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ネイティブ感覚で観る『ザ・ホワイトハウス』


Updated every Monday, 更新日:10月16日

ジャーナリスト 西森マリー先生

西森先生
西森先生のプロフィール
人気海外ドラマ『ザ・ホワイトハウス』を題材に、アメリカ在住ジャーナリスト、西森マリーさんが英語の台詞とその背景をわかりやすく解説。アメリカの社会背景・文化を知れば英語の台詞もなっとく、楽しみながらアメリカの「今」を学ぼう!


ネイティブ感覚で観る『ザ・ホワイトハウス』 52
世論調査に裏打ちされたスピーチのレトリック
Poll-Tested Speech Rhetoric
From Season 3 episode 11, "100,000 Airplanes"
 
今週は、ブッシュ氏のスピーチを皮肉ったものとしか思えない一般教書*脚注1)に関する話題をお届けしましょう。

以前にも何度かご紹介しましたが、ブッシュ政権、及び共和党はフランク・ランツという世論調査の専門家のアドバイスに従って、事実や現状はさておいて世間にウケがいい言葉のみを選んでスピーチを構成していることで知られています。

このエピソードが放送されたのは2002年1月中旬。 ちょうど、米国同時多発テロ9/11の直後から「彼ら(テロリスト、イスラム教徒)は(クリスチャンである)アメリカのfreedomを憎んでいるから我々を攻撃した」というレトリックを連発していたブッシュ政権が、外の敵(党を超えた共通の敵)に対してアメリカをまとめることに成功していた時期でした。

ブッシュ政権の人々が、テレビに出まくって、世論調査でウケがいいfreedomとかlibertyとかevil enemies「邪悪な敵ども」という言葉を連発して、アメリカ人の自由謳歌精神と敵意をかきたてていた最中だった、ということをふまえて、次の会話を見てみましょう。

スピーチ・ライターであるサムを取材しに来た記者リサ(サムの元婚約者)と、サム、世論調査専門家ジョーイが一般教書の放送を見ながら行うやりとりです。

Lisa: What do the different lines mean?
Joey: Red's for Republicans, blue's for Democrats, and green's for Independents. When we say something liberal, like...
Sam: "Death is bad."
Joey: Right. Blues go up and reds go down. When we talk about values, reds and greens go up. You're usually lucky to break 65.
リサ: (世論調査のモニターに映し出されている)折れ線グラフはなんですか?
ジョーイ: 赤は共和党、青は民主党、緑は無党派の人々(の反応)です。リベラルなことを言うと、たとえば…
サム: 『死は悪い』とか。
ジョーイ: そう。(そういうことを言うと)赤い線が下がるんですよ。価値(家族の絆や宗教の価値)の話をすると赤と緑が上がります。65%の支持率を超えるとラッキー、ということになります。

大統領の演説を見ながらの彼らの会話はさらに続きます。

President(on TV): It may be said that in the last half century, America won the Cold War and modeled freedom for a waiting world. Today, we are faced with a new challenge...
Lisa: Breaking out the greatest hits, huh?
President(on TV): Now in a new century, when we meet and master new forms of aggression and hatred, ignorance and evil, our vigilance in the face of oppression and global terror will be unequaled by any moment of human history.
(All three lines jump up and stay above 50.)
Lisa: Now you're cooking.
President(on TV): And to the enemies of freedom, the enemies of democracy, the enemies of America, the enemies of humanity itself, we say here tonight with one voice. There is no corner of this earth so remote, no cave so dark, that you will not be found and brought to light and ended.
(The lines are above 60 )
Lisa: That's a number spike.
Sam: Hey, crank that up.
Lisa: You broke 65 in all the lines.
大統領(テレビで): 過去半世紀の間で、アメリカは冷戦に勝利を収め、世界に自由の模範を与えたと言えるでしょう。今日、我々は新たなる難題に立ち向かわねばならないのです…
リサ: ここから支持率上昇ってことね?
大統領(テレビで): 新世紀に入り、我々は新しい形の攻撃や憎しみ、無知、邪悪に面し、それらを抑圧しています。世界的なテロや圧制に対し、我々は人類史上、未だかつてないほどの警戒態勢をとっているのです。
(3色の線が全て急激に上がり、50を超える)
リサ: 盛り上がってきたわね。
大統領(テレビで): 自由の敵、民主主義の敵、アメリカの敵、そして人類の敵に、今夜我々は一丸となってこう告げるのです。たとえこの地の果て、真っ暗な洞穴に隠れようとも、我々は必ず敵を捜し出し、白日の下にさらし、企みを終わらせてやる、と。
(3つの線全てが65を超える)
リサ: 支持率急上昇ね。
サム: (テレビの)ボリューム、あげて。
リサ: 全ての線が65以上になったわ。

9/11の直後にブッシュ氏がカウボーイのような(好戦的でなんでも銃の力で解決しようとする)台詞を連発してウケまくっていたことを思い出してください。

よく引用されたブッシュ氏の言葉は、

We'll smoke him out of his cave and we'll get him eventually.
「我々は彼(オサマ・ビン・ラディン)を洞窟から煙でいぶりだして、捕まえてやる」

We'll hunt him down in his cave.
「彼を洞窟まで追いつめて捕まえてやる」

Wanted Dead or Alive.
「死体でも生きたままでもどっちでもかまわない」など。

支持率が急増したバートレット大統領の演説、ブッシュ氏のこれらの台詞のパロディとして見ると、深みが増しますよね。


フランク・ランツ氏のモットーは、

A compelling story, even if factually inaccurate, can be more emotionally compelling than a dry recitation of the truth.
「説得力のある物語は、たとえ事実関係は誤っていても、単に真実を並べるよりも感情的に説得力がある」

つまり、真実はどうでもいいから、感情に訴える説得力のある物語をして支持率を増やすのが得策、ということ。

ブッシュ氏はこのモットーに基づき、2002年の一般教書では、ランツ氏の世論調査で9/11以降特にアメリカ人に大ウケするとお墨付きをいただいたfreedomというキーワードを連発して、拍手喝采を浴びていました。

We choose freedom and the dignity of every life. Steadfast in our purpose, we now press on. We have known freedom's price. We have shown freedom's power. And in this great conflict, my fellow Americans, we will see freedom's victory.
「我々はあらゆる命の尊厳と自由を選び、この確固たる目的を達成すべく進んで行くのです。我々は自由の代価を知り、自由の力を顕示してきました。我が同胞、アメリカ国民のみなさん、この大いなる闘いで我々は必ず自由の勝利を見ることになるのです」

ブッシュ氏の2003年の一般教書ではイラク侵略を正当化するキーワードnuclearが連発されていました。

Today, the gravest danger in the war on terror, the gravest danger facing America and the world, is outlaw regimes that seek and possess nukyular, chemical, and biological weapons. We're strongly supporting the International Atomic Energy Agency in its mission to track and control nukyular materials around the world. We're working with other governments to secure nukyular materials in the former Soviet Union.
(ブッシュ氏はnuclearをニューキュラーと発音するので、発音通りに表記してあります)
「今日、対テロ戦争での最大の脅威、アメリカと世界が面している最大の脅威は核兵器、化学兵器、生物兵器を所有する無法な政権です。我々は、世界中の核の素材の流れを追跡しコントロールする国際原子力機関の役割を強く支持し、元ソ連の核兵器の流出を食い止めるべく、他の国々の政府と協力しています。
Throughout the 1990s, the United States relied on a negotiated framework to keep North Korea from gaining nukyular weapons. And today the North Korean regime is using its nukyular program to incite fear and seek concessions. (snip) Saddam Hussein pursued chemical, biological, and nukyular weapons, even while inspectors were in his country. The International Atomic Energy Agency confirmed in the 1990s that Saddam Hussein had an advanced nukyular weapons development program, had a design for a nukyular weapon and was working on five different methods of enriching uranium for a bomb.
1990年代は、合衆国は北朝鮮が核兵器を所有しないように交渉を続けていましたが、今日、北朝鮮は核を使って恐怖を煽り、交渉相手の譲歩を要求しています。(中略)サダム・フセインは、検査団がイラクを訪れている間さえも化学兵器、生物兵器、核兵器を所有しようとしていました。国際原子力機関は1990年代にサダム・フセインが高度な核兵器開発プログラムを実践し、核兵器を設計し、ウランを濃縮して原子爆弾を作る5つの方法を実験していたと断言しています。
Our intelligence sources tell us that he has attempted to purchase high-strength aluminum tubes suitable for nukyular weapons production. With nukyular arms or a full arsenal of chemical and biological weapons, Saddam Hussein could resume his ambitions of conquest in the Middle East.
我々の情報筋は、彼は核兵器生産に適した高強度アルミニウム・チューブを買おうとした、と言っています。核兵器、または大量の化学兵器、生物兵器があればサダム・フセインは再び中東制覇という野望を達成しようとするでしょう」


イラクが核兵器を持っていなかった、という事実、アルミニウムのチューブを買おうとしたことなどない、という事実なんか、どーでもいいんですよね。

ブッシュ氏は、ニューキュラーという単語を連発することで「イラクは怖い」という『感情的に説得力のある物語』をアメリカ国民の心にしっかり植え付けることに成功したわけです。

いつも書いていることですが、『ザ・ホワイトハウス』はアメリカの政治の現状をつぶさに反映しているところが大きな魅力なんですよね!


脚注
*1.一般教書(State of the Union address/speech/message
アメリカ大統領が毎年1月に議会に赴いて表明する政府の基本方針のこと。
 



ボキャブラリー
republican:共和党員
democrat:民主党員
Independent:無党派
Now you're cooking.:順調そうだね、うまくいってるね
inaccurate:不確かな
steadfast:確固とした
framework:枠組み、骨組み
regime:政権
snip:中略、以下略




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