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ネイティブ感覚で観る『ザ・ホワイトハウス』


Updated every Monday, 更新日:9月11日

ジャーナリスト 西森マリー先生

西森先生
西森先生のプロフィール
人気海外ドラマ『ザ・ホワイトハウス』を題材に、アメリカ在住ジャーナリスト、西森マリーさんが英語の台詞とその背景をわかりやすく解説。アメリカの社会背景・文化を知れば英語の台詞もなっとく、楽しみながらアメリカの「今」を学ぼう!


ネイティブ感覚で観る『ザ・ホワイトハウス』 47
間接的な政治献金〜Fight fire with fire〜  
Soft Money
From Season 3 episode 6, "Gone Quiet"
 
今週は、アメリカの選挙における最大の欠点であるソフト・マネーに関する話題をお届けしましょう。

アメリカの政治献金にはハード・マネー(hard money)とソフト・マネー(soft money)の2種類があります。

候補者に直接寄付するハード・マネーには上限がありますが、候補者や政党の政策を支持する組織に「直接的な選挙運動には使わない」という条件付きで寄付されるソフト・マネーに関してはほとんど制約がないんですよね。

そのため、今までのほとんどの選挙で石油/タバコ/医療/保険/製薬/土地開発業界、そして全米ライフル協会(NRA: National Rifle Association)から莫大なソフト・マネーを得ている共和党が選挙CMでは圧倒的な強さを誇っているのです。

もちろん民主党にも看護婦組合や労働組合、教員組合などからのソフト・マネーが入りますが、数十ドル(数千円)単位の個人の寄付と石油業界など大企業からの数百万ドル(数億円)単位の大口の寄付とでは文字通りケタが違うんですよね。

ですから、バートレット政権はソフト・マネーを取り締まろうとしているのですが、民主党議員の中にもリベラルな大金持ち(現実の世界でいえば、ソロス氏*脚注1)など)やスターたち(バーブラ・ストライサンドやボン・ジョヴィ、ベン・アフレックなど)からのソフト・マネーなしでは選挙に勝てない人がいるため、ソフト・マネー問題はそう簡単には解決できないのです。

ソフト・マネーに関するこの基礎知識をふまえて、まず広報部次長サムが広報部長トビーに言ったこの一言を見てみましょう。

The US Supreme Court, Buckley v. Valeo. The court created a loophole by ruling that campaign-finance laws only apply to communications that in express terms advocate the election or defeat of a clearly-identified candidate for federal office.
「バックリー対ヴァリオの判決で合衆国最高裁は、選挙募金法ははっきり認知できる連邦選挙の候補者の当選あるいは落選を、明確な言葉で推奨する通信活動にのみ適応される、という抜け道を作ったんだよ」

つまり、コマーシャルや広告で、支持、あるいはバッシングする候補者の名前を言わず、「投票しましょう」などの言葉を使わない限り、ソフト・マネーを無制限にPRに投入できる、ということなのです。


次に、選挙の専門家であるブルーノとコニーがソフト・マネーの流用可能な言葉遣いを実例を挙げて説明するシーンを見てみましょう。

Bruno: You don't put "vote Bartlet" in the ad, you can pay for it with unmarked bills from a bank heist if you want to.
Connie: And we should know. There's also footnote 52, where the Court said campaign-finance laws only apply to communications with the terms "vote for," "elect," "support," "cast your ballot for," "Smith for Congress," "vote against," "defeat," "reject," and that's it. I'm savant-like.
ブルーノ: 「バートレットに投票しよう」と言わないCMなら銀行強盗をして盗んだカネが資金源でもかまわない、ってことだ。
コニー: もう一つ知っておくべきことがあるのよ。52個目の脚注で最高裁は、選挙募金法はvote for「〜に投票しろ」、elect「選出しよう」、support「支持する」、cast your ballot for「〜に一票」、Smith for Congress「スミスを議会へ」、vote against「〜に投票するな」、defeat「落選させろ」、reject「拒絶しろ」という言葉を使った通信活動のみに適応される、と言ってるの。私って物知りだったりして。

二人の説明はさらに続きます。

Bruno: Instead of "Jed Bartlet's fighting to rebuild crumbling schools," we'll make it "We're fighting to rebuild crumbling schools."
Connie: And we've got a picture of the President on the screen.
Sam: Yeah.
Bruno: And we change "Vote Bartlet for America" to, uh, "Paid for by Democrats for America."
ブルーノ: 「ジェド・バートレットは崩れかけた学校を建て直すために闘っている」というナレーションの代わりに「私たちは崩れかけた学校を建て直すために闘っています」と言うんだよ。
コニー: で、そこに大統領の画像を入れるわけ。
サム: ふーん。
ブルーノ: それで「アメリカのためにバートレットに投票を」を「アメリカを支援する民主党員たち」に変える。

特定の言葉を使わなくても、映像や巧みな言い回しで「バートレットを再選しよう」という隠れたメッセージがしっかり伝わりますでしょう?

こういう広告は選挙広告ではなくissue ad(意見広告)と見なさるので、選挙募金法の規定外になる、ということなんですよね。

ブルーノたちに説得されてトビーはこうしたCMを流すことに賛同しかかっているのですが、サムはまだ抜け穴を使ってソフト・マネーを流用するようなマネはせずに正々堂々と戦いたいと思っています。

そこでサムはブルーノに、なぜこんな手を使ってまでCMを流したいのか、と尋ねます。

以下、ブルーノの答えを見てみましょう。

'Cause I am tired of working for candidates who make me think I should be embarrassed to believe what I believe, Sam. I'm tired of getting them elected. We all need some therapy, because somebody came along and said "liberal" means soft on crime, soft on drugs, soft on Communism, soft on defense, and we're gonna tax you back to the Stone Age because people shouldn't have to go to work if they don't want to.
「僕の信条として、恥ずべきコトだと思わせてくれるような候補者のために働くのはもうウンザリだからだよ。そういう候補者のキャンペーンをするなんてもうウンザリだからさ。僕たちはみんなセラピーが必要だ。誰かが、『リベラル』とは犯罪/麻薬/共産主義/国防に対して軟弱だと断定し、民主党は働きたくない者は働かなくてもいいと思っているから徹底的に増税する、と吹聴しまくった。
And instead of saying "Well, excuse me, you right-wing, reactionary, xenophobic, homophobic, anti-education, anti-choice, pro-gun, 'Leave it to Beaver' trip back to the fifties," we cowered in the corner and said "Please, don't hurt me." No more. I really don't care who's right, who's wrong. We're both right. We're both wrong. Let's have two parties, huh? What do you say?
そのとき民主党は、『反動的で外国人嫌い/同性愛者嫌いで、教育反対、選択権反対、銃賛成、男は働き女は家庭を守るという50年代を懐かしんでる右翼のアンタ、いったい何言ってるんだ』と反論する代わりに、片隅で萎縮して『頼むからいじめないで』と言っただけだった。僕はもうそんな行動は取らない。(民主党と共和党の)どっちが正しいかなんてどうでもいいこと。どっちも正しく、どっちも間違ってる。ちゃんと2つの政党を存在させようじゃないか。どう思う?」

共和党が汚い手を使い、民主党に罵詈雑言を浴びせて攻撃してきても、民主党は正々堂々と闘いたい、とイイ子ぶっていたため、数十年間に渡って悪口の言われっぱなし、叩かれっぱなしだったので、今では「弱虫/気骨がない」というイメージがすっかり定着してしまったのです。

お金もあって強い共和党と、いじめられっぱなしで存在感の薄い民主党、というこの現状にウンザリしているブルーノは、「少なくとも選挙の時だけは正義にこだわらずに共和党と同じ汚い手を使わなければ当選しない ― 当選しなければ政治改革もできない」という意見なんですよね。

莫大な資金を投じたCMを流し、それがひとたび有権者の記憶に留まってしまうと、その印象を変えるのはとても困難なので、先に印象的なCMを大々的に放映したほうが勝つ場合が実際に多いですから。


ちなみに、2004年の大統領選では「真実を求めるベトナム退役軍人と戦争捕虜」と名乗る組織が、ジョン・ケリー候補の顔写真をバックに「彼は逃げるベトナム人を背後から射殺した」、「彼は指揮官にふさわしくない」、「彼は嘘つきだ」、「彼はパープル・ハート勲章*脚注2)を、ズルをしてもらった」などのCMを流しました。

後に、このCMに出ていた退役軍人はケリー氏と一緒にベトナムで戦ったことがなく、この組織はブッシュの頭脳であるカール・ローヴ(次席補佐官)と懇意である人物が石油業界と土地開発業界から莫大な資金援助を受けて形成したものだと分かったのですが、時既に遅し。

有権者たちは、ケリーと一緒にベトナムで戦った兵士たちがケリーはダメだと言っているのだと勘違いしてしまい、ケリー陣営は「志願兵としてベトナムで戦った」(ブッシュは当時上院議員だった親のコネを使って州兵に入り、ベトナムへの徴兵を免れています)というケリー氏の強みをキャンペーンで有益に使うことができなくなってしまったのです。

ブルーノはI don't know any other way to fight fire (火と闘うにはこの方法しかない)とも言っているのですが、アメリカの選挙で勝つにはまさにfight fire with fire「相手と同じ手段で戦う(どれほど汚い手であろうと相手を同じ方法を使って戦う)」という方法しかないのです。

日本の政治もよく腐敗していると言われていますが、ソフト・マネーによるCMがないだけでも、アメリカよりマシ、と言えるかもしれませんね。

脚注
*1.ソロス氏(George Soros
ハンガリーからアメリカに移民し投資家として大成功を収めたビリオネアー。

*2.パープル・ハート勲章(Purple Heart
戦地で敵と戦って死傷した米軍人に授与される勲章のこと。アメリカ独立戦争時にジョージ・ワシントン将軍によって創設された。

詳しい説明はこちら(英語)


ボキャブラリー
supreme court:最高裁判所
loophole:(法制度などの)抜け穴
advocate:擁護者、支持者
bank heist:銀行強盗
footnote:脚注
reactionary:反動的な、保守的な
xenophobic:外国人嫌いな




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