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アメリカン・カルチャーを知る英語講座

Updated every Monday, 更新日:5月30日

ジャーナリスト 西森マリー先生

西森先生
西森先生のプロフィール
日本ではほとんど知られていないもう一つのアメリカから情報発信するジャーナリスト、西森マリーさん。背景を知れば、英語もなっとく。マリーさんから、もう一つのアメリカとアメリカ英語の背景を学ぼう!


アメリカン・カルチャーを知る英語講座 60

洋画をネイティブ感覚で鑑賞するために必要なキリスト教の知識4〜『薔薇の名前』その3
The Name of the Rose Part 3
 

数週にわたって、キリスト教関連の映画と、その背景に関してお届けしています。



今週は、ショーン・コネリー主演映画『薔薇の名前(原題:The Name of the Rose)』に出てくる、ベネディクト修道会に関する基礎知識をおさらいしておきましょう。


ベネディクト修道会は、6世紀にイタリア人のベネディクトが作った修道会で、修道会の老舗とも言うべき存在です。

初期の頃は、修道士たちは、夜明け前に起床して、一日8回祈りを捧げ、昼間は農業などの肉体労働に従事する、という「祈りと労働」を重視した暮らしをしていましたが、中世以降は、肉体労働よりも様々な本の管理や住民の教育などの、インテレクチュアル(知的)な仕事に重点が置かれるようになりました。

この修道会のモットーをつづった『The Rule of St. Benedict』には、

absolute obedience to the superior「地位が上の者への絶対的服従」、
fear of God「神を恐れること」、
repression of self-will「自己の意志の抑制」、
speaking only in due season「必要な時のみしゃべる」、
stifling of unseemly laughter「見苦しい笑いの抑制」

などが、天国へ入るために必要な行為として説かれています。

中世のベネディクト修道会の修道士たちは、修道院にこもってインテリとして過ごしていたため、世俗の人々の間で伝道をしていたフランシスコ修道会*脚注1)の托鉢修道士たちを小馬鹿にしていた、と言われています。

また、異端審問が始まってから3世紀ほどは、教会が発禁処分にした本も焚書されるのではなく、ベネディクト修道会などの図書館に「しまっておく」ということが多かったので、「暗黒時代のヨーロッパでギリシア哲学や古典(自由思想を唱えるギリシア哲学や多神教のギリシア・ローマ神話に基づく古典は、キリスト教の教えと対立するので発禁処分になったものも少なくありませんでした)などの重要な本が生き残れたのは、ベネディクト修道会の図書館のおかげである」と公言している学者も少なくありません。

後半は、このような社会背景をふまえて、1327年のベネディクト修道院が舞台になっている映画『薔薇の名前』のダイアローグを見てみましょう。

まず、ネズミを見て笑ったベネディクト修道士を叱るベネディクト修道院の長老ヨルギと、フランシスコ修道会のウィリアム(ショーン・コネリー)のやりとりから。

Jorge: (In Latin: A monk should not laugh. Only the fool lifts up his voice in laughter.) I trust my words did not offend you, Brother William, but I heard persons laughing at laughable things. You Franciscans, however, belong to an order where merriment is viewed with indulgence.
William: Yes, it's true. St. Francis was much disposed to laughter.
Jorge: Laughter is a devilish whim which deforms, uh, the lineaments of the face and makes men look like monkeys.
William: Monkeys do not laugh. Laughter is particular to men.
Jorge: As is sin. Christ never laughed.
William: Can we be so sure?
Jorge: There is nothing in the Scriptures to say that he did.
William: And there's nothing in the Scriptures to say that he did not. Why, even the saints have been known to employ comedy, to ridicule the enemies of the Faith. For example, when the pagans plunged St. Maurice into the boiling water, he complained that his bath was too cold. The Sultan put his hand in... scalded himself.
ヨルギ: (ラテン語で:修道士は笑うべきではない。声を上げて笑うのは愚か者のみ)ブラザー・ウィリアム、今の私の言葉で気を悪くなさらなかったでしょうな。くだらないことを笑っている者たちがいたのでね。あなた方フランシスコの修道会は浮かれ騒ぎを寛大に受け入れておりますな。
ウィリアム: その通りです。聖フランシスは笑うことが好きでした。
ヨルギ: 笑いは悪魔のような気まぐれで、顔の形を歪め、人を猿のような顔にしてしまいます。
ウィリアム: 猿は笑いません。笑いは人間特有のものです。
ヨルギ: 罪もまた人間特有のものです。キリストは笑ったことなどなかった。
ウィリアム: 断言できますか?
ヨルギ: 聖書にキリストが笑ったという記述はありません。
ウィリアム: 聖書にはキリストが笑わなかったという記述もありませんよ。聖者たちも信仰の敵をばかにするために、喜劇的要素を用いたではありませんか。たとえば聖モーリスは、異教徒たちに煮え湯に放り込まれたとき、風呂が冷たすぎる、と文句を言った。それでサルタンが湯に手を入れて...やけどをしましたよね。

次に、図書館が火事で焼ける直前の、二人のやりとりを見てみましょう。
図書館秘蔵のギリシア喜劇の本を、誰にも読ませまいとするヨルギとウィリアムの会話です。

William: But what is so alarming about laughter?
Jorge: Laughter kills fear, and without fear there can be no faith,
because without fear of the Devil there is no more need of God.
ウィリアム: 笑いのどこがそれほど脅威なのですか?
ヨルギ: 笑いは恐れる心を抹殺する。恐れる心がなくなれば信仰もなくなる。悪魔を恐れる心がなくなれば、神は無用となってしまうからです。

さらに、二人はこういう会話をしています。

William: But you will not eliminate laughter by eliminating that book.
Jorge: No, to be sure. Laughter will remain the common man's recreation. But what will happen if, because of this book learned men were to pronounce it permissible to laugh at everything? Can we laugh at God? The world would relapse into chaos. Therefore, I seal that which was not to be said and the tomb I become.
ウィリアム: しかし、あの本を排除しても笑いを排除することはできないでしょう。
ヨルギ: 完全に排除することはできません。笑いは凡人の気晴らしとして生き残るでしょう。でも、あの本のせいで有識者たちがどんなことでも笑っていいと思い始めたらどうなるでしょう? 神を笑ってもいいということですか? 世界は混沌に戻ってしまうでしょう。だからこそ私は言葉になるべきではなかったものを封印し、その墓となるのです。

ウィリアムとヨルギのこれらの会話、フランシスコ修道会とベネディクト修道会の違い、そしてベネディクト修道会のモットーを知っているとより深く味わうことができるでしょう?


最後に、迷路のような図書館で迷わないようにするために、ウィリアムの弟子アドソ(クリスチャン・スレイター)が修道衣をほぐし、その糸を柱に結びつけたことを褒めるウィリアムの台詞をご紹介しましょう。

Well done. boy! Your classical education serves us well.
「偉いぞ! 古典を勉強した甲斐があったというものだ」

これは、ギリシア神話に出てくる、英雄テセウスと彼を愛するアリアドネのお話のことを言ってるんですよね。

テセウスが、ミノタウロスの住むラビリンス(迷宮)から無事に脱出できるようにするために、アリアドネが糸玉を彼に渡し、テセウスは糸の端を入り口に立つ仲間に持たせ、糸を繰り出してラビリンスに入っていってミノタウロスを殺し、その後、糸をたぐって迷路から無事に出てくる、というお話です。

つまり、この台詞は「キリスト教の教えと相容れない多神教の古典も捨てたもんじゃない」という皮肉を込めた一言でもあるんです。

背景が分かると、今まで見逃していた何気ない台詞もしっかり鑑賞することができますよね!

脚注
*1.フランシスコ修道会
カトリック教会の修道会の一つ。莫大な権力と富を保持していたカトリック教会に対し、フランシスコ修道会は、世俗的な富を否定している。人々から食べ物を施してもらっていたため、托鉢修道会とも呼ばれる。フランシスコ修道会については過去のコラムを参照。

関連サイト
ベネディクト修道会のサイト

聖ベネディクトの画像が見られる

ベネディクト修道会の日本語サイト

DVD『薔薇の名前(原題:The Name of the Rose)』

小説『薔薇の名前』 全世界でベストセラーになった。

書籍『The Rule of St. Benedict』
 
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ボキャブラリー
obedience:服従
monk:修道士
merriment:陽気な騒ぎ
scripture:聖書
pagan:異教徒

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