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ネイティブ感覚で観る『ザ・ホワイトハウス』


Updated every Monday, 更新日:10月30日

ジャーナリスト 西森マリー先生

西森先生
西森先生のプロフィール
人気海外ドラマ『ザ・ホワイトハウス』を題材に、アメリカ在住ジャーナリスト、西森マリーさんが英語の台詞とその背景をわかりやすく解説。アメリカの社会背景・文化を知れば英語の台詞もなっとく、楽しみながらアメリカの「今」を学ぼう!


ネイティブ感覚で観る『ザ・ホワイトハウス』 54
アメリカの価値観の押し売り
Imposing American Values
From Season 3 episode 13, "Night Five"
 
今週ご紹介するエピソードは、米国同時多発テロ9/11以降、ブッシュ氏が、Either you are with us, or you are with the terrorists. 「アメリカにつくか、テロリストにつくか」のような発言で、アメリカの価値観、特にキリスト教の価値観を世界に押しつけていることを皮肉ったものです。

まず、ブッシュ政権が、発足と同時にキリスト教の価値観をアメリカ全土に押しつけようとしていたことに関する説明から。

ブッシュ氏が自らも原理主義キリスト教徒であり、原理主義キリスト教徒が支持基盤であることは今まで何度も書いているので、皆さんも既によくご存じですよね。

2001年のブッシュ氏の就任式には、原理主義キリスト教徒の間で人気の高いテレビ伝道師フランク・グラム氏が、公の席でブッシュ氏のために非常にキリスト教色の濃い祈りを行いました。祈りの最後の部分をご紹介しましょう。

Now, O Lord, we dedicate this presidential inaugural ceremony to you. May this be the beginning of a new dawn for America as we humble ourselves before you and acknowledge you alone as our Lord, our Savior and our Redeemer. We pray this in the name of the Father, and of the Son, the Lord Jesus Christ, and of the Holy Spirit. Amen.
「そして今、あぁ主(キリスト教の神)よ、私たちはこの大統領就任式をあなたに捧げます。これがアメリカにとって新たなる夜明けとなり、今後私たちが唯一の主(キリスト教の神)、そして救世主、贖(あがな)い主であるあなたの前にひれ伏しますように。父と子と主なるイエス・キリスト、聖霊の御名においてこの祈りを捧げます。アーメン」

合衆国憲法がうたっている宗教の自由、政教分離を完璧に無視したこの祈りに対し、長い間アメリカの人権/言論の自由の闘士として有名だったアラン・ダーショウィッツ、ハーバード大学法学部教授が、次の日こう書いています。

The plain message conveyed by the new administration is that George W. Bush's America is a Christian nation, and that non-Christians are welcome into the tent so long as they agree to accept their status as a tolerated minority rather than as fully equal citizens. In effect, Bush is saying: "This is our home, and in our home we pray to Jesus as our savior. If you want to be a guest in our home, you must accept the way we pray."
「この新政権が伝えた明解なメッセージは、『ジョージ・W・ブッシュのアメリカはキリスト教国であり、非キリスト教徒はキリスト教国であるという現状を受け入れる限りは少数派として認めてやるが、完全に同等な市民ではない』ということだ。つまり、ブッシュは『ここは我々の家であり、我々の家では救世主であるイエスに祈るのだ。我々の家の客になりたかったら我々の信仰を受け入れなくてはならない』と言っているのだ。

このほぼ9ヶ月後に9/11が起きた後は、アメリカが一気に右翼キリスト教化して、ブッシュ氏は9月16日には、This crusade, this war on terrorism is going to take a while. 「この十字軍、テロに対する戦いは時間がかかるだろう」と発言し、あたかも善の象徴であるキリスト教徒が邪悪なイスラム教徒を成敗する、という含みを持つこの言葉はイスラム教国から激しい非難を浴びました。

この数日後にはアフガニスタン攻撃作戦に、Operation Infinite Justice 「無限の正義作戦」と名付け、「アッラーのみが無限の正義を与えてくれる」と信じているイスラム圏の人々をまたまた激怒させてしまいました(ブッシュ政権はパキスタンや中東諸国の支援が欲しいためにOperation Enduring Freedom「不朽の自由作戦」と作戦名を変更しています)。

さらに10月17日には、It's also important for people to know we never seek to impose our culture or our form of government.「我々は決してアメリカの政治体制や文化を押しつけようとはしていない、ということを是非知って頂きたい」と言った直後に、We just want to live under those universal values, God-given values.「我々は普遍的な価値観の下、キリスト教の神が与えてくれた価値観の下で暮らしたいだけだ」と本音を言ってしまっています。


こうした背景をふまえて、次に実際に台詞を見てみましょう。
このエピソードではバートレット大統領は国連で演説することになっているのですが、その演説の内容をめぐってスピーチ・ライターのサム、トビーと、民主党下院議員のアンディ(トビーの元奥さん)がもめています。

まず、アンディがサムに行った一言から。

You and Toby want to be responsible for starting World War III?
「あなた、トビーと一緒に第三次世界大戦を始めるつもり?」

第三次世界大戦を勃発させるほどのスピーチとはいったいどんなものなのか。次に、アンディとトビーのやりとりを見てみましょう。

Andy: "Freedom must run deeper than the free flow of capital. Freedom must mean more than the free trade of goods and services. The world will be free..."
Toby: I read it.
Andy: "The world will be free when we have freedom of speech for every nation..."
Toby: In fact I wrote it.
Andy: "The world will be free when there is freedom to worship for everyone. The world will be free..."
Toby: Andy...
Andy: "...when we finally shake off the rusted chains of tyranny..."
Toby: Yes.
Andy: "...Whether in the guise of fascist dictatorships..." Toby: You getting nervous?
Toby: You getting nervous?
Andy: "...Or economic slavery, or ethnic hostility..."
Toby: A little nervous?
Andy: "...or..." wait for it... "the crushing yoke of Islamic fanaticism." Gentlemen, start your engines.
アンディ: (スピーチ原稿を読む)『自由は、資本が自由に流れることよりもさらに重要で、商品やサービスの自由貿易より意義深いものです。世界は自由に…』
トビー: もう読んだよ。
アンディ: 『あらゆる国が言論の自由を持ったときに、世界は初めて自由になるのです』
トビー: っていうか、僕が書いたんだ。
アンディ: 『誰もが宗教の自由を得て、世界は初めて自由になるのです。世界は…』
トビー: アンディ…
アンディ: 『…暴政の錆び付いた鎖を振り切ったときに初めて自由になれるのです。』
トビー: そうだ。
アンディ: 『(暴政の体制が)ファシストの独裁政権であれ…』
トビー: イラついてるのか?
アンディ: 『…あるいは』、すごいのはこの後よ、『弾圧の激しいイスラム過激主義であれ』

イスラム教徒は全てが過激派で、イスラム教国は全て弾圧が激しい、と言わんばかりの文章をアンディは、

America doesn't have a monopoly on what's right. And even if we did, I think you're gonna have a tough time convincing the Arab world.
「アメリカは正義を独占してるわけじゃないのよ。もしそうだとしても、アラブ世界は納得しないわ」

と批判します。
でも、トビーは、

Grotesque oppression isn't okay just because it's been institutionalized. If you ask me, we should have gotten into the game three, four decades ago, but they're coming after us now, so it's time to saddle up.
「慣行化したものであれ胸が悪くなるような圧制は尊重できない。言わせてもらえば、3〜40年前に対処すべきだったんだけど、今彼らが我々を攻撃してるから、我々にとっても今が反撃に出る時になった、ってことだよ」

と言い返し、

You know when they're gonna like us? When we win.
「我々が勝てば好かれるようになるさ」

と付け足します。
この後、アンディは引用した文章の後に、別の文章を挿入することをトビーに提案します。

Andy: This will follow your paragraph.
Toby: "Our goal is neither to preach nor proclaim American values. We have deep respect for our Islamic brothers and sisters and we have a great deal to learn from the values of tolerance and faith that are deeply held throughout the Islamic world." So this is your way of saying any resemblance the previous paragraph may have had to foreign policy is purely coincidental?
Andy: That's right.
Toby: Guess what?
Andy: What?
Toby: Our goal IS to proclaim American values.
アンディ: あなたが書いたさっきのパラグラフの後に、これを入れて欲しいの。
トビー: (アンディが手渡した挿入文を読む)『我々のゴールは、アメリカの価値観を説教、あるいは布告することではありません。我々は、イスラム教徒の兄弟姉妹たちを深く尊敬していますし、イスラム世界で深く尊ばれている信仰や寛容を重んじる価値観からは学ぶことが多いと思っています』この文章を挿入して、前のパラグラフは我々の外交政策を反映したものじゃない、とほのめかす、っていうわけか?
アンディ: そうよ。
トビー: 教えてやろう。
アンディ: 何を?
トビー: 我々のゴールはアメリカの価値観を布告することなんだよ。

実は、トビー(ユダヤ人、という設定で、演じているリチャード・シフ氏もユダヤ人です)の最後の一言は、9/11以降、それまでリベラルだったインテリが急に右翼化するケースが多発し、特にユダヤ人の中にそういう人が多かったことを皮肉ったものなのです(アル・カイダがユダヤを宿敵としているから)。

特に、冒頭でご紹介したアメリカ法曹界の大御所アラン・ダーショウィッツ氏が9/11以降に「一般人の命を救うための情報が得られるならテロリストを拷問にかけてもいいだろう」と言ったことは、リベラルなインテリたちにとって大きなショックだったんですよね。

ちなみに、このエピソードが放送されたのは2002年2月6日ですが、その後ブッシュ氏のキリスト教的価値観の押し売りはさらに激化し、2002年 11月21日には、リトアニアで、I like to tell people, freedom is not an American gift. Freedom is a gift from the Almighty God. And I firmly believe that.「よくみんなに言ってあげるんだが、自由はアメリカが与える贈り物ではない。自由はキリスト教の全能の神からの贈り物だ。わしはそう固く信じとる」と、おっしゃっています。

さらに、2002年8月1日、ヨルダンのアブドラ国王との共同記者会見の席では、
I cannot speak strongly enough about how we must collectively get after those who kill in the name of -- in the name of some kind of false religion.「声を大にして言いたい。我々はなんとしてでも団結して、名のもとに --- ワケの分からんエセ宗教の名の下に人殺しをする連中を追跡しなければならん。」と言って、イスラム教を公然と侮辱しています。

アブドラ国王が、イスラム教の創始者ムハンマドの祖父の血を引く家系の出身だということを考えると、この言葉がいかに途方もない失言であるかがお分かりになるでしょう。

こうしたアメリカ現代史の流れの中で『ザ・ホワイトハウス』を見直すと、今回のエピソードは特に深く鑑賞できますよね。

過去の記事
原理主義キリスト教についてもっと知りたい人は
「原理主義キリスト教徒1 〜なぜブッシュ大統領がスマトラ島沖地震への援助に消極的だったか?」

アメリカとキリスト教の関係についてもっと知りたい人は
「キリスト教の神の国:アメリカ」

ボキャブラリー
dedicate:〜を捧げる
administration:政権、陣営
tolerate:我慢する、容認する
savior:救世主
crusade:十字軍、聖戦
tyranny:専制政治、暴政
dictatorship:独裁政治




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