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アメリカン・カルチャーを知る英語講座

Updated every Monday, 更新日:8月29日

ジャーナリスト 西森マリー先生

西森先生
西森先生のプロフィール
日本ではほとんど知られていないもう一つのアメリカから情報発信するジャーナリスト、西森マリーさん。背景を知れば、英語もなっとく。マリーさんから、もう一つのアメリカとアメリカ英語の背景を学ぼう!


アメリカン・カルチャーを知る英語講座 72

映画『紳士協定』でみる近代アメリカのユダヤ人差別1
Gentleman's Agreement Part 1
 

今週から数週間は近代のアメリカでのユダヤ人差別の状況がよく分かる映画『紳士協定』(原題:Gentleman's Agreement)をご紹介しましょう。

『紳士協定』は、リベラルなSmith's Weeklyという雑誌の記者フィル・スカイラー・グリーン(グレゴリー・ペック)が8週間ユダヤ人になりすまして、ユダヤ人差別の実態を肌で感じる、というプロット。

1947年に公開されて大ヒットになったこの映画は、当時のアメリカでユダヤ人差別がどのように行われていたかを詳しく描いた名作で、アカデミー作品賞を受賞しています。

まず、家に帰って母親とユダヤ人差別について話しているフィルが、幼なじみのユダヤ人デイヴ(ジョン・ガーフィールド)に意見を求める手紙を書こうとして、躊躇するシーンを見てみましょう。

What do I say.. "Dear Dave, give me the lowdown on your guts when you hear about Rankin calling people kikes. How do you feel when Jewish kids getting their teeth kicked out by Jew-haters in New York City... Could you write that kind of a letter, Ma?
「何って書こうか…『やぁ、デイヴ、ランキンがユダ公と言うのを耳にするとき、君がどんな心境なのか真相を聞かせてくください。ニューヨーク市でユダヤ人嫌いの連中からユダヤ人の子供たちが蹴られて歯を折られたりするとき、君はどう感じているのだろう』母さん、こんな手紙が書けるかい?」

この台詞から、当時のアメリカでは最もリベラルなニューヨークでさえもユダヤ人の子供に蹴りを入れるひどい人間がそこら中にいたことが分かりますよね。

ランキンとはミシシッピー州選出の下院議員ジョン・ランキンのことで、アメリカ議会で発言するたびにkikes「ユダ公」やnigger*脚注1)などの差別用語を連発したことで悪名高い実在の人物です。


次に、記事を書くアングルとしてユダヤ人になりすますことを決めたフィルが、黒い髪で暗い色の瞳の自分の姿を鏡で確認しながら言う台詞を見てみましょう。

Dark hair, dark eyes. Sure, so has Dave. So have a lot of guys who aren't Jewish. No accent, no mannerisms. Neither has Dave. Name--Phil Green. Skip the Schuyler. Might be anything.
「黒っぽい髪に黒っぽい瞳。デイヴもそうだけど、ユダヤ人じゃない人間にもそういう人がたくさんいる。訛りもなければクセもない。デイヴもそうだ。フィル・グリーンという名前も、スカイラーを省けば人種を特定できない」

この台詞は、白人ではないことが一目で分かる黒人への差別と違って、ユダヤ人差別が陰湿であることの伏線として大切な一言です。

スカイラー(Schuyler)という名前はアングロ・サクソン系の響きがしますが、フィル(Phil)はユダヤ人にも多い名前ですし、グリーン(Green)はユダヤ系に多い苗字グリーンバーグ(Greenberg)をアングロ・サクソン化したものかもしれないので、フィル・グリーン(Phil Green)という名前はどんな人種の人が使ってもおかしくない名前なんですよね。


次は、編集長のミニフィー氏が重役のワイスマンにユダヤ人差別のスペシャル・リポートを載せることにしたことを告げるシーンを見てみましょう。

Weisman: The less talk there is about it, the better
Minify: Pretend that it doesn't exist and add to the conspiracy of silence. I should say not. Keep silent and let Bilbo and Gerald L.K. Smith do all the talking? No, sir. Irving, you and your let's-be-quiet-about-it committees have gotten just exactly no place.
ワイスマン: それ(ユダヤ人差別)は話題にしないほうがいい。
ミニフィー: そんなものは存在しないという振りをして、沈黙という陰謀に加担するのか。とんでもない。我々は黙っていて、ビルボーやジェラルド・K.L. スミスにしゃべらせておけと言うのか? それは違うよ、アーヴィング、君を含め「黙っていよう」という連中は何の解決策も見い出していないじゃないか。

ビルボーはミシシッピー州選出の上院議員で白人優越主義思想を持った人物。議会で「黒人をアフリカに送り返そう」と発言したことで知られています。

ジェラルド・K.L. スミスは「Christian Nationalist Crusade」という白人キリスト教徒優越主義者の団体の創始者で、ユダヤ人の国外追放と黒人をアフリカへ送り返すことを唱えた人物です。

実在の人物を批判していることで、この映画の信憑性と迫力が増しているんですよね。


フィルは、雑誌社の幹部のみが出席した昼食会で自分がユダヤ人だと偽の告白をした後、オフィスに戻って、クラブ、ホテル、求人広告、アパートのオーナー、医学大学の入学受付係など様々な組織に、「スカイラー・グリーン」と「フィリップ・グリーン」という名前で同じ内容の2通の手紙を送るようにと、秘書エレイン・ウェイルズに依頼します。

最後にフィリップと秘書の会話を見てみましょう。

Elaine: Of course you know it will be yes to the Greens and no the Greenbergs.
Phil: Sure, but I want it for the record.
Elaine: Now if your name was Saul Green or Irving or something like that, you wouldn't have to go to all this bother. I changed mine. Did you?
Phil: Wales? Green's always been my name. What's yours?
Elaine: Walovsky. Estele Walovsky. And I just couldn't take it about applications, I mean. So one day I wrote the same firm two letters. Same as you're doing now. I sent the Elaine Wales one after they'd said there were no openings to my first one. I got the job, all right. Do you know what firm that was? Smith's Weekly!
Phil: No!
Elaine: Yes, Mr. Green. The great liberal magazine that fights injustice on all sides. It slays me. I love it.
Phil: Mr. Minify know about that?
Elaine: Oh he can't be bothered thinking about small fry. That's Mr. Jordan's department hiring and firing. But if anybody snitched, you know there'd be some excuse for throwing them out. So anyway I thought maybe you had changed yours sometime. I mean when I heard you were Jewish.
Phil: You heard it?
Elaine: Why, sure.
Phil: When?
Elaine: Well, when you finished luncheon and went back to Mr. Minify's office it kind of ...got around.
秘書: グリーンにはyes、グリーンバーグにはnoという返事が来ることは目に見えてますよね。
フィル: 確かに。でも記録として残したい。
秘書: ソール・グリーンとかアーヴィングだったらこんな面倒なことをせずに済んだでしょうね。私は名前を変えましたけど、あなたは?
フィル: ウェイルズと変えたのかい? 僕はずっとグリーンだ。君の名前(本名)は?
秘書: ワロフスキーです。エステル・ワロフスキー。申し込みをするたびにウンザリして、ある日一つの会社に二つ手紙を書いてみることにしたんです。あなたが今やっているのと同じように。最初の申し込みの手紙が「空きがない」と拒絶された直後にエレイン・ウェイルズという名前で出したら雇われたんですよ。どの会社だと思いますか? Smith's Weeklyですよ!
フィル: まさか!
秘書: 本当です。あらゆる不正と闘っている非常にリベラルなこの雑誌社です。あきれますけど、笑っちゃいますよね。
フィル: ミニフィー氏は知ってるのか?
秘書: こんな些細なことは知らされていないでしょう。雇用と解雇はジョーダン氏の部署ですから。もし誰かが告げ口したとしても、何か口実を作ってクビにされるだけですよ。ま、とにかくこういうことなのであなたも名前を変えたのかと思ったんです。あなたがユダヤ人だと聞いたものですから。
フィル: 聞いた?
秘書: ええ、そうです。
フィル: いつ?
秘書: 昼食会を終えてミニフィー氏のオフィスに戻った時、噂が広まったんです。

名前だけでユダヤ人差別をする卑劣さ、差別廃止を訴えるリベラルな機関でもユダヤ人差別が横行する実態、そして何よりも、「あの人はユダヤ人だ」という噂がひそひそ話であっという間に広がる陰湿さを伝えるやりとりですよね。
ちなみに、ソール(Saul)はジーザスの12使徒のうちの一人パウロ(Paul)が改名する前の名前で、アーヴィング(Irving)はキリスト教徒(特にカトリック)に多い名前です。

来週は、ユダヤ人になりすましたフィルが実際にユダヤ人差別を肌で体験するシーンを見てみましょう。

脚注
*1.nigger
negro」同様、黒人の蔑称。「nigger」という単語は、アメリカのラップミュージックや黒人同士の会話で使われることがあるが、黒人同士であれば、単に「黒人」という意味だったり、「仲間」といういい意味で使われることもある。ただし、これは黒人同士で使った場合に限り、日本人は間違っても使うべきではない。

関連サイト

DVD『Gentleman's Agreement』

  DVD『Gentleman's Agreement』
 

ボキャブラリー
lowdown:真相、秘密情報
mannerism:クセ
conspiracy:陰謀

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