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ネイティブ感覚で観る『ザ・ホワイトハウス』

Updated every Monday, 更新日:8月7日

ジャーナリスト 西森マリー先生

西森先生
西森先生のプロフィール
人気海外ドラマ『ザ・ホワイトハウス』を題材に、アメリカ在住ジャーナリスト、西森マリーさんが英語の台詞とその背景をわかりやすく解説。アメリカの社会背景・文化を知れば英語の台詞もなっとく、楽しみながらアメリカの「今」を学ぼう!


ネイティブ感覚で観る『ザ・ホワイトハウス』 43
イメージと実体〜Dr. Bartlet vs. Mrs. Bartlet〜
Perception versus Substance 
From Season 3 episode 2, "Manchester:Part-2"
 
今週は、イメージばかりが重視されがちなアメリカの選挙キャンペーンに関する話題をお届けしましょう。

大統領が多発性硬化症(視力の低下、手足の麻痺等を引き起こす脳と脊髄の病気)であることを告白し、再選出馬の意向を発表した後、出馬を望まない大統領夫人との溝が深まってしまいました。

この仲違いがニュースのネタになることを防ごうとする報道官C.J. と大統領夫人アビーの会話を見てみましょう。

C.J.: You just get in?
Abbey: Oh, a few hours ago.
C.J.: Ellie and Zoey are here?
Abbey: Yeah. Liz will be here in a while. We're going for a hike later if you want to join us.
C.J.: No, thank you, I can't. But I do want to talk to you about a photo-op.
Abbey: Would you like some cider?
C.J.: No, I'm fine.
Abbey: We grow the apples right down the hill. It's good.
C.J.: Okay. So, at any rate...
Abbey: The photo-op.
C.J.: Yes.
Abbey: My husband and I, together.
C.J.: Yeah.
Abbey: With the kids.
C.J.: That'd be nice if...
Abbey: Because my husband and I came to the house separately there were photos of the President getting on the plane alone.
C.J.: Ma'am, this is uncomfortable territory and obviously, I... The press has sources that say that you and the President...
C.J.: 今いらっしゃったのですか?
アビー: 数時間前に着いたのよ。
C.J.: エリーとゾーイもここにいるのですか?
アビー: リズもそのうち来ますよ。後でハイキングに行くんだけどあなたも来る?
C.J.: いいえ。私は行かれませんが、写真撮影についてお話ししたいんですよ。
アビー: サイダーはいかが?
C.J.: いいえ、けっこうです。
アビー: 写真撮影ですか。
C.J.: はい。
アビー: 主人と私と一緒に。
C.J.: はい。
アビー: 子供たちも一緒。
C.J.: それが可能だとすばらしいですね。
アビー: 私と主人が別々にここに来たから大統領が一人で飛行機(エアー・フォース・ワン)に乗り込む写真が出回った、ということですよね。
C.J.: こういうことは話しにくいのですが…ある情報筋が奥様と大統領の仲を…

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この後、アビーは匿名の情報筋を批判していますが、アメリカのメディアでは匿名の情報源が特ダネを提供することがよくあるので、匿名の情報源はバカにはできないのです。


さて、このやりとりは、1992年の大統領選でクリントン候補の浮気がバレた直後と、1998年にモニカ・ルインスキーとの浮気を認めた直後に、ヒラリー夫人が(少なくとも公の場では)夫を強く支持する姿勢を崩さずに、夫婦そろってインタビューに応じたり、様々なイベントに夫婦で出席して夫婦の絆を強調したことが元ネタになっています。

このイメージ作戦によって『夫婦は和解した』というイメージが作り上げられ、「浮気は夫婦間の問題。妻が許したんだから他人が口を挟むのはおこがましい」という方向に世論を誘導することができたのです。

ちなみに、リベラルなインテリ・キャリア・ウーマンという設定のアビー(アビーは医師です)のモデルが、イエール大学時代からクリントン大統領よりもキレモノだったことで知られるヒラリー夫人(二人とも弁護士)であることも明らかですよね。

18th And Potomac」(シーズン2の終わりから2番目のエピソード)で、首席法律顧問のオリヴァー・バビッシュに「Mrs. Bartlet」と呼ばれたアビーがこう答えています。

Dr. Bartlet. When did I stop being "Dr." Bartlet? When in the campaign did I decide that women were gonna like me more if I called myself "Mrs."? When did I decide that women were that stupid?
「ドクター・バートレットと呼んでください。私はいったいいつからドクターという肩書きを捨ててしまったのかしら。(最初の大統領選の)キャンペーンのどの段階で、バートレット夫人と呼ばれたほうが女性からの支持率が上がる、ということになったのかしら? 私はいったいいつから女性がそこまでバカだと思うようになってしまったのかしら?」

この台詞も、1980年にクリントン氏がアーカンソー知事選で落選した後に、当時ヒラリー・ロダムと名乗っていたヒラリー夫人が、しぶしぶヒラリー・クリントンと名乗ることにした史実が元になっています。

アビーは、「キャリア・ウーマンや独立心のある女性は政治家の妻に向かない、と思うほど女性はバカじゃない」という意見ですが、実際にはそうでもないんですよね。

2006年5月に行われたアンケートによると、南部ではヒラリー・クリントンの支持率は52%ですが、ヒラリー・ロダム・クリントン(未婚時代の名前を付け足すといかにも独立心旺盛なキャリア・ウーマンというイメージになります)の支持率は45%と、7%減になっています。

個人の中身よりも名前や肩書きが有権者を左右する、というこの事実、ばかばかしいことのようですが、選挙キャンペーンをしている人たちにとっては一笑に付すわけにはいかない重大な問題なんですよね。


後半は、キャンペーン開始のスピーチに関するやりとりを。 バートレット政権のスタッフたちは、貧者救済、貧富の差の是正、公立学校のレベル向上、社会保障制度の強化などの具体案をスピーチに組み込もうとしています。 

でも、選挙参謀チームのブルーノやダグは「アメリカはstrong/prosperous(強い)/繁栄している」、「我々はthe envy of every civilization(あらゆる文明の羨望の的です)/the hope of all mankind(人類の希望です)」など容易な英語で聞く人の耳に心地よく響く表現を並び立てて、ポジティブなイメージを作り上げることのみに専念しています。

ダグと彼のアシスタント、コニー、バートレット政権の要人たちのやりとりを見てみましょう。

Doug: "to fall victim to torpor and timidity." "Torpor"... is not a word a lot of people know.
Sam: It means apathy.
Toby: And dullness.
Doug: I know what it means.
Connie: Doug means...
Doug: They know what I mean.
C.J.: Hey.
Doug: If they don't know what the word means...
C.J.: What's the word?
Josh: "Torpor."
C.J.: It means apathy.
Toby: And dullness.
Doug: I know what the word means. I'm saying if people don't know what the word means...
President: They can look it up!
Everyone: Good morning, Mr. President.
President: It's not our job to appeal to the lowest common denominator, Doug. It's our job to raise it. If you're going to be the "Education President," it'd be nice not to hide that you have an education.
ダグ: 『鈍麻と臆病のえじきになってしまったら』。『鈍麻』なんていう言葉はほとんどの人が理解できない。
サム: 無関心っていう意味だ。
トビー: それと鈍感ってこと。
ダグ: 僕はこの言葉の意味を知ってますよ。
コニー: ダグが言いたいのは…
ダグ: 僕が何を言いたいかみんなちゃんと分かってるよ。
C.J.: ハ〜イ。
ダグ: 聴衆がこの言葉の意味を知らなかったら…
C.J.: どの言葉?
ジョシュ: "Torpor"
C.J.: 無関心っていう意味よ。
トビー: それと鈍感ってこと。
ダグ: 僕はちゃんと知ってるよ。僕が言いたいのは、聴衆がこの言葉の意味を知らなかったら…
大統領: 聴衆は辞書で調べればいい。
みんな: 大統領、おはようございます。
大統領: ダグ、我々は一番低い水準にアピールしようとすべきではなくて、水準を上げようとすべきなんだ。『教育を重視する大統領』になるつもりなら自分に教養があることを隠す必要はないだろう。

これは、故レーガン大統領と2000年の大統領選のブッシュ氏の演説を皮肉ったもの。

二人とも複雑な問題を極端に簡素化して小学生にも分かる容易な英語で演説を行い、多くの国民の支持を得ました。

特に、現大統領のブッシュ氏と2000年の大統領選で戦ったゴア前副大統領のコントラストはすさまじく、ディベートの達人ゴア氏が難しい言葉や科学的な専門用語を好んだのに対し、ブッシュ氏は幼稚園児なみの間違った英語を使い、ちょうどこのエピソードが放送された2001年秋にはブッシュ氏のおとぼけ英語がメディアでよく話題になっていたのです。

で、大統領選の間は、メディアがずっとブッシュ氏の幼稚な英語を「親しみやすく愛嬌があり分かりやすい」と褒めちぎったため、アメリカ国民もそれにつられて、「ゴア氏はエリートぶって難しい言葉ばかり使い、親しみが持てない」と思いこんでしまったのです。

ですから、上記のやりとりはこの史実をふまえて見るとさらに深みが増しますよね。

バートレット大統領の最後の一言も、2000年の大統領選キャンペーンでブッシュ氏が自分は教育に力を入れる大統領になると力説し、「Is our children learning?(正しくはAre our children learning?)」と言ったことを皮肉ったものと見ると、おもしろさが倍増するでしょう?

ちなみに、ブッシュ氏の支持基盤は聖書(アメリカ口語訳の聖書*脚注1))を読むことのみが真の教育と信じていて、高等教育の価値や科学を否定しているキリスト教原理主義者で、彼らの多くは妻/母として家を守るのが女の仕事、と本気で信じているため、科学に造形の深いゴア氏や弁護士/上院議員のヒラリー氏を忌み嫌っています。

現実の民主党と共和党の対比がしっかり繁栄されている『ザ・ホワイトハウス』は、アメリカの政治を楽しみながら学べる最高の教材ですよね!

脚注
*1.アメリカ口語訳の聖書
最も権威があり支持されているのは、ジェイムズ1世の命により1611年に刊行され、19世紀末まで英国国教会で用いられた唯一の英訳聖書KJVKing James Version)。これを改訂したものが、1901年に刊行されたASVAmerican Standard Version)で、これをさらに改訂したものが1952に刊行されたRSVRevised Standard Version:標準改訂訳聖書)。


関連サイト
聖書翻訳の歴史(日本聖書協会)
http://www.bible.or.jp


過去の記事
ブッシュ氏のおとぼけ英語についてもっと知りたい人は
「ブッシュ氏の話す不可思議な英語「ブッシズム」1 〜とんでもない言い間違い」


ボキャブラリー
prosperous:繁栄している
torpor:無関心、無気力
timidity:臆病
denominator:基準




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