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ネイティブ感覚で観る『ザ・ホワイトハウス』


Updated every Monday, 更新日:12月18日

ジャーナリスト 西森マリー先生

西森先生
西森先生のプロフィール
人気海外ドラマ『ザ・ホワイトハウス』を題材に、アメリカ在住ジャーナリスト、西森マリーさんが英語の台詞とその背景をわかりやすく解説。アメリカの社会背景・文化を知れば英語の台詞もなっとく、楽しみながらアメリカの「今」を学ぼう!


ネイティブ感覚で観る『ザ・ホワイトハウス』 61
貧困撲滅戦争 VS 福祉政策撲滅戦争  
War on Poverty v War on Welfare
From Season 3 episode 20, "We Killed Yamamoto"
 
今週のエピソード(アメリカでの放送日は2002年5月15日)では、貧困を撲滅するために戦う民主党と、福祉政策を撤廃するため戦う共和党の対立が描かれています。

貧者や弱者、マイノリティに政府が援助をさしのべ、貧富の差、人種間格差をなくしたい、というのが民主党の基本方針。  

アメリカにおける福祉政策は、大恐慌を乗り切った民主党のフランクリン・ルーズベルト大統領が基礎を築き、ケネディ大統領(民主党)、リンドン・ジョンソン大統領(民主党)によって強化されました。  

一方、貧乏人が貧乏なのは自業自得(努力が足りないから)、というのが共和党の考え方。  

だから、共和党のポリシーは、貧乏人を政府が援助する必要はない、というもの。  

そのため、共和党はことあるごとに福祉政策を弱体化させようと画策し、レーガン大統領(共和党)は「政府から福祉予算(生活保護金)をだまし取り、キャデラックに乗って裕福な生活を送っている黒人のwelfare queen(福祉予算で女王のような暮らしをしている詐欺師)がいる」と吹聴し、それ以降、アメリカの世論がアンチ福祉に傾きました(後に、レーガン氏の話は作り話で、キャデラックに乗っているwelfare queenなど存在しないことが明らかになりましたが、何度も繰り返されたこの逸話は真実としてアメリカ人の脳裏にしっかりと焼き付いてしまったのです)。  

こうした風潮の中、共和党が上下両院を制した1996年、ついに民主党大統領たちが築いた福祉政策が大幅に改革され、福祉を受けられるのは一個人につき一生の間5年のみ、福祉を受けるためには週35時間は働かなくてはならない、などの様々な制限が加えられた上、職業訓練予算などが大幅にカットされてしまいました。

そして、2001年に大統領になったブッシュ氏は、「貧者救済は政府の仕事ではなく教会の役割」というスタンスに立ち、支持基盤である原理主義キリスト教の思想に沿った政治を始め、連邦政府の福祉予算を宗教団体に横流しする方針を明らかにしていました。  


この社会背景をふまえて、次席補佐官ジョシュとピンテロ議員との会話を見てみましょう。  

バートレット政権は福祉政策を強化する法案を出していますが、上下両院で与党の共和党に様々な制約や付加条項をつけたされてしまいます。

Pintero: The President has to agree to a compromise.
Josh: We can’t cave on childcare.
Pintero: You’re getting a billion more on childcare.
Josh: A billion?
Pintero: For a trade.
Josh: What?
Pintero: We put in three hundred million more for marriage incentives, and we raise the work requirements to 38 hours a week.
Josh: Well, the work requirement aside, the marriage incentives...
Pintero: It's the only way.
Josh: Marriage incentives are terrible!
Pintero: It's the only way.
ピンテロ: 大統領は妥協しないといけません。
ジョシュ: 保育援助金は減らせない。
ピンテロ: 保育援助金は10億増えるんですよ。
ジョシュ: 10億?
ピンテロ: 交換条件をのめばの話です。
ジョシュ: どんな?
ピンテロ: 結婚奨励予算を3億ドル増額し、(福祉手当をもらうために)働かなくてはならない時間を週38時間へと延長するんですよ。
ジョシュ: 労働時間の延長はまだしも、結婚奨励は…
ピンテロ: これしか(法案を通す)道はないんです。
ジョシュ: 結婚奨励はひどいものじゃないか!
ピンテロ: これしか道はないんですよ。

福祉手当(生活保護金)をもらうためには働かなくてはならない、という方針はWelfare to Workと呼ばれ、1996年にこの方針が採択された当時は、民主党にも支持者がけっこういたんですよね。

でも、職業訓練のための予算がカットされた上に、必要労働時間が延長されたら、まともな職業に就くために勉強する時間がなくなり、貧困層の人々はいつまでたってもスキルを必要としない賃金の安い職にしかつけないので、社会的上昇は望めません。  

だから、このエピソードが放送された段階では、民主党議員のほとんどが必要労働時間の延長に反対していました。  

民主党議員たちは、福祉政策に結婚奨励金を加える、という共和党のポリシーにも強く反対していました。  

でも、原理主義者たちは「両親が揃った家庭のみで心身ともにまともな子供が育つ」という超保守的な思想を持っていて「ちゃんとした家庭を築けば、子供もドラッグやアルコール、犯罪には手を染めないから、子供の世代からは貧困から立ち直れる」、と信じているのです。  

ですから、結婚奨励金を出す一方で未婚の母への養育援助金を削減し、政府が結婚を積極的に奨励する、という政策が理に適っていると本気で思っているのです。


この後、首席補佐官レオにこの二つの条件をのむようにと言われた大統領はこう言っています。

Is marriage really something that should be incentivised? And where the hell are all the small government conservatives when we're talking about Washington getting into the yenta business?
「結婚ってもんは、奨励金を払ってまで奨励すべきものだろうかねぇ。ワシントン(連邦政府)が(結婚というプライベートなこと)におせっかいにも関わろうとしているのに小さな政府を望む保守派の連中が反対しないとは実に妙だ」

これは、保守派(=共和党)が「木を切り石油を使い銃を持つのは個人の権利/自由なので政府がとやかく言うことではない」、と言って、環境保護や銃規制を違憲としているのに、中絶や同性愛者の結婚、貧困層のシングル・マザーのプライバシーには口を出していることに対する皮肉です。  

でも大統領は貧困層の子供たちの福利のために、しぶしぶこの条件をのむことにしますが、女性の権利を主張するエイミーは恋人であるジョシュと口論を繰り返します。  

苦し紛れに、

Every single study, every one shows that kids do better in two-parent houses.
「あらゆる調査が二親揃っていたほうが子供にはいい環境だという結果を出してる」

と、共和党のお題目をとなえるジョシュにエイミーはこう言っています。

Does my government really believe that the law can create a family? Do these old fat-ass men really believe that if they just pay people to act like "Leave it to Beaver", everything'll be fine? Did you really think the person in my job is going to sit? This is about collecting votes from white men.
「法律で家族を作り上げられると、私の国の政府は本気で信じてるわけ? 国会でふんぞりかえったじいさんたちは、みんなにおカネをあげて『Leave it to Beaver』のまねごとをさせれば全てうまく行くと本気で信じてるの? 私みたいな立場にいる人間がこんなことを黙ってやり過ごすと、あなたは本気で思ってるの?(結婚奨励予算なんて)白人の男から票を集めるためのトリックにすぎないわ」

Leave it to Beaver』は、50年代にアメリカで放送された30分の番組。郊外に住む中流家庭(堅実な会計士の父親と賢い主婦の母親、二人の子供という家族構成)の暮らしをユーモラスに描いた温かいホーム・ドラマで、「古き良き時代のアメリカの象徴」として使われています。

ですからエイミーの一言は未婚の母や同性愛者の結婚を否定して、いまだに「父親(男)が働き、母親(女)は家で家庭を守り、子供を育てる」というのが真のアメリカン・ファミリーだと信じている原理主義者に対する痛烈な皮肉なんですよね。

エイミーは結婚奨励予算が付け加えられたこの折衷法案を阻止するために民主党議員に働きかけ、さらに、

we've been phone-banking the Bible Belt telling them how weak the abstinence provisions are.
「禁欲に関する付加条項が弱すぎる、ってバイブル・ベルトに電話攻撃をしかけてるの」*脚注1)

と言っています。

つまり、ワシントンで左派民主党議員に「結婚奨励予算があるから法案に反対せよ」と働きかけるだけではなく、南部、中西部の原理主義者たちに電話をかけて「この法案は禁欲に関する付加条項が弱すぎるから、あなたの地域の議員に反対するように直訴しなさい」と草の根運動をしている、ということです。  

敵のことも利用する、というこの作戦は、実際によく使われ、2000年の大統領選では、共和党が緑の党所属のラルフ・ネイダー氏に資金援助して「(対立候補である民主党の)ゴアは大企業に甘い」という選挙CMを流していました。  

このエピソードが放送された2002年5月の段階では、ブッシュ政権はまだ結婚奨励金制度を立法化できずにいたのですが、その後、遂に民主党の悪夢が現実となり今では1億ドルもの連邦予算が結婚奨励金として教会などの団体に割り振られています。  

そして、もちろん、ブッシュ政権の福祉対策には、貧困層が子供を次から次へと生んで貧しい子供が増えないように、という配慮から禁欲を奨励/教育するための補助金も含まれています。

『ザ・ホワイトハウス』は、バートレット政権とブッシュ政権を比較しながら見るとおもしろさが倍増しますよね!  

来週は、大統領選におけるイメージ作戦に関する話題をお送りします。

脚注
*1.バイブル・ベルト
キリスト教原理主義者が多く住むアメリカ南部、中西部地域を指す。


関連リンク
TV.comの『Leave it to Beaver』ページ(画像などが見られる)


ボキャブラリー
welfare:福祉、幸福
compromise:譲歩、妥協
incentive
:奨励、刺激
abstinence
:自制、禁欲




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