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ネイティブ感覚で観る『ザ・ホワイトハウス』


Updated every Monday, 更新日:12月4日

ジャーナリスト 西森マリー先生

西森先生
西森先生のプロフィール
人気海外ドラマ『ザ・ホワイトハウス』を題材に、アメリカ在住ジャーナリスト、西森マリーさんが英語の台詞とその背景をわかりやすく解説。アメリカの社会背景・文化を知れば英語の台詞もなっとく、楽しみながらアメリカの「今」を学ぼう!


ネイティブ感覚で観る『ザ・ホワイトハウス』 59
自由 vs 自由の濫用 
Freedom v. Abuse of Freedom
From Season 3 episode 18, "Enemies Foreign and Domestic"
 
今週は自由とその濫用に関する話題をお届けしましょう。
サウジアラビアの女子校で火事が起きたのですが、校内にいた女子中学生たちが男性に見られてもいい格好をしていなかったため、Muttawa(宗教警察)が彼女たちの救出を禁じ、17人の女子中学生が焼け死にました。

記者会見のシーンを見てみましょう。
記者の一人から「ホワイトハウスはこの件に関してコメントがありますか?」と聞かれ、報道官C.J.は最初は「まだ大統領と話していないので別にありません」と答えるのですが、別の記者から「あなたは憤慨していないんですか?」と聞かれ、こう言っています。

Outraged? I'm barely surprised. This is a country where women aren't allowed to drive a car. They're not allowed to be in the company of any man other than a close relative, they're required to adhere to a dress code that would make the Maryknoll Nun look like Malibu Barbie.
憤慨しているか、ですって? 驚いてさえもいませんよ。(サウジアラビアは)女性がクルマの運転をすることも許してない国ですからね。女性は血縁者以外の男性と同席することさえ許されていないんですよ。女性は厳しい服装規制に従わなくてはいけない。この服装規則に比べたらカトリックの尼僧の服装はバービー人形みたいにセクシーだと言えるほどです。
They beheaded 121 people last year for robbery, rape, and drug trafficking, they've no free press, no elected government, no political parties, and the royal family allows the religious police to travel in groups of six, carrying nightsticks and they freely and publicly beat women. But "Brutus is an honourable man."
あそこでは去年、強盗、レイプ、麻薬売買の犯人121人が首切りの刑で処刑されました。報道の自由もなければ、選挙で選ばれた政府も存在しないし、政党もない国で、こん棒を持った宗教警察が6人一組で巡回し公の場で思う存分女性を殴ることを王族が許可している国です。でも『ブルータスは高潔な人間だ』なんです。
Seventeen schoolgirls were forced to burn alive because they weren't wearing the proper clothing. Am I outraged? No, Steve. No Chris. No, Mark. That is Saudi Arabia, our partners in peace.
17人の女子学生が適切な服装をしていなかったという理由で焼き殺された。私が憤慨しているか、ですって? スティーブ、クリス、答えはノーです。平和を促進する我々のパートナー、サウジアラビアとはそういう国だ、というだけのことです。

C.J.の皮肉、痛烈ですよね。
なぜブルータスが出てくるのかピンと来ない方もいらっしゃると思うので、この一言のもとになっているシェイクスピアの『ジュリアス・シーザー』の一節をご紹介しておきましょう。

シーザーを暗殺した後、ブルータスがローマ市民の前で演説し、シーザーを殺したのは

Not that I lov'd Caesar less, but that I lov'd Rome more. 「私がシーザーを愛していなかったからではなく、シーザーを愛する以上にローマを愛していたからだ」という名言とともにシーザー暗殺を正当化し、聴衆は彼に拍手喝采を送ります。

この後、シーザーの腹心の部下だったアントニーが、ブルータスの言葉を信じてしまったローマ市民を自分の味方につけようと演説を始めます。

ちょっと長いんですけど、超有名な台詞なので全部ご紹介しますね。

Friends, Romans, countrymen, lend me your ears;
友よ、ローマ市民、同胞諸君、耳を貸してくれたまえ

I come to bury Caesar, not to praise him.
私はシーザーを葬るためにここに来た
彼を称えるために来たのではない

The evil that men do lives after them;
人間が行う悪事は人の死後も生き延びるものだが

The good is oft interred with their bones:
善行はしばしば骨と共に埋葬される

So let it be with Caesar.
シーザーもそうさせてやろう

The noble Brutus hath told you Caesar was ambitious:
高潔なブルータスは、シーザーが野心を抱いていたと諸君に言った

If it were so, it was a grievous fault;
そうであればそれは嘆かわしい過ちであり

And grievously hath Caesar answer'd it.
嘆かわしくもシーザーはその報いを受けた

Here, under leave of Brutus and the rest,--
ここで私はブルータスと他の皆の許可のもとに

For Brutus is an honourable man;
――なぜならブルータスは高潔な人物であり

So are they all, all honorable men,--
彼らは皆高潔な人々であるからだが――

Come I to speak in Caesar's funeral.
こうしてシーザーの葬式で語ることになった

He was my friend, faithful and just to me:
彼(シーザー)は私にとって誠実で公正な友人だった

But Brutus says he was ambitious;
だがブルータスは彼が野心を抱いていたと言う

And Brutus is an honourable man.
そしてブルータスは高潔な人間だ

He hath brought many captives home to Rome,
シーザーは多くの捕虜をローマに連れ帰り

Whose ransoms did the general coffers fill:
彼らの身代金は政府の財源を満たした

Did this in Caesar seem ambitious?
このようなシーザーが野心的と見えただろうか?

When that the poor have cried, Caesar hath wept:
貧しき者たちが泣いたときシーザーも涙を流した

Ambition should be made of sterner stuff:
野心とはもっと容赦なきものではなかろうか

Yet Brutus says he was ambitious;
しかしブルータスはシーザーに野心があったと言う

And Brutus is an honourable man.
そしてブルータスは高潔な人物だ

You all did see that on the Lupercal
諸君も皆ルペルクス(豊穣の神)の祭で見たはずだ

I thrice presented him a kingly crown,
私は三度シーザーに王冠を差し出したが

Which he did thrice refuse: was this ambition?
彼は三度それを拒否した:これが野心だろうか?

Yet Brutus says he was ambitious;
それにも関わらずブルータスは彼が野心的だったと言う

And, sure, he is an honourable man.
そしてご存じの通りブルータスは高潔な人物だ

I speak not to disprove what Brutus spoke,
私はブルータスに反証しようとして演説しているのではない

But here I am to speak what I do know.
自分が知っていることを言うためにここにいるだけだ

You all did love him once,--not without cause:
諸君も皆かつて彼を愛した,――理由もなく愛したわけではない

What cause withholds you, then, to mourn for him?--
だとすれば、どんな理由があって彼の死を悼むことを差し控えるというのか?

O judgment, thou art fled to brutish beasts,
ああ分別よ、そなたは野獣の胸へと逃走してしまった

And men have lost their reason!--Bear with me;
人間は理性を失った! ―― 我慢して聞いてくれ

My heart is in the coffin there with Caesar,
私の心はシーザーと共にその棺の中にある

And I must pause till it come back to me.
それが戻ってくるまでこの話を中断せねばならない。


この後アントニーは、シーザーは遺言でローマ市民を遺産相続人にした、など、シーザーの偉大さを語ってローマ市民のシーザーへの敬愛を再燃させ、血なまぐさい暗殺がいかに残忍だったかをドラマチックに説明し、ローマ市民の怒りを煽ります。

この結果、ブルータスたちは野心家の暴君を殺したヒーローから一転して英雄を暗殺した反逆者になってしまうんですよね。

この演説を知っていると、C.J.の「サウジアラビアはどんなひどい国であろうと、ブルータス同然高潔だ」という皮肉の小気味よさをさらに深く味わえますよね。

また、ディベートや演説のお手本ともなっているアントニーの台詞を引用した裏に、「演説(=言論の自由)は大衆の意見を左右し得る威力を持っているので、言論の自由は非常に重要だ」と示唆する、という意図が含まれていることも読み取れますよね。


後半は、ロシア政府からブラックリストに載せられてしまった女性記者に、広報部長のトビーが取材許可証を与えるシーンを見てみましょう。

最初はロシア政府による報道の自由弾圧だと思ってこの記者に同情的だったトビーは、彼女がブラックリストに載せられた原因をつきとめ、彼女をしかりつけています。

Toby: Last month, you alleged that the Chigorin government bombed several apartment buildings based on an unattributed source. It was refuted; you never retracted!
Reporter: The government's case was all over the television!
Toby: Last week, you had a cover story about President Chigorin's mother-in-law moving closer to the Kremlin. You printed her home address, she had to relocate.
Reporter: Well, that's her decision.
Toby: You reported the failing grades of the Defense Minister's twelve-year-old son! Does that even count as journalism? Does that do anything but bring ridicule on a defenseless kid? We've got people like you here, on cable and on the Internet, and there's no one anywhere on the ideological spectrum that doesn't roll their eyes when their names are spoken out loud.
Toby: You know, we've always had free press here, we take it for granted... how can you treat it like this?! You should give up your space and put another naked woman in there! Anyway. Here are your credentials.
トビー: 先月、君は出所不明の情報をもとに(ロシアの)チゴーリン政権がアパートのビルをいくつか爆撃したと断言し、そんな事実はないと立証された後も撤回しなかった。
記者: そのことはテレビでさんざん報道されました。
トビー: 先週はチゴーリン大統領の義理の母親がクレムリンの近くに引っ越すという記事をトップで扱い、住所まで載せて、彼女はまた引っ越しせざるを得なくなった。
記者: それは彼女の勝手でしょ。
トビー: 国防大臣の12才の息子のひどい成績を載せただろう! そんなもんがジャーナリズムかね? 無防備な少年をバカにしただけで、国益とはいっさい無関係だろう。アメリカにもケーブルTVやインターネットには君みたいな連中がいて、彼らの名前が挙がるとどんなイデオロギーの人間も軽蔑の念をあらわにするんだよ。
トビー: アメリカには昔から報道の自由があって、我々はそれを当然の権利だと思ってきたわけだが、君はよくも報道の自由に泥を塗ってくれたものだな。君のコラムなど廃止してそのスペースに女性のヌードを載せたほうがマシだ! とにかく、これが君の取材許可証だ。

これは、ブッシュ政権の宣伝党として偏った報道しかしないフォックスTVや、報道の自由をはき違えて誹謗中傷し、根も葉もない噂をまことしやかに『報道』しているアメリカのケーブル局、ラジオ番組、インターネットを批判した一言です。

来週は、アメリカのメディアのあり方に関する話題をお送りします。お楽しみに!

作者注:
実は、このエピソードには、大統領の知人ジェイク・キンボール氏がCEOを務めるテクノロジー関連の会社が倒産の危機に追い込まれた、というサブ・プロットが出てきます。

この会社を助けるために行政的な措置を執ろう、という首席補佐官レオの提案を却下し、大統領はホワイトハウスがこの会社との取引を続ける、と発表することが唯一の助け船だとキンボール氏に告げ、「ただし、二度と私にも民主党にも献金しないように」と付け足すんですよね。

一方、キンボール氏は、従業員は解雇せず、彼は2年間無給で通し、重役の給料を5割カットすることで危機を乗り切るつもりだと語ります。

このエピソードが放送されたのは2002年5月1日。

ちょうどエネルギー供給大手エンロンの詐欺行為、そしてエンロンを助けるためにブッシュ政権が陰で画策したことが話題になっていた時期なんですよね。

ですから、このサブ・プロットはブッシュ政権の大企業との癒着を批判したものでもあるのです。


関連リンク

書籍『ジュリアス・シーザー』

ドキュメンタリー映画『エンロン 巨大企業はいかにして崩壊したのか?』公式サイト(11月18日公開)

元エンロンCEOに禁固24年4カ月・米連邦地裁判決(日本経済新聞)
 


ボキャブラリー
outraged:激怒した
bury:埋葬する
oft:often(古語)
ransom:身代金、賠償金
disprove:〜に反証する
mourn:嘆く、悼む
coffin:棺
unattributed:出所不明の
relocate:引っ越しする
ridicule:あざわらう




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