円)以下ということになります。

ちなみに、ブッシュ氏がレガシー・プログラム(卒業生の子供を成績の良し悪しに関わらず優先的に入学させる制度。多額の寄付をしてくれる人や政治家などの有力者の子供を含む)でイエール大学やハーバード・ビジネス・スクールに入学できたことは以前にもお伝えしましたが、ブッシュ氏の姪のローレン・ブッシュはプリンストン大学の願書締め切り日の1ヶ月後に願書を提出したにも関わらず入学を認められています。

さて、来週は、バートレット大統領とブッシュ氏の人格、および品位の差を見事に描いた台詞をご紹介しますので、お楽しみに!


関連サイト
共和党が太陽エネルギー研究所を潰したことに関する記事
http://www.motherjones.com/

ブッシュ支持率とガソリンの値段の関係
http://www.usatoday.com/
http://www.starttherevolution.org/
http://marketplace.publicradio.org/
http://www.forbes.com/


関連書籍

『James and the Giant Peace』 『Tuck Everlasting』
  『Who Owns the Sun?』   『Plan to Attack』  
 


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ボキャブラリー
muddy:泥の
unilateral:一方的な
developing nation:開発途上国
mutual fund:投資信託会社



ザ・ホワイトハウス ― サード・シーズン コレクターズ ボックス発売中!


価格:¥12,285(税込)
字幕:日本語・英語・日本語吹替え用字幕
音声: 英語・日本語
DVD発売元:ワーナー・ホーム・ビデオ
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