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ネイティブ感覚で観る『ザ・ホワイトハウス』


Updated every Monday, 更新日:1月15日

ジャーナリスト 西森マリー先生

西森先生
西森先生のプロフィール
人気海外ドラマ『ザ・ホワイトハウス』を題材に、アメリカ在住ジャーナリスト、西森マリーさんが英語の台詞とその背景をわかりやすく解説。アメリカの社会背景・文化を知れば英語の台詞もなっとく、楽しみながらアメリカの「今」を学ぼう!


ネイティブ感覚で観る『ザ・ホワイトハウス』 63
右派キリスト教戦闘組織〜ユダヤ人 vs. 原理主義者〜
Right-Wing Christian Militant Groups
From Season 1 episode 1, "Pilot"
 

今週から5回にわたって、これまでお話できていなかったシーズン1の1話〜最初の5話をお届けしていきます。


今回は、『ザ・ホワイトハウス』のアメリカでの人気を決定的なものにした第1話から右派キリスト教戦闘組織に関する話題をお届けしましょう。

まず、次席補佐官ジョシュ・ライマンの失言から。
政治討論番組でジョシュが原理主義キリスト教徒の代表者メアリー・マーシュを揶揄するシーンを見てみましょう。

Mary: Well, I can tell you that you don’t believe in any God I pray to, Mr. Lyman. Not any God I pray to.
Josh: Lady, the God you pray to is too busy being indicted for tax fraud.
メアリー: 言わせてもらいますけど、あなたは私が祈りを捧げている神を信じてないことは明らかですね。
ジョシュ: ちょっとあなた、あなたがたが祈ってる神は税金詐欺で起訴されて、その対応で忙しくてしょうがないって神でしょ。

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ジョシュの一言は1980年代に全盛だったテレビ伝道師*脚注1)の多くが脱税などの罪で投獄されたことを皮肉ったもの。

信者からの何億ドルもの寄付で私腹を肥やしていたことで最も悪名高いのは、PTLクラブ(PTLPraise The LordPeople That Loveの頭文字をとったもの)という組織のジム・ベイカー牧師と彼の妻、タミー・フェイ・ベイカーです。また、彼らからPTLを引き継いだジミー・スワガート牧師は定期的に売春婦とセックスをしていた証拠写真が暴露されています。

この二つのスキャンダルは1987年から1988年にかけて立て続けに起きて連日連夜報道されていたため、ジョシュの「税金詐欺」という一言を聞くとふつうのアメリカ人は「原理主義の伝道師が売春婦を買ってたという偽善行為」までをもほとんど反射的に思い浮かべてしまうのです。

このエピソードが放送されたのは、クリントン政権の末期1999年9月22日。ちょうど右派キリスト教徒(原理主義キリスト教徒*脚注2)のほとんどと一部のカトリック)が選挙の時に強大な動員力を発揮できることが明確になった時期でした。

原理主義キリスト教徒はアメリカには4,000万人ほどいて、槍が降っても投票所に向かう共和党派の人々なので、彼らを怒らせると共和党議員の支持が得られなくなり、民主党の法案が通らなくなってしまいます。

ですから、右派キリスト教徒を下手に怒らせたくない、というホワイトハウスのスタッフたちの気持ちがこのエピソードを見ている側にもひしひしと伝わってきたんですよね。


このジョシュの失言問題の一番手っ取り早い解決法はジョシュをクビにすることですが、広報部長トビーはそれを避けるためにメアリーと彼女の仲間ヴァン・ダイク、そして右派キリスト教徒の中でも比較的穏健で首席補佐官レオと交流のあるコールドウェル牧師をホワイトハウスに呼んでジョシュに謝罪させることにします。

ジョシュがメアリーに謝罪した後のやりとりを見てみましょう。メアリーはジョシュの謝罪をほとんど無視して、右派キリスト教徒を馬鹿にした落とし前として大統領が公立学校での祈りの重要性かポルノの邪悪さ、あるいは学校でコンドームを配ることを止めて禁欲を教えることの必要性に関して演説を行うことを要求してきます。

メアリーの高圧的で傲慢な態度にイラつくトビーと、なんとか冷静さを保とうとするジョシュ、横柄さを増すメアリーの会話が続きます。

Mary: School prayer, pornography, condoms. What’s it gonna be?
Toby: We’re not prepared to make any sort of a deal right now.
Josh: Sure we are. Mary...
Mary: [to Josh] My read of the landscape is that you’re cleaning out your desk before the end of business today, so I’d just as soon negotiate with Toby if it’s all the same to you.
Caldwell: Mary...
Mary: [to Caldwell] Please allow me to work. [to Josh] It was only a matter of time with you, Josh.
Josh: Yes.
Mary: That New York sense of humor was just a...
Caldwell: Mary, there no need...
Mary: Reverend, please! They think they’re so much smarter. They think it’s smart talk. But nobody else does.
Josh: I’m actually from Connecticut, but that’s neither here nor there. The point is, Mary...
Toby: She meant Jewish. When she said "New York sense of humor", she was talking about you and me.
メアリー: 学校での祈りかポルノかコンドーム。どれにします?
トビー: 今ここで取引に応じることはできませんよ。
ジョシュ: できますよ、メアリーさん。
メアリー: (ジョシュに)私の読みだと、あなたは今日中にクビになるでしょうから、トビーと交渉したほうがいいってことだわね。
コールドウェル: メアリー…
メアリー: (コールドウェルに)私に任せてください。(ジョシュに)あなたがこうなるのは時間の問題だったのよ。
ジョシュ: ええ。
メアリー: さっきの一言はいかにもニューヨークっぽいユーモアね。
コールドウェル: メアリー、わざわざそんなことを言う必要は…
メアリー: 牧師、黙っていてください。この人たちは自分たちが私たちより頭がいいと思っていて、気の利いた会話をしてると思ってるんですよ。そう思ってるのは彼らだけなのに。
ジョシュ: 僕はコネチカット出身ですけど、ま、それは関係ないでしょうが。要するに…
トビー: 『ニューヨークっぽいユーモア』ってのはユダヤ人の、ってことだよ。彼女は僕と君のことを指してああ言ったんだ。

この後、メアリーは逆ギレして、

I don’t like what I’ve just been accused of.
「そんなふうに非難されるなんて心外だわ」

と言っていますが、トビーはすかさず、

I’m afraid that’s just tough, Mrs. Marsh.
「そりゃ、悪うござんしたねぇ、マーシュさん」

と、怒りをあらわにしています。

それまではメアリーとファースト・ネームで呼んでいたのが、ここでMrs. Marshという呼び方になったことでも、距離感がぐっと増したことがわかりますよね。


さて、このやりとり、日本人にはピンとこない部分が多いと思うのですが、欧米人だとトビーとジョシュの名字(それぞれZieglerLyman)を聞いただけで彼らがユダヤ系であることがわかるんですよね。

アメリカでは、ちょうど1998年までNYのユダヤ人コメディアン主演のコメディ番組『となりのサインフェルド(原題:Seinfeld)』が大ヒットしていたのですが、90年代後半はこの番組の視聴率が原理主義キリスト教徒の多い南部、中西部、山岳部ではそれほど高くなかったことがよく話題になっていて、「都会派の気の利いたユーモアのセンスは田舎の原理主義キリスト教徒には通じない」とよく言われていたのです。

で、ショウビズ業界が原理主義者たちを小馬鹿にすればするほど、原理主義者たちはハリウッドやNYのユダヤ人(映画業界、コメディの世界やブロードウェーイにはユダヤ人が多いことで知られています)を「神の言葉を信じない人々=原理主義者を馬鹿にする不信心な者ども」と敵視するようになっていたんですよね。

ですから、メアリーの一言には原理主義者特有のユダヤ人差別意識が含まれていた、ということなのです(上司のトビーが「取引に応じられない」と言ってるのに、それを平然と無視して「できますよ」と言ってのけて、その場をうまく取り繕ってメアリーを適当にあしらおうとしているジョシュのそつのなさを、メアリーは「いかにも口八丁手八丁で商売上手なNYのユダヤ人的なユーモアのセンス」と皮肉っている、ということです)。


メアリーとトビーの間が険悪化する中、この会合に突然バートレット大統領が現れます。

大統領は、12歳の孫娘がティーン雑誌のインタビューでa woman's right to choose(中絶に関する女性の選択権)を支持した後に、原理主義キリスト教徒の団体the Lambs of God(神の子羊たち)から脅迫状を受け取ったことを告げ、こう言います。

I’ve read my bible from cover to cover so I want you to tell me, from what part of the Holy Scripture do you suppose the Lambs of God drew their Divine inspiration when they sent my 12 year-old granddaughter a Raggedy Ann doll with a knife stuck through its throat?...You’ll denounce these people, Al. You’ll do it publicly. And until you do, you can all get your fat asses out of my White House. ...C.J., show these people out.
「私は聖書を最初から最後まで読んでいる人間だ。the Lambs of Godは喉にナイフを突き刺したラゲディ・アンの人形(アメリカの伝統的な人形)を12歳の私の孫娘に送りつけてくれたのだが、彼らはその『神懸かりな』インスピレーションを聖書のいったいどの部分から得たのかね?…君たちが彼らのことを公然と非難するまでは、厚かましくホワイトハウスを訪れたりしないでくれ。…C.J.、彼らを出口まで案内しなさい」

原理主義者は、中絶支持者は神の敵なので地獄に堕ちるべき、と本気で信じているので、彼らがthe Lambs of Godを非難することはあり得ないため、バートレット大統領のホワイトハウスは原理主義者の要求をのまずに済む、というわけなのです。

the Lambs of Godは架空のグループ名ですが、これは中絶クリニックを爆破した犯人エリック・ルドルフ(アトランタ・オリンピックのオリンピック・パークの爆破犯でもあります)や中絶医を殺したポール・ヒル牧師を崇拝しているThe Army of God、や中絶医を射殺したジェイムズ・コップを聖者として崇めているThe Lambs of Christという実在する右派キリスト教徒の戦闘組織をモデルにしたものなんですよね。

このエピソードが放送されたときは、クリントン政権が台頭する右派キリスト教徒の力を恐れていた、という時期だったんですけど、この2年後、ブッシュ氏が大統領になってからは学校でのコンドーム配布は禁じられ、ポルノ取り締まりに莫大な予算が投じられ、公立学校での祈りもおおっぴらに行われるようになっています。

『ザ・ホワイトハウス』のクリエイターであるアーロン・ソーキン氏(ユダヤ系アメリカ人)の先見の明に感服せざるを得ませんよね。

この機会に、みなさんも是非ともシーズン1の1話を見直して、このドラマのおもしろさを再確認してください!

脚注
*1.テレビ伝道師(televangelists
テレビを通してキリスト教の教えを伝導する人たちのこと。TV説教師(TV preachers)とも呼ばれる。
*2.原理主義キリスト教徒(Fundamentalist
聖書を文字通り真実だと解釈しているキリスト教徒のこと。特に以下のことを信じている。

キリスト教徒以外は死後、地獄に堕ちると信じている
中絶は人殺しだから反対だけど、死刑にはなぜか大賛成
同性愛は重罪で、エイズは同性愛者に対して与えた罰
合衆国はキリスト教の理念に基づいて造られた国なので、キリスト教を国教化すべきだと信じている
銃所持権は合衆国の憲法で制定されている正当な権利なので銃規制には絶対反対
有色人種差別がいまだにまかり通っている


過去のコラム
公立学校での祈り問題について詳しく知りたい人は
「原理主義キリスト教徒2 〜アメリカの公立小学校で行われている「Bible class」」


関連リンク
海外TVドラマ『となりのサインフェルド(ソニー・ピクチャーズ)』


ボキャブラリー
right-wing :右派の、右翼の
pray:祈る
pornography:ポルノ
negotiate:交渉する
reverend:牧師
cover to cover:(本を)最初から最後まで



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