Updated every Monday, 更新日:1月22日
ジャーナリスト 西森マリー先生
人気海外ドラマ『ザ・ホワイトハウス』を題材に、アメリカ在住ジャーナリスト、西森マリーさんが英語の台詞とその背景をわかりやすく解説。アメリカの社会背景・文化を知れば英語の台詞もなっとく、楽しみながらアメリカの「今」を学ぼう!
ネイティブ感覚で観る『ザ・ホワイトハウス』 64
テキサスは異国
Texas Is Another Country
From Season 1 episode 2, "Post hoc ergo propter hoc"
数回にわたって、これまでお話できていなかったシーズン1の1話〜5話をお届けしています。
Texas is a state of mind. Texas is an obsession. Above all, Texas is a nation in every sense of the word. A Texan outside of Texas is a foreigner.
--- John Steinbeck
テキサスは(単なるa state <州>ではなく、そこに住む人々の)a state of mind <心理>だ。テキサスは執着心であり、そして何よりもテキサスはあらゆる意味において国家なので、テキサスの外にいるテキサス人は異邦人である。
--- ジョン・スタインベック(1902-1968、ノーベル文学賞受賞者)
今週は、第2話から、アメリカでテキサスがどう見られているかについて、お話しましょう。
まず、大統領のユーモアのセンスが皆に通じるわけではないことを示唆する報道官C.J. と、大統領たちの会話を見てみましょう。
大統領の言ったジョークに腹を立てて、ライダー・カップ(ゴルフのアメリカツアーとヨーロッパツアーの代表選手による大会)のチームがホワイトハウスの招待を拒否したことが発覚したあとのやりとりです。
C.J.:
It’s just that it’s not the first time it’s happened.
President:
I know.
Toby:
She’s talking about Texas, sir.
President:
I know.
C.J.:
U.S.A. Today asks you why you don’t spend more time campaigning in Texas and you say it’s ‘cause you don’t look good in funny hats.
Sam:
It was “big hats.”
C.J.:
What difference does it make?
President:
It makes a difference.
C.J.:
The point is we got whomped in Texas.
Josh:
We got whomped in Texas twice.
C.J:
We got whomped in the primary, and we got whomped in November.
President:
I think I was there.
C.J.:
And it was avoidable, sir.
C.J.:
(ジョークが元でまずい状況に落ち込んだのは)これが初めて、というわけじゃないですよね。
大統領:
分かってる。
トビー:
彼女はテキサスの一件のことを言ってるんですよ。
大統領:
分かってる。
C.J.:
USAトゥデイに、なぜテキサスでもっとキャンペーンをしないんですか、と聞かれて、「ヘンな帽子は私には似合わないから」と答えてしまうんですからねぇ。
サム:
大きな帽子、と言ったんだよ。
C.J.:
どっちもどっちだわ。
大統領:
(ヘンな帽子と大きな帽子では)全然違うよ。
C.J.:
問題はテキサスで大敗した、ということですよ。
ジョシュ:
2回も大敗した。
C.J.:
予備選で大敗し、11月(大統領本選)でも大敗しました。
大統領:
言われなくても分かってる。
C.J.:
大敗せずに済んだのに。
C.J. にユーモアのセンスに関するお説教を受けそうになった大統領は、
C.J., on your tombstone, it’s gonna read, “Post hoc, ergo propter hoc.”
「C.J.、君の墓碑にはこう刻むといい。“Post hoc, ergo propter hoc.”」
と言い返します。
今回のエピソードのタイトルにもなっている、このラテン語の意味が分からない次席補佐官ジョシュやC.J. に大統領はこう説明します。
After it, therefore because of it. It means one thing follows the other, therefore it was caused by the other, but it’s not always true. In fact, it’s hardly ever true. We did not lose Texas because of the hat joke.
「その後、故に、そのため。あることの後に何かが起きる、だから、その何かが起きたことの最初に起きたことのせいだ(いかなることであろうと、何かが起きるのは、その前に起きたことの結果だ)、という意味だよ。でも、この論理は常に正しいというわけじゃない。というか、ほとんどの場合間違ってる。我々がテキサスで負けたのはあの帽子のジョークのせいではない」
で、この後、大統領はC.J. に、
Do you know when we lost Texas?
「我々がテキサス州の選挙人を失ったのがいつだか君には分かるかね?」
と問いかけ、C.J. は、
When you learned to speak Latin?
「大統領がラテン語を学んだ時点で、ですか?」
と答えます。
この一連のやりとりは、アメリカにおけるテキサスの位置づけを知っているとおもしろさが倍増するんですよね。
まず、funny hats/big hats というのはテキサスのカウボーイがかぶっているテン・ガロン・ハットのこと(レーガン氏やブッシュ氏のお気に入りの帽子でもあります)。
西部劇の神様と言われたジョン・ウェインなどの西部劇の主人公がかぶっているので、アメリカでは未だに「アメリカの男らしさの象徴」と思っている人が少なくありません。
次にテキサスの歴史をかいつまんで見てみましょう。
テキサスって、アメリカという国が生まれた時点ではまだアメリカ合衆国に加わっていなくて、スペインの支配下にあり19世紀初めはスペインから独立したばかりのメキシコの支配下にあったんですよね。
でも、1830年代にはメキシコからの移住者よりもアメリカからの移住者のほうが多くなり、メキシコ兵がテキサスとアメリカの境界線を警備してアメリカからの移民を入れないようにしていました(今、テキサスとメキシコの国境に壁を造ってメキシコ人のアメリカ流入を防止しようとしてるんですから、皮肉ですよね)。
で、1835年にメキシコ政府がアメリカ人入植者の銃所持権を剥奪しようとしたことがきっかけとなりテキサス革命が起き、アラモの砦がメキシコ軍に包囲され、デイビー・クロケットを含む革命支持者の兵士たちが皆殺しにされましたが、1836年にテキサスは独立を宣言します。
独立した後も、メキシコから二度攻撃を受け、さらにインディアンとの戦いも絶えなかったので、テキサスの入植者たちにとって銃は欠かせないものでした。
1845年にアメリカ合衆国に加入し、南北戦争では南北戦争最後の戦いと呼ばれる(テキサスの)パルミト牧場の戦いで敗れるまで南軍を支えてきました。
で、1901年に石油が発見されて以来は、東部の名家からいかに小馬鹿にされようがカネの力をひけらかすテキサスの石油成金の豪奢な暮らしぶりがアメリカの富の象徴となり、アメリカ最大の州として、あらゆることでスケールの大きさ(家も車も食事の量も態度もデカイこと)を誇り、連邦政府への忠誠心よりも愛州心のほうが強いことがテキサスのプライドとなり、それが今でも続いているんですよね(実際には1959年にアラスカが合衆国に加わって以来はテキサスはアメリカで2番目に大きな州になってしまったのですが、人口の少ないアラスカ(約65万人)よりもテキサス(約2,300万人)の方が発言力があるので、テキサス人もアメリカ人も今でもテキサスはアメリカ最大の州、というイメージを持っています)。
こうした歴史のおかげで、アメリカでは「テキサス人は言うこともやることもスケールが大きく、他人の忠告は聞かず腕力や武力にモノを言わせて我が道を行く傲慢な人間」というステレオタイプが定着しています。
このようなことから、冒頭でご紹介したスタインベックの名言がいかに的を射ているかがおわかりになるでしょう。
次に、このエピソードが放送された1999年9月29日の時点でのテキサスのイメージを見てみましょう。
1993年のウェイコ事件(テキサスのウェイコに、数ヶ月以内にアルマゲドンが起きてキリストが再来すると信じていたブランチ・デビディアンというキリスト教の教団が武装して立てこもり、FBI やATF に包囲され、最終的に火事になって信者が死亡した事件)。
この事件で、アメリカ人のほとんどが「狂信的なキリスト教徒がふつうに暮らせていたのは原理主義者が多いテキサスだからこそ。彼らが簡単に武装できたのは、テキサスの銃規制が甘いから」という印象を受け、原理主義者や銃規制反対派は「テキサスこそがアメリカのあるべき姿!」という思いを強化しました。
1995年、テキサス州の公立学校でキリスト教の祈りの時間があることが裁判沙汰に(2000年に最高裁が、これは違憲行為である、という判決を出した後も、ブッシュ州知事は最高裁の判決を無視していました)。
テキサス発のこのニュースが報道されるたびに、テキサスの住人が「アメリカはキリスト教の国!」と叫んでいる映像が流れたので、アメリカ人の半数が「テキサスって暗黒時代みたいに遅れてる場所!」とあきれ、原理主義者たちは「テキサスって理想の場所!」と、テキサスへのあこがれを強めました。
1998年2月、テキサスで、殺人を犯したカーラ・フェイ・タッカーが死刑に(ローマ法王などからの懇願を無視して、当時のブッシュ州知事が南北戦争以来初めて女性を死刑にしたため、テキサスの死刑の多さ、死刑囚のほとんどが有色人種であることなどにスポットライトが当たりました。ブッシュ氏はテキサス州知事だった6年の間に152人死刑にしています)。
この死刑の話題は大々的なニュースになり、民主党系のアメリカ人が「テキサスって非近代的で、野蛮な場所。とてもアメリカとは思えない!」という印象を、共和党系の人々は「テキサスってサスガ!」という印象をますます強化しました。
1998年6月、テキサスで黒人のジェイムズ・バード氏が元KKK (* 脚注1) 団員にトラックで引き摺り回されて死亡。事件直後に、ブッシュ州知事はhate crime (憎悪・敵意に起因する犯罪)に対する刑罰を強める法案を却下。
このニュースも大々的に報道され、南軍旗(奴隷肯定・人種差別肯定の象徴)をモチーフにしたT シャツや野球帽を身につけているテキサスの人々が映し出されたので、過半数のアメリカ人の心に「テキサスって、まだリンチがまかりとおってる奴隷時代さながらの怖い場所」というステレオタイプが完璧に定着し、黒人は「テキサスに行くぐらいなら死んだほうがマシ」と思うようになりました。
1998年夏には、ニュース番組がキャンド・ハンティング(canned hunting )の内情を暴露(キャンド・ハンティングとは、人間に飼育されたトラやライオン、アンテロープ(レイヨウ)などを銃やクロスボーで撃ち殺す、というもの。動物たちは人間はえさをくれる存在だと思っているので、逃げないし、トラやライオンは牙や爪を抜かれているので、人間は至近距離から動物を殺すことができます。2006年にチェイニー副大統領が誤って知人を撃ったのも、テキサスのキャンド・ハンティング場でした)。
アメリカに何千箇所もあるキャンド・ハンティング場のほとんどがテキサスにあると報道されたため、アメリカ人のほとんどが「やっぱりテキサスって野蛮人が住む異国」という印象を新たにしました。
NY で生まれ育ったエリートのユダヤ系アメリカ人アーロン・ソーキン氏(『ザ・ホワイトハウス』の脚本家)も、こうしたニュースを見るたびに「テキサスが同じアメリカとは思えない!」と感じていたことでしょう。
こうした背景、そして1976年のジミー・カーター氏以来、民主党の大統領候補がテキサスで勝ったことがない、という史実を知っていると、バートレット大統領の「テキサスで負けたのはジョークのせいじゃない」という言葉に深くうなづけますよね。
インテリでアメリカ最古の文明を誇るニュー・イングランド出身者(つまりバートレット大統領)は、その存在自体がテキサスの敵である、というわけなのですよ。
このエピソードが放送された約1年後、最高裁が当時テキサス州知事だったブッシュ氏を大統領に据え、世界中がブッシュ氏のテキサス・カウボーイ的なメンタリティに翻弄されていることを思うと、これまたアーロン・ソーキン氏の先見の明に感動せざるを得ませんよね。
脚注
* 1.KKK (Ku Klux Klan :クー・クラックス・クラン)
アメリカの人種差別を主張する悪名高き秘密団体。会員(Klansmen クランズマン)は、白い頭巾に白いマントの異様な衣装をまとう。「奴隷解放宣言」後の1866年、テネシー州プラスキーで結成された。南北戦争後の南部各州において、黒人解放政策に抗議し、白人の権利を主張した白人至上主義団体(1867年には、ルイジアナで同主旨の団体the Knights of the White Camelia も誕生している)。1869年に解散を命じられるも、1915年ジョージア州アトランタで復活。1920年代の最盛期には400万人以上の会員数に達した。1930年代の不況時には、殺人やリンチ事件が明るみに出たこともあり、会員数は数千に激減。
http://www.kkklan.com/
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