Updated every Monday, 更新日:7月18日
ジャーナリスト 西森マリー先生
日本ではほとんど知られていないもう一つのアメリカから情報発信するジャーナリスト、西森マリーさん。背景を知れば、英語もなっとく。マリーさんから、もう一つのアメリカとアメリカ英語の背景を学ぼう!
アメリカン・カルチャーを知る英語講座
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洋画をネイティブ感覚で鑑賞するために必要なキリスト教の知識11〜『ドグマ』その3
Dogma: Part 3
数週間にわたって、ベン・アフレック、マット・デイモン主演の映画『ドグマ(原題:Dogma)』を鑑賞するために必要な、キリスト教の基礎知識に関する話題をお届けしています。
キリスト教の神髄に疑問を投げかけるような台詞、特にカトリックの信条を揶揄したコメントがたくさん出てくる『ドグマ』は、アメリカで公開されたときカトリック教徒たちがボイコット運動を繰り広げ、原理主義者たちからも厳しい非難を浴びました。
今週は、日本人にはわかりにくいカトリック関連の台詞をご紹介しましょう。
まず、空港でロキ(マット・デイモン)が尼僧に言った一言を見てみましょう。
Organized religion destroys who we are by inhibiting
our actions... by inhibiting our decisions, out of... out of fear of some...
some intangible parent figure who... who shakes a finger at us from thousands
of years ago and says... and says, "Do it - Do it and I'll fuckin'
spank you."
「組織的宗教は、人間を怖がらせて人間の行動や決断力を抑制することによって、我々の人間性を破壊しているんだよ。何千年も前からの漠然とした親のような(権威のある)存在が僕たちを制止して『そんなことしたら徹底的にひっぱたいてやるぞ』と脅しているようなものだ」
これは、教会が説いているキリスト教は、キリスト自身が伝道した博愛の宗教とはかけ離れたものと化してしまい、「罪を犯すとひどい罰を受けるぞ!」と脅すことによって人々を従わせているだけ、という皮肉なんですよね。
次に、カトリックのドグマ(教義)を批判する台詞を見てみましょう。
うさんくさい枢機卿グリック(ジョージ・カーリン)が率いるニュージャージーの聖マイケル・カトリック教会が、カトリック信者を増やすために、この教会の門をくぐった人全員にplenary
indulgence (全免償:全ての罪を許すこと)を与えるというセレモニーを行う、と発表します。
ローマ法王の許可を得たこのセレモニーのニュースを聞いた後の、ロキとバートルビーの会話を見てみましょう。
Loki:
But this thing is, this is church law. It's not
divine mandate. Church laws are fallible because they're created by
man.
Bartleby:
One of the last sacred promises imparted to Peter.
The first pope by the son of God, before he left was "whatever
you hold true on earth...
Loki:
"I'll hold true in heaven."
Bartleby:
It's dogmatic law. If the church says it's so, God
must adhere. This thing has a papal sanctioning.
ロキ:
でも、これ(教会が全免償を与えるというコンセプト)は教会の法規で神の命令じゃないよな。教会の法規は人間が造ったものだから誤りを免れない。
バートルビー:
ペテロに授与された最後の聖なる約束のうちの一つは、「地上で真なること(有効なこと)は全て…」
ロキ:
「天国でも真である(有効である)」
バートルビー:
これは(カトリックの)教義から生まれた法規だ。ローマ・カトリック教会の意向を神は支持しなくちゃいけないんだよ。これはローマ法王の許可を得てるんだから。
ペテロは、12使徒( * 脚注1) の一人で、最初の法王とみなされているキリスト教の要人なので、神から特別な権威を授かったと考えられているため、カトリック教徒の多くはローマ・カトリック教会のドグマは神の言葉同等の権威を有すると信じています。
ですから、二人のこのやりとりは、カトリック教会のドグマに疑問を投げかけ、さらにドグマを信じているがために「いかがわしい聖マイケル教会の門をくぐるだけで全ての罪が許される」と本気で信じてしまうカトリック教徒を小馬鹿にした台詞なのです。
次に、「Mooby: The Golden Calf 」の本社にロキとバートルビーが押しかけるシーンを見てみましょう。
重役たちのsins (宗教的な罪)を暴くバートルビーは、重役たちの姦淫やどん欲などの罪を非難した後に、
Mr. Brace disowned his gay son. Very compassionate,
Mr. Brace!
「ブライス氏はゲイの息子を勘当した。すごく哀れみ深いよな、ブライスさん」
と痛烈な皮肉を言っています。
「同性愛者にも優しくすることが、博愛と慈悲を説くキリスト教の神髄」という大前提の元に発せられるこの台詞が、ゲイを忌み嫌っている原理主義者やカトリック教会を怒らせたのは当然の成り行きですよね。
次は、映画で、「13人目の使徒だったけど黒人なので聖書に入れてもらえなかった」という設定の登場人物ルーファス(クリス・ロック)がジーザスについて語った一言を。
His only real beef with mankind is the shit that gets
carried out in his name. Wars, bigotry, televangelism.
「彼(ジーザス)が人間に対してマジで一番怒ってるのは、クソみてぇなひどいことが彼の名にかけて行われてることだ。戦争とか偏狭な考え方、テレビ伝道師とか」
原理主義者は好戦的なことで知られていますし、テレビ伝道師( * 脚注2) のほとんどが原理主義者なので、原理主義者たちがこの映画を「原理主義を攻撃する映画」だと思ったのも頷けますよね。
次に、原理主義者やカトリックが、尊厳死に反対していることを揶揄した台詞をご紹介しておきましょう。
人間に化けて地上に遊びに来た神が、悪の手先に攻撃されて脳死状態になっているんですけど、州政府は身元不明のこの人物への延命措置を解除しようとするんですよね。
それに対し、カトリック教会は尊厳死を認めていないので、神父が信者たちにこう呼びかけています。
While he shows no signs of recovery, the Arch-Bishop
of the Trenton Diocese has disputed the state's decision to remove the indigent
man from life support systems, asking that Catholics all over the country
join in this protest against Euthanasia.
「彼(脳死状態になっている身元不明の人物)は回復の兆しは見せていませんが、トレントン教区の大司教は、この哀れな男性から延命装置を外すという州の決断に抵抗し、アメリカ中のカトリックに安楽死に抗議するようにと呼びかけています」
でも、この男性は延命措置を受けずに死ねば、即天国に行って神の姿に戻れますが、延命措置を受けて脳死状態でいる限りは、この世の中は神がいない世界と化してしまう、というわけなんですよね。ですから、この一言は尊厳死賛成意見と受け止められたわけです。
2005年初め、フロリダで脳死状態だったテリ・シャイボさんの尊厳死にカトリックと原理主義者たちが反対し、ジェブ・ブッシュフロリダ知事が連邦政府に働きかけて尊厳死を中止させようとする、という事件( * 脚注3) が起こりましたが、アメリカでは尊厳死は国を二分するほどの大問題なのです。
最後にルーファス、ベサニー(リンダ・フィオレンティーノ)とグリック枢機卿のやりとりを見てみましょう。
Rufus:
I'm telling you man. this ceremony is a big mistake.
Glick:
The Catholic Church does not make mistakes.
Rufus:
Please, what about the church's silent consent to
the slave trade?
Bethany:
And it's platform of non-involvement during the Holocaust?
Glick:
Alright, mistakes were made. But one can hardly hold
the current incarnation of Holy Mother Church responsible for oversights
of old.
ルーファス:
マジで言わせてもらうけど、このセレモニー(全免償の儀式)は大きな間違いだ。
グリック枢機卿:
カトリック教会は過ちは犯さない。
ルーファス:
冗談だろ、奴隷貿易を黙認したくせに。
ベサニー:
ホロコーストのときも不干渉という立場を取ったじゃない。
グリック枢機卿:
確かに、過失はあった。でも昔のうっかりしたミスの責任を、今のカトリック教会に負わせることなどできるはずがないだろう。
(Holy Mother Church はカトリック教会のこと。ちなみにローマ法王はHoly
Father と呼ばれています)
これも、カトリック教徒にとっては忘れたい過去を蒸し返される、というやりとりなので、カトリック批判と受け止められても仕方ないでしょう。
カトリックの教義や、右派キリスト教徒の考え方を理解した上で、この映画を見ていない人はもちろん、既に見た人も是非もう一度お楽しみください!
脚注
* 1.12使徒
キリストの弟子で、ペトロ、ヤコブ(大ヤコブ)、ヨハネ、アンデレ、ピリポ、ヤコブ(小ヤコブ)、トマス、マタイ、シモン、バルトロマイ、タダイ、ユダの12人。ユダはキリストを裏切ったため、後にマテアが代わりに追加された。
* 2.テレビ伝道師(televangelists)
テレビを通してキリスト教の教えを伝導する人たちのこと。TV説教師(TV preachers)とも呼ばれる。現在、アメリカで有名なのは、パット・ロバートソン氏、ジェリー・ファルウェル氏、フランク・グラハム氏の3人。パット・ロバートソン氏は、1960年にキリスト教専用のテレビ局CBN(Christian
Broadcasting Network)を設立している。
・パット・ロバートソンHP
・フランク・グラハムHP
・ジェリー・ファルウェルHP
* 3.テリ・シャイボさんの事件
摂食障害で15年間植物状態であったフロリダ州の女性テリさんについて、尊厳死を求める夫と、延命を望む両親との間で法廷論争が続いていた。2005年3月に、栄養チューブの取り外しを命ずる判決が下され、テリさんは死亡。この「尊厳死」をめぐり、ジェブ・ブッシュ知事や米大統領も介入し、米国で大論争を巻き起こした。
・テリ・シャイボさん死去、栄養チューブ撤去から13日後
・テリさんの『命』 かたずのむ国民
・尊厳死の女性に虐待の形跡なし、米検視官が発表
・テリさんの検視結果について
関連サイト
ボキャブラリー
plenary indulgence :全免償
dogmatic :教義上の
papal :ローマ法王の
compassionate :思いやりのある、心のやさしい
televangelism :テレビ伝道師
diocese :司教
euthanasia :安楽死、尊厳死
slave trade :奴隷売買、奴隷貿易