Updated every Monday, 更新日:3月13日
ジャーナリスト 西森マリー先生
人気海外ドラマ『ザ・ホワイトハウス』を題材に、アメリカ在住ジャーナリスト、西森マリーさんが英語の台詞とその背景をわかりやすく解説。アメリカの社会背景・文化を知れば英語の台詞もなっとく、楽しみながらアメリカの「今」を学ぼう!
ネイティブ感覚で観る『ザ・ホワイトハウス』 22
アフリカでのエイズ蔓延〜製薬会社と政治家の思惑
AIDS Epidemic in Africa
From episode 26, " In This White House"
今週は、アフリカでエイズがいかに蔓延しているかに関する話題を。
バートレット政権は、アメリカの製薬会社がエイズ薬をアフリカに安く売ることを望んでいますが、製薬会社から多額の政治献金をもらっている共和党議員が、製薬会社の権益を優先することが目に見えているため、これといった手を打てないままでいます。
まず、エイズに苦しむアフリカの国クンドゥーの大統領が、バートレット大統領に会いに来たことをプレス・ブリーフィング(記者会見)で告げた報道官C.J. に、広報部長のトビーが言った一言を。
You might have mentioned that the same drug that costs ten dollars and eighty cents in Norway, where nobody needs it, costs ninety dollars in Burundi, where everybody needs it.
「エイズ薬など必要ないノルウェーで1ドル80セント(約210円)の薬が、エイズ感染者で溢れてる。ブルンジ(中部アフリカにある共和国)では90ドル(約1万円)するって言えばよかったのに」
次に、次席補佐官ジョシュが秘書のドナに、アフリカのエイズと製薬会社のあつれきに関して説明するシーンを見てみましょう。
Josh:
There are a lot of people in Africa with HIV. American companies hold the patents on the medicines they need. Most people in most African countries can't afford to buy the drugs at these prices, so they buy them on the black market.
Donna:
In violation of the U.S. patents and international treaties.
Josh:
Yes.
Donna:
How prohibitively priced are the drugs?
Josh:
They cost about a hundred and fifty bucks a week.
ジョシュ:
アフリカにはHIV感染者がたくさんいて、彼らが必要な薬の特許をアメリカの会社が持ってる。アフリカ人のほとんどは、アメリカの会社が提示してる値段じゃ薬が買えないからブラック・マーケットの薬を買ってるんだ。
ドナ:
合衆国の特許権と国際条約に違反してるってことね。
ジョシュ:
そう。
ドナ:
どれくらい法外な値段なの?
ジョシュ:
一週分が150ドル(約1万7千円)だ。
両方とも、アメリカの製薬会社が特許権を盾に、アフリカに不当な値段でエイズ薬を売りつけていることがよく分かる台詞ですよね。
実は、1998年に、ジェネリック(特許が切れた後に、同じ成分で作られる後発医薬品)のエイズ薬を買っていた南ア政府を、欧米の製薬会社39社が知的所有権の侵害で訴え、このエピソードが放映された2000年10月25日の段階では、この訴訟がまだ片づいていなかったんですよね。
だから、このエピソードは人の命よりも利潤追求に走る製薬会社の強欲さを暴くという、鋭いテーマを扱っていたわけです。
この後、2001年に世界中の人道主義者たちからのプレッシャーに負けて、製薬会社がこの訴訟を取り下げましたが、アフリカ諸国でのエイズ蔓延に歯止めかける政策は未だにとられていません。
ちなみに、2005年の調べでは、アフリカ諸国のエイズ感染率は年ごとに増えていて、サハラ砂漠以南のアフリカ諸国には約2,600万人の感染者がいて、ボツワナでは成人の37.3%、スワジランドでは38.8%がエイズに感染しています。
次に、バートレット大統領と首席補佐官レオのやりとりを見てみましょう。
President:
Then you've got guys like Mbeki who say that AIDS isn't
linked to HIV, it's linked to poverty.
Leo:
It is linked to poverty.
President:
Would you like me to show you the list of dead millionaires?
Leo:
He was saying that prostitutes, migrant laborers, the
ill-educated, and victims of sexual abuse are more likely...
President:
Leo, AIDS is caused by HIV. You just named a group of
people that have a higher mortality rate across the board.
大統領:
(我々がなんとかエイズを食い止めようと努力しているのに)そんな中でエイズとHIVは無関係で、エイズは貧困と関連していると言うムベキのようなやからがいるんだから困ったものだ。
レオ:
貧困とも関係がありますよ。
大統領:
(エイズのせいで)死んだミリオネアーたちのリストを見せてあげようか?
レオ:
彼が言いたかったのは、売春婦や季節労働者、無学の人々、性的虐待の被害者などのほうが…
大統領:
レオ、エイズの原因はHIVだ。君はただ死亡率の高い人々を列挙しただけだよ。
ムベキ大統領(南アの現職大統領)は「エイズの原因はHIV ではなく、エイズは貧困と関連している」と言ったことで有名で、世界中の科学者たちから非難されているんですよね。
でも、政治評論家の中には「この発言の裏には、世界の目をエイズ患者のみにではなくアフリカの貧困にも向けて、国際的な援助を貧困対策にもあててもらいアフリカを根本的に立て直したい、という政治的意図がある」と言っている人もいます。
ムベキ大統領の胸の内は分かりませんが、この発言のおかげでアフリカのエイズを語るときに、アフリカの貧困にもスポットライトが当たるようになったことは事実ですよね。
アメリカの製薬会社に、薬の代金を下げさせたいバートレット政権の代表として、広報部長のトビーが製薬会社と交渉をしていますが、横柄な製薬会社の態度にいらだって、トビーは思わず冷静さを失って本音を言ってしまいます。
Alan, if it was 26 million Europeans dying, we'd have had a solution yesterday.
「アラン(製薬会社の人間)、もし死にかけている260万人がヨーロッパ人(白人)だったら、とっくに解決策が生まれていただろう」
エイズでも天災でも、被害者が黒人だと対策が後手後手になる、というのはハリケーン・カトリーナが証明してくれましたよね。
最後に、製薬会社に対してきついことを言っているトビーと、彼を制御しようとする次席補佐官ジョシュの会話を見てみましょう。
Josh:
You gotta get out of their face, Toby, they can get up any time they want. We don't have anything they need.
Toby:
They need patent treaties to be enforced.
Josh:
And they are gonna be enforced. The pharmaceutical companies got half the House of Representatives elected. Congress is gonna get serious about this.
ジョシュ:
トビー、押しが強すぎるよ。彼らは交渉の席に居座る必要はないんだから。彼らが必要なものは僕たちは何一つ持ってないだろう。
トビー:
彼らには特許条約の執行力が必要だ。
ジョシュ:
特許条約は執行されるさ。下院議員の半数は製薬会社の献金のおかげで当選した連中だから、議会がちゃんと面倒を見るさ。
このエピソードが放映されたのはクリントン政権末期。
ジョシュのこの言葉は、製薬会社に頭が上がらない議会に押し切られて、アフリカのエイズ患者を思い通りに助けられないクリントン政権の苦悩を反映したものなんですよね。
ちなみに、ブッシュ政権は、エイズ対策のチーフにイーライ・リリーという巨大製薬会社の元CEO を据え、露骨に製薬会社の権益保護重視の政策を展開しています。
さらに、エイズ対策予算の多くを、原理主義キリスト教思想に裏打ちされた禁欲を教えるプログラムに費やしていて、コンドームを配布する組織には予算を与えないため、ブッシュ政権のエイズ対策は世界中の政府から非難されています。
ちなみに、去年の世界エイズ・デイに、ブエノス・アイレスのオベリスクがピンクのコンドームで包まれたとき、アメリカの右派の人々はこれをブッシュ政権への当てつけと解釈して、ネット上でラテン・アメリカの悪口を連発していました。
来週は、hate crimes (憎悪・敵意に起因する犯罪)と戦う方法に関する話題をお届けします。
関連サイト
過去の記事
ボキャブラリー
patent :特許
violation :違反、侵害
international treaty :国際協定、国際条約
prohibitively :法外に、値段がとても高い
buck :ドル
poverty :貧困
prostitute :売春婦
mortality rate :死亡率
pharmaceutical company :製薬会社
congress :議会
今回のあらすじ
第26話「ブロンドのライバル」 In This White House
サムはテレビの討論番組に出演し、共和党の女性エインズリー・ヘイズに言い負かされる。その番組を見たバートレット大統領は、エインズリーをホワイトハウスで雇いたいと言い出す。レオはエインズリーをホワイトハウスへ呼び出すが、代々保守的な共和党員の家庭で育ったエインズリーは、猛烈な剣幕でレオに食ってかかる。その翌日、仕事の話を断るつもりで来たエインズリーは、偶然クーデターの知らせが入った現場に居合わせる。そこでスタッフの対応を見たエインズリーは、その姿勢に感動する。
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