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ネイティブ感覚で観る『ザ・ホワイトハウス』


Updated every Monday, 更新日:11月13日

ジャーナリスト 西森マリー先生

西森先生
西森先生のプロフィール
人気海外ドラマ『ザ・ホワイトハウス』を題材に、アメリカ在住ジャーナリスト、西森マリーさんが英語の台詞とその背景をわかりやすく解説。アメリカの社会背景・文化を知れば英語の台詞もなっとく、楽しみながらアメリカの「今」を学ぼう!


ネイティブ感覚で観る『ザ・ホワイトハウス』 56
北アイルランド問題
The Northern Ireland Troubles
From Season 3 episode 15, "Dead Irish Writers"
 
今週は、北アイルランド問題に関する話題をお届けしましょう。
1688年、オランダのプロテスタント、オラニエ公(英語読みだとオレンジ公)ウィリアムがカトリックのジェイムズ2世を追放してイングランドとスコットランドの王になり、ジェイムズ2世はアイルランドへ逃亡。

で、1690年にウィリアム王がジェイムズ2世を北アイルランドで負かして以来、何世紀にも渡って北アイルランドでのプロテスタント(支配層、経済的にも上位、イングランド拠り)とカトリック(被支配層、経済的にも下、独立主張派)との闘いが続いているのです。

北アイルランド問題の解決に力を入れているバートレット政権は、アイルランドの守護聖人である聖パトリックを祭るセント・パトリック・デーにホワイトハウスで開かれるパーティーに、アイルランドのシン・フェイン党のメンバーであるブレンダン・マギャノン氏を招待しました。

これに関して、駐米イングランド大使マーベリー卿が文句を言うシーンから見てみましょう。

Toby: You have objections to him coming to the White House?
Marbury: My objections are irrelevant. I convey the objections of Her Majesty's Government.
Toby: Which are?
Marbury: He's a terrorist.
Toby: Well, let's hang on a second. Sinn Fein is a political party. In fact, the oldest in Ireland.
Marbury: And the political wing of the IRA...
Toby: Sir...
Marbury: A terrorist cell.
Toby: I wouldn't...
Marbury: You are honouring a man at your St. Patrick's Day dinner allied with car bombers and murderers of British soldiers. This not to mention Irish men, women and children.
Toby: Yes, sir.
Marbury: And you're doing it to appease Democrats from New York City and Boston.
Toby: He's not being honored. He's just been given an invitation.
Marbury: He shouldn't be given a visa.
Toby: And I think we have to be careful how we use the word "terrorist." ...Can I call you John?
Marbury: I am John, Lord Marbury, Earl of Croy, Marquess of Needham and Dolby, Baronet of Brycey, England's Ambassador to the United States, and a terrorist is a terrorist even if he wears a green necktie and sings "Danny Boy." Yes, you can call me John.
トビー: 彼がホワイトハウスに来ることに反対なんですか?
マーベリー: 私が反対かどうかは関係ない。私は女王陛下の政府の不満を伝達しているんだよ。
トビー: つまり?
マーベリー: 彼はテロリストだ。
トビー: ちょっと待ってくださいよ。シン・フェイン党は政党です。実際のところ、アイルランドで一番古い政党です。
マーベリー: IRA(Irish Republican Army:アイルランド共和国軍(北アイルランド独立のための民兵組織))の政治部門でもある。
トビー: 閣下…
マーベリー: テロリストの小集団だ。
トビー: それは…
マーベリー: セント・パトリック・デーにクルマに爆弾を仕掛け、英国兵、さらにアイルランドの人間、女性や子供を殺す連中と同列の男の栄誉を称える、ということだ。
トビー: ですから、それは…
マーベリー: ニューヨーク市とボストンの民主党派に対する懐柔作戦としてだろう。
トビー: 彼の栄誉を称えるわけではなく、単に招待しただけです。
マーベリー: 彼にビザを与えるべきではない。
トビー: 『テロリスト』という呼び方は気をつけて使わないといけませんよ。…あなたのこと、ジョンと呼んでもいいですか?
マーベリー: 私はジョン、マーベリー卿、クロイ伯爵、ニーダムとドルビーの侯爵、ブライシー準男爵、駐米イングランド大使だ。そして、たとえ緑色のネクタイをしてダニー・ボーイを歌おうとテロリストはテロリストだ。いいとも、ジョンと呼んでくれたまえ。

このエピソードが放送された当時(2002年3月6日)のアメリカは、テロ対策という大義名分でアフガニスタン侵略の後、イラク侵略戦争へ向けて秒読み段階、という感じの時期だったんですよね。

イングランドがアイルランドを侵略し、武力で支配して、その後何世紀にも渡ってプロテスタントがカトリックを弾圧してきた経緯、そして、帝国主義に刃向かう者は全てテロリストとして片づけようとする弾圧者の論理を、当時のアメリカの風潮と重ね合わせて見てみると、このやりとりのおもしろさが増しますよね。

マーベリー卿の最後の一言は、どんな呼ばれ方をしようが中身は同じ、という皮肉です。

セント・パトリック・デーにはアイルランドの色である緑色の衣服や装飾品を身につけます。また、ダニー・ボーイは代表的なアイルランドの歌です。

それに、ニューヨーク市とボストン(特に両市の警察署や消防署)にはアイルランド系の人が多いんですよね。

実は、このエピソードは、イングランド政府と北アイルランドの和解に貢献したクリントン大統領が、1995年のセント・パトリック・デーの晩餐会にシン・フェイン党の党首ジェリー・アダムズ氏を主賓としてホワイトハウスに招待したときに、英国政府から激しく非難されたことがもとになっています。


その2年前には、クリントン大統領は、パレスチナとイスラエルの和解にも尽力したんですけど、このときもアラファト氏をアメリカに招待したことでイスラエル側から批判されていたんですよね。

この史実をふまえて、次のやりとりを見てみましょう。

Toby: I think there's something to be said for giving McGann credibility by inviting him to the White House. It strengthens his hand in-in dealing with the more violent members of the party.
Marbury: Degrees of violent.
Toby: We also think if we legitimize him, the Protestants will wake up and accept they've got to negotiate with somebody.
トビー: ホワイトハウスに招待することによってマギャノン(の権威)に信憑性を与えることは悪くはないでしょう。党の中の暴力に走るメンバーを制御する彼の力を強めることになりますから。
マーベリー: 暴力といってもいろいろ度合いがある。
トビー: それに我々が彼を合法的な政治家と承認すれば、プロテスタントも目覚めて誰かと交渉しなきゃならないと認識するでしょう。

トビーの台詞は、アメリカの友人であるイングランドやイスラエルを激怒させても、交渉によって紛争を解決したい、という民主党政権(クリントン/バートレット)の姿勢と、なんでも武力で圧倒しようという現政権の違いが明確に示している名言ですよね。


最後に、マーベリー卿の苦言をご紹介しておきましょう。

Marbury: You're making the mistake of youth.
Toby: The President's not a kid.
Marbury: Your country is. You're involving yourself in a centuries-old conflict without sufficient regard for history. Listen to the warning of old friends. It was Kipling who warned to expect "the blame of those ye better, and the hate of those ye guard."
マーベリー: 若さ故の過ちですな。
トビー: 大統領は子供じゃないですよ。
マーベリー: でも、あなたの国は子供だ。歴史を十分に把握せずに何世紀も続いた紛争に関わろうとしている。旧友の警告に耳を傾けなさい。キプリングは『向上させてやろうとすれば文句を言われ、守ってやろうとすれば嫌われる』と警告しています。

マーベリー卿が引用しているのは、インド生まれの英国の作家キプリング(代表作は『ジャングル・ブック』)が1899年に発表した『The White Man's Burden(白人の責務/重責)』という詩です。

内容は、白人が「白人は、未開人達に文明を与える、という文明人としての責務を負っている」という義務感から植民地を作り、現地人に西欧文化を「与えてあげてる」のに、現地人たちからは支配者として憎まれるだけ、というもの。

リベラルな思想を持つ人々は「植民地主義、帝国主義を皮肉った詩」と解釈しているので、このドラマの脚本家兼製作総指揮を務めるアーロン・ソーキンが現政権の帝国主義的な覇権主義を非難してこの詩を引用した、と考えるとマーベリー卿の台詞のおもしろさが倍増しますよね。

このエピソードが放送された1年後の2003年3月20日に、ブッシュ政権はOperation Iraqi Freedomイラク解放作戦(イラクに自由を与えてやる作戦)という名称のイラク侵略戦争を開始し、3年後の今、イラクが泥沼化しているので、マーベリー卿の一言は予言でもあったわけです。

また、イングランド軍部/警察の圧倒的な武力と、手製の武器で立ち向かう貧しいカトリックのアイルランド人の関係は、イスラエルとパレスチナ、アメリカとイラク/アフガニスタンの関係にも酷似しているので、ブッシュ政権のイラク侵略戦争に諸手をあげて賛成したのがイングランドとイスラエルだけだったことにもうなずけるでしょう。

アイルランドとイングランドの関係に関して映画でお勉強したい方は、『父の祈りを(原題:In the Name of the Father)』『マイケル・コリンズ(原題:Michael Collins)』、『ブラディ・サンデー(原題:Bloody Sunday)』をご覧になってください。

関連映画

  DVD『父の祈り(In the Name of the Father)』   DVD『マイケル・コリンズ(原題:Michael Collins)』   DVD『ブラディ・サンデー(原題:Bloody Sunday)』
 


ボキャブラリー
irrelevant:無関係な
political party:政党
appease:なだめる、緩和する
lord:〜卿
earl:伯爵
baronet:準男爵
ambassador:大使
credibility:信頼性、信憑性
legitimize:合法化する




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価格:¥12,285(税込)
字幕:日本語・英語・日本語吹替え用字幕
音声: 英語・日本語
DVD発売元:ワーナー・ホーム・ビデオ