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ネイティブ感覚で観る『ザ・ホワイトハウス』


Updated every Monday, 更新日:11月6日

ジャーナリスト 西森マリー先生

西森先生
西森先生のプロフィール
人気海外ドラマ『ザ・ホワイトハウス』を題材に、アメリカ在住ジャーナリスト、西森マリーさんが英語の台詞とその背景をわかりやすく解説。アメリカの社会背景・文化を知れば英語の台詞もなっとく、楽しみながらアメリカの「今」を学ぼう!


ネイティブ感覚で観る『ザ・ホワイトハウス』 55
民主主義か衆愚政治か〜「投票するな」キャンペーンが行われている理由〜
Democracy or Ochlocracy
From Season 3 episode 14, "Hartsfield's Landing"
 
今週は大統領選の予備選挙*脚注1)に関する話題をお届けしましょう。 大統領選でアイオワ州とニュー・ハンプシャー州の予備選が大事な役割を果たすことは以前お伝えしましたが、今回のエピソードではニュー・ハンプシャー州のハーツフィールド・ランディング(Hartsfield's Landing)という町に焦点が当たっています。

まず、報道官C.J.が新米記者たちのためにこの街に関して説明をしてあげるシーンを見てみましょう。

Hartsfield's Landing is a town in New Hampshire, population 63. While the rest of New Hampshire goes to the polls at 8 AM tomorrow, all of the 42 registered voters of Hartsfield vote at one minute past midnight or a little over two hours from now.
ハーツフィールド・ランディングはニュー・ハンプシャー州にある人口63人の町です。ニュー・ハンプシャー州の他の地域は明日の朝8時に投票を開始しますが、ハーツフィールドの42人の登録有権者たちは午前12時1分、つまりあと2時間余りで投票を開始します。
Hartsfield has accurately predicted the winner in every Presidential election since William Howard Taft, who, by the way, was the founder of the seventh inning stretch wherein we sing "Take Me Out To The Ballgame", music and lyrics by Jack Norworth and Albert VonTilzer.
ウィリアム・タフト大統領以降の全ての大統領選でハーツフィールドでの勝者が大統領になっています。ちなみに、タフト大統領は、大リーグで7回の裏の攻撃が始まる前に観客が脚を伸ばして『Take Me Out To The Ballgame』*脚注2)を歌う、という伝統を作った人物で、この歌はジャック・ノーワース、アルバート・フォン・ティルザーの作詞作曲によるものです。

タフト氏は1909年から1913年まで大統領を務めた共和党の政治家で、「一番太った大統領」として知られています。


次に、ハーツフィールド・ランディングで民主党支持者の有権者フレンダー夫妻が共和党候補に投票すると知った次席補佐官ジョシュが、秘書のドナに彼らを電話で説得するように、と命じるシーンを見てみましょう。

Donna: It's 42 votes.
Josh: That are cast at 12:01 and counted at 12:07. The rest of New Hampshire doesn't come in until nine PM. That's 21 hours of the news having nothing to report but the winner at Hartsfield's Landing. I want it to be us. You have to get on the phone and talk to the Flenders.
ドナ: たった42票なのに。
ジョシュ: その42票は12時1分に投票が始まり、12時7分には集計が終わるんだよ。ニュー・ハンプシャー州の残りの地域は午後9時にならないと投票結果が出ない。つまり(この42票の結果が出た後)21時間に渡ってニュースのリポートはハーツフィールド・ランディングの勝者のことに集中するわけだ。だからここで勝者になりたいんだよ。フレンダー夫妻に電話してくれ。

ハーツフィールド・ランディングという架空の町のモデルになっているのは、ニュー・ハンプシャー州に実在するハーツ・ロケーション(Hart's Location)とディクスビル・ノッチ(Dixville Notch)という二つの町です。

この二つの町では同州の他の地域に先駆けて真夜中に大統領予備選の投票が始まり、その結果が必ず全国ネットで放送されるため、選挙戦を占うカギとして重要な役割を果たしているのです。

特にディクスビル・ノッチ(登録有権者26人のうち半数は共和党員、残りは無党派)は、1968年以来この町の予備選で勝利を収めた共和党候補者が必ず共和党選出の大統領候補になっているので、この町は共和党にとってはとても重要な町なのです。

どちらの町も民主党にとっては大統領選の行方を決定的に左右する、というほどの重要性を備えているわけではありません。

それでもやはりさい先のいいスタートを切れば縁起がいいし、候補者も支持者も選挙運動をしている人たちも気合いの入れ方ががぜん違ってきて、精神的に大きく盛り上がるので、これらの町で勝てば雰囲気作りという面で非常にポジティブに作用するわけです。

こうした背景をふまえてジョシュの言葉を聞くと、この町で勝って21時間全国ネットのニュースでスポットライトを浴びることの意義がよく分かりますよね。


次に、ジョシュとC.J.のやりとりを見てみましょう。

Josh: It is absurd that 42 people have this kind of power.
C.J.: I think it's nice.
Josh: Do you?
C.J.: I think it's democracy at its purest. They all gather at once...
Josh: At a gas station.
C.J.: It's not a gas station, it's nice. There's a registrar or voters, the names are called in the alphabetical order, they put a folded piece of paper into a box. See, this is the difference between you and me.
Josh: You're a sap?
C.J.: Those 42 people are teaching us something about ourselves: that freedom is the glory of God, that democracy is its birthright, and that our vote matters.
ジョシュ: たった42人がこんな力を持ってるなんてバカげてる。
C.J.: 私はいいことだと思うわ。
ジョシュ: そうなの?
C.J.: まさに民主主義の心髄だと思う。みんなで一堂に会して…
ジョシュ: ガソリン・スタンドにだよ。
C.J.: ガソリン・スタンドじゃないわよ。いいことだわよ。記録係とか投票者がいて、アルファベット順に名前が呼ばれて、折った紙を投票箱に入れるのよ。これが(これをいいことだと思うかどうかが)あなたと私の違いよね。
ジョシュ: 君はやけに感傷的だってことだよね?
C.J.: この42人の人々は私たちに教えてくれているのよ。自由は神の栄光であり、民主主義は私たちが生まれながらに持っている権利であり、一人一人の票に意義がある、っていうことをね。

C.J.はこう言っていますが、実際にはフレンダー夫妻はバートレット政権の政策を全く理解していなくて、見当違いの文句ばかり言い、挙げ句の果てには「共和党に投票するのは、バートレット大統領が社会保障制度を民営化しようとしているから」と言ってくれるんですよね(社会保障制度を民営化しようとしているのは共和党のほうです)。

そのためジョシュは説得作戦に見切りをつけて、フレンダー夫妻に好きなように投票してください、と言います。


一方、バートレット大統領は広報部長トビー、広報部次長サムを相手に同時に二つのチェス・ボードでチェスをやっていて、大統領のずば抜けた頭の良さに、二人とも感銘を受けています。

でも、トビーは大統領が常に才人であることを隠して「隣のおじさん」風に振る舞っていることに腹を立てています。

共和党が頭の回転は鈍いけど親しみやすいことで庶民から人気があるリッチー氏(モデルになっているのはご存じ現大統領ブッシュ氏です)を、大統領候補に選ぶことが確実視されている話をした後、大統領はトビーにこう言っています。

What I can't stomach are people who're out to convince people that the educated are soft and privileged and out to make them feel like they're less, then, you know, ‘he may be educated, but I'm plain-spoken, just like you!' Especially when we know that education can be a silver bullet, it can be the silver bullet, Toby! For crime, poverty, unemployment, drugs, hatred.
「教養がある人間は軟弱なエリートだ、というレッテルを貼ろうとしている連中がいることが私は我慢できないんだよ。彼らは教養のある人々は人間として無価値なもの、というレッテルを貼ろうと努めていて、『彼は教養はあるけど、私は(有権者の)あなたがたと同じ飾り気なく話す一般庶民ですよ!』とアピールしてる。教育こそがカギと成り得るというのにだ。犯罪、貧困、失業、麻薬、憎しみなどの問題を解決するカギと成り得るにも関わらずだ」

こうは言うものの、Red Americaでは教養のある人を敵視しているし、原理主義者*脚注3)たちは聖書のみが教科書で、それ以外の教育(特に科学)はevil (邪悪)だと本気で信じているため、バートレット大統領は教養があることを隠して隣のおじさん風に振る舞ってしまうことが多いのです。

大統領は、首席補佐官のレオには、

I soften... I smooth myself out publicly. It's not a put-on, by the way, I'm honestly folksy.
「私は易しく言い換え…公の場では当たり障りのないような話し方をしてしまうんだよ。別にそういう振りをしてるわけじゃなくて、私は実際に庶民的なんだ」

と言い訳をしてみたものの、結局はトビーに、

I don't want to be killed.
「惨敗したくない」

と本音を吐いています。

で、この後トビーは大統領にこう言います。

Then make this election about smart, and not... Make it about engaged, and not. Qualified, and not.
「だったら、頭がいいか否か、積極的か否か、資質があるか否か、という争点でこの選挙を進めましょうよ」

この一連のやりとり、そしてハーツフィールド・ランディングの話は、アメリカの有権者の多くが選挙の争点をちゃんと理解しようという努力を怠り、候補者が親しみやすいかどうかだけで票を入れている現状を皮肉ったものなんですよね。

ゴア氏とブッシュ氏が争った2000年の大統領選のディベートでは、ハーバード大学でディベートの達人と言われていた頭脳明晰なゴア氏と、英語もろくに話せないブッシュ氏の差が明確に現れ、インテリ層や大学生はゴア氏を絶賛しました。

でも、外交や科学にも造形の深いゴア氏が政治や経済、環境問題などに関して専門用語を交えて理路整然と語れば語るほど、原理主義者や労働者階級の人々は「地球温暖化はない」、「おいらが大統領になれば経済はうまくいく」などと易しい英語で安直なことしか言わないブッシュ氏のほうに傾倒し、「親しみやすい」というだけでブッシュ氏に投票してしまったのです。

実は、アメリカの選挙は、レーガン氏が大統領になった頃から、政策よりも人好きがするかどうかで勝敗が決まる、という状態に陥っていたんですけど、2006年の中間選挙では様々な市民団体がこの誤った傾向になんとか終止符を打とうと啓蒙活動を展開しています。

最も注目されているのは、3500万人以上の会員を抱える世界最大級の高齢者NGO、全米退職者協会(AARP:The American Association of Retired Persons)が行っている 「Don't Vote campaign(投票するな)」キャンペーンです。

ここ十数年、MTVなどの若者向けのメディアがさかんにやっていた『投票に行こうキャンペーン』をパロディした形のこのキャンペーンは、5人の人間一人一人が「Don't vote!」と呼びかけ、最後に「健康保険、社会保障制度などに関する候補者の政策をちゃんと知るまでは投票しないように!」と締めくくる、というもの。

候補者の話し方や人相が「人の良さそうな感じだから」というだけで、政策などそっちのけで投票してしまう衆愚政治に陥らないように、というメッセージが含まれたこのCMを見て、アメリカの人々が真の民主主義に目覚めてくれることを祈りたいですよね。

脚注
*1.予備選挙
大統領選の前に、各党で大統領候補の指名を勝ち取るために行われるのが、予備選挙。多くの州で3月の第一火曜日に行われるため「Super Tuesday」と呼ばれている。最も多くの州で勝ちを収めた者が、党の大統領候補に指名されるという仕組みになっている。

*2.『Take Me Out To The Ball Game
歌詞は次の通り。( )にはチーム名が入る
Take me out to the ball game,
Take me out with the crowd.
Buy me some peanuts and crackerjack,
I don't care if I never get back,
Let me root, root, root for the (home team),
If they don't win it's a shame
For it's one two, three strikes you're
out, at the old ball game.
*3.原理主義キリスト教徒(Fundamentalist
原理主義キリスト教徒とは、聖書を文字通り真実だと解釈しているキリスト教徒のことで、特に以下のことを信じている。

キリスト教徒以外は死後、地獄に堕ちると信じている
中絶は人殺しだから反対だけど、死刑にはなぜか大賛成
同性愛は重罪で、エイズは同性愛者に対して与えた罰だと考えている
合衆国はキリスト教の理念に基づいて造られた国なので、キリスト教を国教化すべきだと信じている
銃所持権は合衆国の憲法で制定されている正当な権利なので銃規制には絶対反対
有色人種差別がいまだにまかり通っている
 


関連サイト
ウィリアム・タフト大統領の画像が見られるホワイトハウスのサイト
http://www.whitehouse.gov

Don't Vote campaign」キャンペーンのオフィシャルサイト
投票する前に知っておきたい情報を提供している
http://www.dontvote.com

Don't Vote campaign」キャンペーンのプレスリリース
http://www.aarp.org

過去の記事
予備選挙について詳しく知りたい人は
「アメリカ大統領予備選の勝ち方」

原理主義者たちが科学が邪悪だと信じている理由について知りたい人は
「原理主義キリスト教1〜天地創造説」

ブッシュ氏が話す不思議な英語について知りたい人は
「ブッシュ氏の話す不可思議な英語「ブッシズム」1 〜とんでもない言い間違い」

ボキャブラリー
poll:投票
voter:投票者
predict:予測する、予見する
presidential election:大統領選挙
absurd:ばかげた
alphabetical order:アルファベット順
stomach:耐える、〜に我慢する
silver bullet:特効薬(問題を解決するための確実な方法)
folksy:庶民的な




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