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ネイティブ感覚で観る『ザ・ホワイトハウス』


Updated every Monday, 更新日:11月20日

ジャーナリスト 西森マリー先生

西森先生
西森先生のプロフィール
人気海外ドラマ『ザ・ホワイトハウス』を題材に、アメリカ在住ジャーナリスト、西森マリーさんが英語の台詞とその背景をわかりやすく解説。アメリカの社会背景・文化を知れば英語の台詞もなっとく、楽しみながらアメリカの「今」を学ぼう!


ネイティブ感覚で観る『ザ・ホワイトハウス』 57
北極野生生物保護区での掘削〜drillingとexploring〜
ANWR Drilling
From Season 3 episode 16, "The U.S. Poet Laureate"
 
今週は、石油業界と共和党が推しているANWRthe Arctic National Wildlife Refuge:北極野生生物保護区)での石油掘削に関する話題をお届けしましょう。

上下両院で共和党はもう何十年も前から北極野生生物保護区での石油掘削案を何度も提出していますが、このエピソードが放送された2002年の3月27日までは、クリントン大統領が拒否権を発動したり上院で民主党がフィリバスター(Filibuster:議会で法律の成立を妨害するために、延々としゃべり続けるという戦術)を行ったりしてこの法案を阻止し、北極の自然がかろうじて保護されていました。

2002年3月は、ブッシュ政権が「テロリストの温床である中東からの石油への依存率を減らすために!」という大義名分を掲げてANWR掘削を最重要項目としていた時期だった、という歴史的背景をふまえて、バートレット大統領とリポーターのやりとりを見てみましょう。 

保護区での掘削に反対しているバートレット大統領は、石油ではない代替エネルギーの開発の重要性を説くために記者会見を開くことになっています。

まず、この記者会見のPRのために大統領が様々な地方局のリポーターを相手にサテライト・インタビューをするシーンを見てみましょう。

President: 65% of the world's oil reserves are in the Mid East. 3% are here at home. I, for one, wouldn't mind sending a little less of my money over there and the only alternative is to use less oil.
Reporter: Last question Mr. President. Governor Robert Ritchie of Florida the likely Republican nominee for the fall campaign, in his new book "A Promise to Lead," he says that we should be exploring the Arctic National Wildlife Reserve for new sources of energy. Will this be a hotly-contested campaign topic?
President: I hope so, but there'll be plenty of time for campaigning come the fall. Thursday night is about America's energy future.
大統領: 世界の油田の65%は中東にあり、アメリカの油田は3%にすぎません。少なくとも私は中東に払う自分のおカネの金額を減らしてもいいと思ってるんですが、そうするための唯一の方法は石油への依存を減らすことです。
リポーター: 最後の質問です。フロリダのロバート・リッチー知事が共和党の大統領候補になりそうですが、彼は彼の新しい本『指揮の約束』で新しいエネルギーの源として北極野生生物保護区を探るべきだと書いています。これはキャンペーンでホットな争点となるでしょうか?
大統領: 争点になってほしいですね。でも、キャンペーンは秋にやればいいことですから、木曜の夜はアメリカの燃料の将来について語りましょう。

このインタビューが終わった直後、広報部長トビーが大統領の言葉遣いに関して注意しています。

Toby: When they say "exploring" you got to say "drilling." There's a 12 point kick with ANWR between "exploring" and drilling."
President: What else?
Toby: Saudi Arabia, bad.
President: Got it.
トビー: リポーターがexploring(探求、探る)と言ったら、drilling(掘削)と言い直してください。北極野生生物保護区(での石油掘削)はexploringという言葉を使うと、drillingよりも12ポイントも支持率が上がるんですよ。
大統領: 他に何かあるかい?
トビー: サウジアラビアは悪玉。
大統領: 了解。

次のインタビューで、大統領はこのアドバイスを巧妙に採り入れています。

バートレット政権がデトロイトと手を組んでハイブリッド・カーの開発に力を入れようとしていることや、代替エネルギー開発を促進する企業に税制優遇措置をとることなどを説明した後のやりとりを見てみましょう。

Reporter: Why is alternative energy important?
President: After a decade of wars with Iraq and a spread of religious extremism in Saudi Arabia, we still rely on this very dangerous, very uncertain region for a quarter of our oil reserves. And I, for one, wouldn't mind not sending quite so much of my money there.
Reporter: Now, wouldn't that suggest that Florida Governor Robert Ritchie was correct in his book "A Promise to Lead" when he says we should be opening up the Arctic for exploration?
President: Exploring is what Magellan did and Balboa and Jacques Cousteau. What we're talking about is drilling which is the only way you know if there's oil there and which will forever damage national treasures like ANWR.
Reporter: What about Clean Coal?
President: Clean Coal is a term that pollsters came up with 'cause it polls higher than regular coal. What we want are real cleaner burning fuels. We want to control our destiny through innovation and that's what we're going to be talking about Thursday night.
リポーター: なぜ代替エネルギーが重要なのですか?
大統領: イラクとの戦争が10年も続き、サウジアラビアに極右のイスラム教徒がはびこってしまった今も、我々が使う石油の4分の1はこの非常に危険で不安定な地域に依存しています。少なくとも私は自分のおカネをあまり中東で使いたくはないと思っているんですよ。
リポーター: フロリダ州知事ロバート・リッチー氏が彼の本『指揮の約束』で北極でのexploration(探求)を許可すべきだと言っていますが、彼が正しい、ということになりませんか?
大統領: exploration(探求)とはマゼランやバルボア、ジャック・クストーが行ったことです。彼らがやろうとしていることはdrilling (掘削)ですよ。掘削してみて初めてそもそも北極に石油があるかどうかが分かるわけですが、ひとたび掘削を始めたら北極野生生物保護区という国宝は永遠に破壊されてしまいます。
リポーター: クリーン・コール(クリーンな石炭)はどうでしょうか?
大統領: クリーン・コールというのは世論調査専門家が作り上げた言葉です。ただの石炭よりも高い支持率が得られる、ということで。我々に必要なのはよりクリーンな燃料です。我々は技術革新によって自らの運命をコントロールしたいんですよ。木曜の夜の記者会見ではそれに関する話をします。

このエピソードが放送されたのがイラク侵略戦争が始まる前だったことを思うと、大統領の「イラクとの戦争が10年も続き…」という一言の深みが増しますよね。


インタビューが終わった後、大統領はリポーターと私的な会話を続けています。

Reporter: Have you read the book?
President: I'll read it when he does.
Reporter: What's your read on him so far?
President: I don't know, Leslie. I think we might be talking about a .22 caliber mind in a .357 magnum world.
リポーター: 彼(リッチー)の本、お読みになりました?
大統領: 彼が読んだら私も読むよ。
リポーター: 彼のことどう思われます?
大統領: さぁねぇ、レスリー(リポーターの名前)。357口径のマグナム(最強の銃)の世界で22口径の頭脳の話をするようなものじゃないかな。

22口径とは0.22インチ(約5.6ミリ)、357口径は0.357インチ(約9.1ミリ)のことなので、大統領のこの言葉は「リッチーの弱小の脳ミソは偉大な頭脳を必要とする大統領という地位には向かない」と言っているようなものなのです。

この私的な会話を交わしている間、実はカメラがまだオンの状態だったため、大統領の一言が大々的に報道され、ホワイトハウスのスタッフは「カメラがオンだったと気づかずに私的なことを言ってしまっただけ」と、苦肉の対応をすることになります。

一方、メディアはリッチーの頭の悪さに焦点を当てた取材を始め、リッチー陣営は「中傷はやめて政策中心の選挙キャンペーンを!」と呼びかけざるを得なくなってしまいます。

そのため、ホワイトハウス付きの記者の一人が報道官のC.J.にこう質問するんですよね。

C.J.? Policy is the President's forte. Are you guys trying to bait Governor Ritchie into an argument on energy 'cause you know you'll win?
「C.J.、政策論争は大統領のお得意の分野ですよね。エネルギー関連の論争だったら勝てることが分かってるので、あなた方は(わざとリッチーを小馬鹿にした発言をリークして)リッチー州知事がエネルギーのことを話さざるを得ないように仕向けてるんですか?」

C.J.は、この質問は冗談ではぐらかしていますが、その後、大統領とこういう会話を交わしています。

President: Didn't turn out too bad.
C.J.: No sir, it didn't turn out too bad at all. In fact, the whole country's talking about whether Ritchie's smart enough to be President. And you didn't take hit, 'cause it was an accident. You know, it occurs to me that even your choice of language was interesting. "A .22 caliber mind, in a .357 magnum world." That's unusual for you, a gun metaphor.
C.J.: Toby mentioned to me that when each interview was over, all the interviewers wanted to talk to you about was Ritchie, and you took a pass each time. Until Philadelphia. ...Mr. President, is it possible you saw that the green light was on?
大統領: (あの失言は)それほどひどいことにはならなかったな。
C.J.: ええ。全然ひどいことになりませんでしたね。実際、アメリカ中がリッチーが大統領になれるほど利口かどうかを話題にしています。それに、あれはアクシデントだったから、大統領も叩かれずに済んだし。大統領が選んだ言葉もおもしろいですよね。『357口径のマグナム(最強の銃)の世界で22口径の頭脳』ですか? 銃を使った比喩なんて大統領らしくないですよね。
C.J.: トビーが、どのインタビュアーもインタビューの後にリッチーの話をしたがったけど大統領は全く応じなかった、と言ってました。それが、フィラデルフィアのローカル局のインタビューの後は、あの話になったわけですよね。…大統領、ひょっとしてカメラが回っていると承知の上であの発言をなさったんですか?

これに対し、大統領は無言のまま表情だけで答えているのですが、まさにキレモノの政治家ならではの巧みな戦術だったわけなんですよね。


さて、大統領がわざわざフィラデルフィアを選んでこの発言をしたのはなぜなのでしょうか。

2000年の大統領選で激戦区と言われていた州の中でアーカンソー(クリントン大統領出身地)、テネシー(ゴア副大統領出身地)、ミシガン、ミネソタ、ニュー・メキシコ、ネバダ、ペンシルバニアは銃の所有者が多いため、全米ライフル協会(NRA: National Rifle Association)と共和党が莫大な資金を投じてゴア批判のCMをヘビー・ローテーションで流していたのです。
 
で、フィラデルフィアがあるペンシルバニアはこれらの州の中で一番選挙人*脚注1)の数が多いので(ペンシルバニアの選挙人数は21人です)、全米ライフル協会の力の入れようが他の州とは別格だったのです。

それでも、ペンシルバニアは都会型の州なので最終的には環境保護や社会保障制度、中流階級の利益保護に力を入れていた民主党のゴア氏が勝ったんですよね。

つまり、バートレット大統領は銃所有者に通じる言葉で「環境保護の重要性を理解しているのはリッチーではなく私だ」というメッセージをペンシルバニアに送った、というわけなのです。

リッチーのモデルがブッシュ氏であることは以前にお伝えしましたが、このエピソード全体は、

*  ブッシュ氏が本を読まないことで有名なこと
*  ブッシュ氏のエール大学(レガシー・プログラム*脚注2)のおかげで入学できた)での成績がCばかりだったこと。
*  ブッシュ氏と彼の取り巻きはブッシュ政権誕生以前からANWR掘削を狙っていたこと

などが元になっています。

アメリカの現代史をふまえ、現状と比較しながら見るとこのエピソードの巧妙さに改めて感動してしまいますよね!

作者注:
ブッシュ氏が知性を要する会話や書物に興味を示さないことはアメリカでは非常に有名なんですけど、そもそもブッシュ氏の読書嫌いが発覚したのは 1999年のこと。


そのため、ブッシュ氏は子供の頃から読書や知的なことが嫌い、というイメージがすっかり定着したんですよね。

ちなみに1946年生まれのブッシュ君が挙げたその4冊とは、 『The Very Hungry Caterpillar(邦題:はらぺこあおむし)』(1969年出版、ブッシュ氏23才)、 `『James and the Giant Peace(邦題:おばけ桃の冒険)』(1961年出版、ブッシュ氏15才)、 『Tuck Everlasting(邦題:時をさまようタック)』(1975年出版、ブッシュ氏29才) 、 『Sarah's Flag for Texas』(1993年出版、ブッシュ氏47才)です 。



脚注
*1.選挙人
アメリカの大統領選は間接選挙で、大統領を直接選ぶのは、「選挙人(elector)」と呼ばれる人たち。選挙人は、州ごとに定員(州が選出できる上下両議員の数と同じ)がある。

*2.レガシー・プログラム(legacy program
卒業生の子供(学校によっては多額の寄付をしてくれる人や、政治家などの有力者の子孫や親類縁者も含まれる)を成績の良し悪しに関わらず優先的に入学させる制度。アメリカのプレップスクール(大学進学を目指す小中高生のために高度な教育を与える寄宿学校)や多くの大学が実施している。


関連書籍

『The Very Hungry Caterpillar』 『James and the Giant Peace』 『Tuck Everlasting』
  『The Very Hungry Caterpillar』   『James and the Giant Peace』   『Tuck Everlasting』  
『Sarah's Flag for Texas』    
  『Sarah's Flag for Texas』          
 

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ボキャブラリー
drilling:掘削
I for one:私個人としては
coal:石炭
caliber:口径(銃の)
forte:強み、長所




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価格:¥12,285(税込)
字幕:日本語・英語・日本語吹替え用字幕
音声: 英語・日本語
DVD発売元:ワーナー・ホーム・ビデオ