Updated every Monday, 更新日:5月1日
ジャーナリスト 西森マリー先生
人気海外ドラマ『ザ・ホワイトハウス』を題材に、アメリカ在住ジャーナリスト、西森マリーさんが英語の台詞とその背景をわかりやすく解説。アメリカの社会背景・文化を知れば英語の台詞もなっとく、楽しみながらアメリカの「今」を学ぼう!
ネイティブ感覚で観る『ザ・ホワイトハウス』 29
アメリカの最低賃金
Minimum Wage From episode 32," The Leadership Breakfast"
今週は最低賃金に関する話題を。
日本でも決められていますが、アメリカでも、雇用者が被雇用者に対して支払う賃金の最低額が決められています。
最低賃金の額を政府が決める、というアイディアを確立したのは一般庶民の生活向上に尽力したフランクリン・ルーズベルト大統領で、最低賃金制度は社会保障制度(日本の国民年金のようなもの、同じくフランクリン・ルーズベルト大統領が制定)と共に、経営者/金持ちの味方である共和党の人々から忌み嫌われています。
そのため、上院、下院の両方で民主党が多数党である、という状況でない限り、民主党が最低賃金引き上げ法案を出しても否決されてしまうので、1997年以来アメリカ連邦政府が設定した最低賃金は時給5ドル15セント(約604円)のままなので、どう考えても超貧乏な暮らししかできないのです。
まず、多数党である共和党の院内総務秘書アンと広報部長トビーの会話を見てみましょう。
Toby:
Ann,do you know what a full-time worker,employed at five dollars and fifteen cents an hour,makes in a year?
Ann:
Ten thousand seven hundred and twelve dollars.
Toby:
Which is 26 hundred dollars below the poverty line. Why have a minimum wage?
Ann:
Now you're talking!
Toby:
Ann,I was just...
Ann:
Do you really think raising the minimum wage is gonna put a dent in the poverty rate?
Toby:
I'm saying it could at least keep up with inflation! In the last thirty years,the purchasing power of the minimum wage has gone down 30%,while you know how much the stock market has gone up?
Ann:
A hundred and fifteen percent. Toby,small businesses will fold or produce less because they can't afford to pay a federally mandated wage! The unemployed will,in turn,face higher prices while receiving no wage.
トビー:
アン、時給5ドル15セントのフルタイムの労働者の年収がどれくらいか知ってるのか?
アン:
1万712ドル(約125万円)でしょ。
トビー:
貧困線(貧困であるか否かを区別する最低収入)より2,600ドル(約30万円)低いんだから、最低賃金として意味をなさない。
アン:
その通り! 最低賃金なんて無意味ってことよ!
トビー:
僕が言いたいのは…
アン:
最低賃金を上げれば貧困を少しでもなくせると本気で思ってるの?
トビー:
インフレに少しでもついて行ける、ってことを言いたいのさ! 最低賃金しかもらってない労働者たちの購買力は過去30年の間に30%も落ちてるんだよ。その間に株式市場がどれだけ上がったか知ってるのか?
アン:
150%でしょ? トビー、(最低賃金を上げたら)中小企業は政府が規定した最低賃金が払えないせいで生産力が落ちるか潰れるかのどっちかよ! その結果、職を失った人たちが給料をもらえないままさらにインフレに苦しむことになるわ。
民主党が常に働く人々の立場で政策を決定しているのに対し、共和党は常に経営者の視点から物事を見ている、という両党の根本的な違いがハッキリと分かるやりとりですよね。
民主党が推している政策は、最低賃金を引き上げ、健康保険を国家や企業が負担し、社会保障制度を強化して庶民の生活を安定させること。 で、そのための費用は大企業や大富豪の税金をほんのわずか上げる、軍事予算などをカットするだけでまかなえる、と考えているわけです。
(最低賃金が上がり、健康保険の負担が減れば、庶民は疲労や心労から救われて心身共に健康になり、労働意欲も湧いて生産向上につながるが、庶民が貧困状態で健康保険もないまま働かされていると、生産能力も落ち、保険が払えない人々の医療費は税金として国民が負担するので、またまた庶民の負担が増えるという悪循環になる、という考え方)
一方、共和党は、大企業や大金持ちの税金をカットして、彼らに安い労働力を与えてあげれば、アメリカ全体の経済が繁栄し、それが中小企業の繁栄にもつながり、大企業や大富豪がさらに裕福になって儲けた分を被雇用者の福祉などに投資してくれて大企業の富がトリクル・ダウン(浸透)してアメリカ全体が裕福になる、と考えているんですよね。
この後、広報部長のトビーは共和党院内総務秘書アンに「あらゆる法案に最低賃金引き上げを付け加えてやる」(* 脚注1) と強硬な態度で迫ります。
そのため、アンは共和党議員に記者会見を開かせて「ホワイトハウスが最低賃金引き上げをしないとどんな法案も通らないようにしてやると、共和党を脅している」と言わせ、ホワイトハウスを悪者に仕立て上げてしまうんですよね。
実は、この記者会見には共和党員内総務は「のどが痛い」という口実を作って出席していないんですが、欠席の真の理由は自分がホワイトハウスの悪口を言っていると思われたくないから。つまり、汚れ仕事は部下に任せた、というわけです。
この記者会見の後のホワイトハウス・スタッフが対応策を話し合うシーンを見てみましょう。 広報部長トビー、広報部次長サム、次席補佐官ジョシュが、報道官C.J. に応戦の仕方を伝授しています。
Toby:
Be cool,be funny,smack them down hard.
Sam:
The Majority Leader is tragically out of touch with the needs of real people.
Josh:
And why wasn't he at the podium? A sore throat? We know how tough that can be. Thank goodness he had health insurance.
Sam:
There it is!
C.J.:
That's the sound bite!
Josh:
And that's the new story.
C.J.:
Toby?
Toby:
Do it.
C.J.:
Carol,I need voting stats on health care.
トビー:
クールにキメて、ジョークで交わして、彼らを思いきり叩こう。
サム:
院内総務は悲劇的なほど一般庶民のニーズを分かってない、って言えばいい。
ジョシュ:
それに、なんで記者会見に出てなかったのか、ってことにも言及しよう。喉が痛い? そりゃお気の毒に。院内総務は健康保険に入っていて良かったですねぇ、って言うんだ。
サム:
それで行こう!
C.J.:
最高のサウンド・バイト(メディアが繰り返し引用してくれるキャッチーな一言)ね!
ジョシュ:
それに新しいネタを提供することにもなる。
C.J.:
トビー、これでいい?
トビー:
これで行こう。
C.J.:
キャロル、健康保険に関する法案の議員たちの投票歴を調べてちょうだい。
サムたちは、共和党を『脅した』ことに対して何らかの言い訳をする、というのではなくて、「民主党は働く人々の賃金を上げ、誰もが健康保険に入れるようにと、一般庶民のために戦っているのだ!」というポジティブなイメージで応戦しよう、と決めたわけです。
最低賃金引き上げと健康保険の強化が民主党の政策の柱であることを知っていると、この応戦法がいかに優れたものであるかがよく分かりますよね。
ちなみに、Blue states (民主党支持者が多い都市型の州)の多くでは1997年以降も最低賃金を引き上げ法が通過していて、ワシントン州の最低賃金は$7.63 (約895円)、オレゴンの最低賃金は$7.50 (約870円)、コネチカットは$7.40 (約867円)、バーモントは$7.25 (約850円)、カリフォルニア/ハワイ/マサチューセッツ/ニューヨーク/ロードアイランドは$6.75 (約790円)です。
連邦政府レベルでは1997年以来、ほとんど毎年のようにケネディ上院議員(JFK の弟)が最低賃金引き上げ法を提案していますが、多数党の共和党に法案通過を阻まれています。
2005年にケネディ議員の法案が否決されたときに、ヒラリー・クリントン民主党上院議員が、
It is our responsibility to do right by hardworking Americans by giving them the tools they need to be self sufficient.
「骨身を削って働いているアメリカ人たちが(慈善や生活保護などを受けずに)自活できるようになるための手段を与えて、彼らを正当に扱ってあげることは私たち(政治家)の責務です」
と力説していました。 でも、共和党の人々は「貧乏人が貧乏なのは努力が足りないから」という考え方なので、冒頭でも書いた通り民主党が両院で多数党にならない限り最低賃金引き上げは無理なのです。
トビーに最低賃金労働者の年収を尋ねられたときのアンの答え『1万712ドル』というのも実は非常に怖い…というか、まさに共和党ならではの答えなんですよね。
民主党の人だと、『1万300ドル(5.15 x 8時間 x 5日 x 50週間 = 10300という計算)』と答えるんですけど、共和党の人々は、貧乏人はクリスマス休暇も夏休みも無しに1年中(52週間)ずっと働け!、と言ってるワケなんですよねぇ。
こういうちょっとした一言も、民主党と共和党の違いを知っている味わい深く鑑賞できますよね。
* 1.付帯条項
アメリカでは、法案を議会に通す際、その法案に関係のない内容を「付帯条項」として付けることがある。詳しくはこちら
過去の記事
ボキャブラリー
minimum wage
:最低賃金
majority leader :多数党院内総務
health insurance :健康保険
今回のあらすじ
第33話「朝食会の誤算」The Leadership Breakfast
民主・共和両党の協調路線をアピールするために、ホワイトハウスで朝食会が開かれることになる。トビーは両党のリーダーが集まるこの機会に、突っ込んだ話し合いをしたいと思い、最近、共和党の上院院内総務首席補佐官に就任したばかりのアン・スタークと交渉。患者の権利法案について十五分間だけ話し合う交換条件として、朝食会後の会見を議事堂の前で行うことを認める。だがアンはトビーが考えていたほど御しやすい相手ではなかった。
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