Updated every Monday, 更新日:11月14日
ジャーナリスト 西森マリー先生
人気海外ドラマ『ザ・ホワイトハウス』を題材に、アメリカ在住ジャーナリスト、西森マリーさんが英語の台詞とその背景をわかりやすく解説。アメリカの社会背景・文化を知れば英語の台詞もなっとく、楽しみながらアメリカの「今」を学ぼう!
ネイティブ感覚で観る『ザ・ホワイトハウス』6
アメリカで蔓延するhate crime
Hate Crimes in America
From episode 10, "In Excelsis Deo"
今週は第10話「聖なる日(原題:In
Excelsis Deo)」から気になる台詞を拾っていきましょう。
まず、首席補佐官のレオが薬物中毒だったことに関する機密情報を不当な手段で入手した共和党議員が、ホワイトハウスを攻撃しようとしている事件に関して。
この攻撃を交わすために、広報部次長サムの知り合いのコールガールから共和党議員の顧客の名前を聞き出す、という作戦を提案した次席補佐官ジョシュにレオが、
We don't do these things.
「我々はそういうことはしない」
と言っています。 これは、共和党がクリントン大統領を陥れるためならどんな汚い手でも使ったことを皮肉った一言で、「我々民主党は汚い手は使わない」と言っているわけなのです。(共和党員リンダ・トリップがモニカ・ルインスキーとの私的な会話を録音して、クリントン大統領を弾劾裁判に追い込んだことは、まだ記憶に新しいところですよね。)
レオにこう言われても、なんとかレオを守りたいという一心からサムとジョシュはコールガール、ローリーを訪ねます。
ローリーに協力を拒まれ、フラストレーションが爆発してしまったジョシュは思わず心にもないことを言ってしまいます。以下、3人の会話を見てみましょう。
Josh:
We don't need your cooperation, Laurie, one
of your guys wrote you a check and the I.R.S. works for me.
Laurie:
Get the hell out of my house.
Josh:
Just give me a name. What do you want? Money?
I'll give you money!
Laurie:
Oh fine, I'll give you a name, and then I'll
hop back into the shower and you can leave the money on the
nightstand. How about that?
Sam:
I don't think he meant--
Laurie:
Yes, he did!
Josh:
No, I didn't. In fact I'm sorry. I apologize.
That was very rude.
Sam:
We wouldn't have asked Laurie, but this person
means a lot to us.
Laurie:
You're the good guys. You should act like
it.
ジョシュ:
ローリー、君の協力なんて要らないさ。君の顧客の一人が小切手を切っただろう、国税庁にチェックさせればいいだけのことだ。
ローリー:
わたしの家から出て行って!
ジョシュ:
名前を教えてくれるだけでいいんだ。カネが欲しいなら、くれてやる!
ローリー:
私は名前を明かしてシャワーを浴び、あなたはベッドの脇にお金を残していく、ってワケ? ご冗談でしょ!
サム:
ジョシュは本気で言ったわけじゃ…
ローリー:
彼の本心よ!
ジョシュ:
いや、違う。謝るよ。悪かった。ひどく失礼なことを言ってしまった。
サム:
彼(共和党から攻撃されているレオ)は僕たちにとってとても大切な人なんだ。そうじゃなかったら君に頼もうなんて思わないよ。
ローリー:
あなたたち(民主党の政治家)はいい人なんだから、いい人らしく振る舞うべきだわ。
レオばかりでなく、コールガールも民主党は職権濫用して弱者を脅すような汚い手は使わない、と信じているんですよね。
権力を濫用して脅したり、賄賂で買収する、というのはウォーターゲートの時代から共和党のお家芸でしたが、クリントン大統領を弾劾した共和党の検察官ケン・スターは、証人たちに恐喝まがいの手口を使ってクリントン大統領を陥れるための偽証を迫ったことで有名です。
こうした社会背景を知っていると、このやりとりをさらに深く味わえますよね。
次に、hate crime (憎悪・敵意に起因する犯罪)に関するやりとりを見てみましょう。
Leo:
Listen, you hear about this kid in Minnesota?
Josh:
No.
Leo:
A gay high school senior. He got beaten up,
then they stripped him naked, tied him to a tree and threw rocks
and bottles at his head. You know how old the assailants were?
Thirteen.
Josh:
Is the kid dead?
Leo:
He's in critical condition. This is all by
way of saying we're gonna have to revisit hate crime legislation
after the break.
レオ:
ミネソタの子の事件、聞いた?
ジョシュ:
いや。
レオ:
ゲイの高校生がめった打ちにされたんだ。犯人たちは彼を裸にして木に縛り付け、彼の頭に石や瓶を投げつけた。犯人たちがいくつだと思う? 13歳だよ。
ジョシュ:
その高校生は死んだの?
レオ:
危篤状態だ。クリスマス休暇の後、またhate crime対策法案を考えないといけなくなった、ということだ。
これは、1998年10月、ワイオミング(チェイニー副大統領のお膝元)でゲイの青年マシュー・シェパード氏がめった打ちにされて18時間も塀に縛りつけられ、発見された後に病院で亡くなった事件がもとになっています。
クリントン政権は、何度かhate crime を取り締まるための法案を提出していますが、そのたびに共和党議員たちに阻止されました。
実は、この事件の4ヶ月前、テキサスで白人優越思想を持つ3人の白人が黒人の男性の両手を縛ってトラックのバンパーに結びつけ、ひきずり回して殺す、という事件が起きたのですが、当時テキサス州知事だった現大統領ブッシュはhate
crime を取り締まる法律を作る案を一笑に付しました。
こうした背景を知っていると、以下のやりとりもより深く鑑賞できるでしょう。まず、報道官C.J.と記者のやりとりを。
Reporter:
Is the White House aware that a high school
student was attacked?
C.J.:
Yeah, his name is Lowell Lydell, he's seventeen
years old, he's in critical condition at Saint Paul Memorial
Hospital with a severely fractured skull, massive internal hemorrhaging,
and various broken bones and lacerations. We'll keep you updated
through local authorities.
Reporter:
Do you think that this will revisit the debate
on hate crime legislation?
C.J.:
Yes, I do. Though I suppose the best time
to do that was the day before Lowell Lydell got his brains beaten
out and not the day after.
記者:
高校生が襲われた事件、ホワイトハウスは認識していますか?
C.J.:
ええ。彼の名前はローウェル・ライデル。17歳です。今、セント・ポール・メモリアル病院で大量の内出血、激しい頭蓋骨骨折、その他の骨折、裂傷のため、危篤状態にあります。今後も現地の官庁を通じてみなさんに最新情報をお知らせします。
記者:
これがきっかけでまたhate crime取締法案を論じることになると思いますか?
C.J.:
ええ。というか、hate crime取締法案に関してはローウェル・ライデルが頭蓋骨をぶち割られる前に論じるべきだったでしょう。
C.J.の言葉から、民主党が何度hate crime 取締法案を提案しても、共和党(同性愛者を殺すことは神の道と信じている原理主義キリスト教徒や白人優越主義者が支持基盤)に潰されていることに対するフラストレーションが読み取れますよね。
ローウェルが病院で死んだことを知らされた後、C.J. が首席補佐官のレオに、
They made him say "Hail Mary's" as they
beat him to death. This was a crime of entertainment!
「彼ら(ローウェルを襲った子供たち)はローウェルを殴って殺してる最中に彼にHail
Mary(カトリックがよく唱える祈り)を何度も唱えさせたのよ。これは楽しみながら犯した犯罪だわ!」
と言っています。
アメリカには、人種差別を推奨する団体やゲイを殺すことは神の道と唱える教会が無数にあり、こういう組織に属している人たちは子供の頃から人種差別やゲイ弾劾が「楽しいこと」、「正しいこと」だと信じているんですよね。
前者の団体はカトリックと原理主義キリスト教徒、後者の教会は原理主義キリスト教徒が圧倒的に多く、hate
crime はキリスト教と密接に関わっているのです。
このエピソードの原題、In Excelsis Deo はクリスマスによく歌われる賛美歌Gloria
in Excelsis Deo 「高みにまします神に栄光を」に由来するんですが、キリスト教の神がこの現状を見たらさぞやお嘆きになることでしょう。
ちなみに、ネオ・ナチ組織( * 脚注1) やKKK ( * 脚注2) の後身が開くフェスティバルで今最も注目されているプルーシアン・ブルーという双子の歌手もまだ13歳で、彼女たちは有色人種を撲滅するための歌を楽しそうに歌い、観衆から拍手喝采を浴びています。
また、原理主義キリスト教徒から絶大な支持を得ているフレッド・フェルプス牧師は、マシュー・シェパード氏が殺された場所に、
Matthew Shepard Entered Hell October 12,
1998, at age 21 in Defiance of God's Warning: "Thou shalt not
lie with mankind as with womankind; it is abomination." Leviticus
18:22
「マシュー・シェパードは神の警告に逆らった罪で1998年10月12日、21歳で地獄に堕ちた。汝、女と寝るのと同じように男と寝てるべからず。それは憎むべきことだ。旧約聖書レビ記18:22」
と刻んだゲイ殺害祝賀のための石碑を展示しようとしています。
このエピソードが全米で放送されたのは1999年12月15日。 この時点で既にアメリカではhate
crime が蔓延していましたが、米国同時多発テロ9/11以降はムスリムやアラブ系に見える人々(インド人、ヒスパニックを含む)へのhate
crimeが急増しています。
アブー・グレイブやグアンタナモ湾の捕虜収容所における拷問もhate crime の一種と考えると、共和党(戦争支持者)が拷問を支持し、民主党(反戦派)が拷問に反対している今のアメリカの舞台裏もよく見えてきますよね。
来週は宗教戦争に関する洞察力溢れる台詞をご紹介するので、お楽しみに!
脚注
* 1.ネオナチ
ナチス・ドイツの白人優越思想を信奉する人たち。
* 2.KKK (Ku
Klux Klan :クー・クラックス・クラン)
アメリカの人種差別を主張する悪名高き秘密団体。会員(Klansmen クランズマン)は、白い頭巾に白いマントの異様な衣装をまとう。「奴隷解放宣言」後の1866年、テネシー州プラスキーで結成された。南北戦争後の南部各州において、黒人解放政策に抗議し、白人の権利を主張した白人至上主義団体(1867年には、ルイジアナで同主旨の団体the
Knights of the White Camelia も誕生している)。1869年に解散を命じられるも、1915年ジョージア州アトランタで復活。1920年代の最盛期には400万人以上の会員数に達した。1930年代の不況時には、殺人やリンチ事件が明るみに出たこともあり、会員数は数千に激減。
http://www.kkklan.com/
関連サイト
ボキャブラリー
hate crime :憎悪による犯罪
assailant :襲撃者、攻撃者
critical condition :危篤状態
今回のあらすじ
第10話「聖なる日」 In Excelsis Deo
クリスマスの近いある日、公園のベンチで凍死したホームレスの男性がトビーの名刺を持っていたことから、トビーは警察から呼び出しを受ける。ホームレスの男性が、トビーが福祉団体に寄付したコートを着ており、そのポケットに名刺が入っていたことが分かるが、トビーは彼が朝鮮戦争で戦った軍人であったことを知り、見捨ててはおけない気持ちになる。
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