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アメリカン・カルチャーを知る英語講座

Updated every Monday, 更新日:5月23日

ジャーナリスト 西森マリー先生

西森先生
西森先生のプロフィール
日本ではほとんど知られていないもう一つのアメリカから情報発信するジャーナリスト、西森マリーさん。背景を知れば、英語もなっとく。マリーさんから、もう一つのアメリカとアメリカ英語の背景を学ぼう!


アメリカン・カルチャーを知る英語講座 59

洋画をネイティブ感覚で鑑賞するために必要なキリスト教の知識3〜『薔薇の名前』その2
The Name of the Rose Part 2
 

数週にわたって、キリスト教関連の映画と、その背景に関してお届けしています。



今週は、先週に引き続き、ショーン・コネリー主演映画『薔薇の名前(原題:The Name of the Rose)』の宗教的な背景、特に異端審問(Inquisition)に関して簡単におさらいしておきましょう。

異端審問は12世紀初期に、ローマ・カトリック教会が始めた異端者取り締まりのための裁判で、1834年まで延々と続きました。

スペインの異端審問では被害者の多くがイスラム教徒やユダヤ人でしたが(教会や王室が彼らの財産を没収したかったため)、フランスやイタリアなどでは非キリスト教徒のみならず、ローマ・カトリック教会の権威を脅かすカタリ派のキリスト教徒(俗世を捨てた禁欲的なクリスチャンの集団)や、フランシスコ修道会*脚注1)の人々も異端者と見なされて裁判にかけられました。

まともな根拠がなくても「彼/彼女は異端者だ!」という通報一つで、異端者のレッテルを貼られた人が拷問を受け、生きたまま火あぶりになる、ということがしばしばありましたし、ガリレオが裁かれた宗教裁判も異端審問の一環だったので、キリスト教圏の人々にとっての異端審問という言葉は日本語の「魔女狩り」と同じような含意を持った言葉なのです。

『薔薇の名前』には、ベルナルド・ギーという異端審問官(Inquisitor)が登場しますが、実はこの名前は14世紀前半に『Practica Inquisitionis Heretice Pravitatis(異端という悪行に関する詰問の仕方)』という異端審問マニュアル本を書いた実在の人物、ベルナルド・ギーにちなむもの。

この本は、当時教会の力を脅かす存在だった、フランシスコ修道会の人々を取り締まるためのhow-to本として利用された、ということなので、うってつけの命名ということですよね。

『薔薇の名前』には、修道士とセックスをしたことで、ベルナルド・ギーに異端者とみなされた女性を、ウィリアム(ショーン・コネリー)の弟子アドソ(クリスチャン・スレイター)が救おうとするシーンが出てきます。

アドソとウィリアムの会話を見てみましょう。

Adso: You said, you said nothing.
William: I said nothing because there was nothing to be said.
Adso: You're ready enough to speak the truth when it comes to books and ideas.
William: She is already burnt flesh, Adso. Bernardo Gui has spoken. She is a witch.
Adso: But that's not true, and you know it.
William: I know. I also know that anyone who disputes the verdict of an inquisitor is quilty of heresy.
アドソ: あなたは(彼女を弁護するために)何も言わなかった。
ウィリアム: 言うべきことが何一つなかったから何も言わなかったのだ。
アドソ: 本や思想に関しては真実を述べようとしているのに。
ウィリアム: 彼女はすでに火あぶりが確定している。ベルナルド・ギーが彼女は魔女だと言ったのだから。
アドソ: でも、それは真実ではないと、あなたはご存じです。
ウィリアム: 確かに。でも、審問者の判決に異論を唱える者は異端者とみなされる、ということも確かなのだ。

この後、ウィリアムは、さらにこう続けています。

William: I too was a inquisitor, but in the early days, when the Inquisition strove to guide, not to punish. And once I had to preside at the trial of a man whose only crime was to have translated a Greek book that conflicted with the holy scriptures.

Bernardo Gui wanted him condemned as a heretic. And I acquitted the man. Then Bernardo Gui accused me of heresy for having defended him. I appealed to the pope. I was put in prison, tortured and I recanted.
Adso: What happened then?
William: The man was burned at the stake. And I'm still alive.
ウィリアム: この私も審問者だった。でも、それは異端審問が人々を罰するためではなく、導くために行われた初期の頃のことだ。私は、聖書と相容れない内容のギリシア語の本を翻訳したというだけのことで、罪に問われた男の裁判をしたことがある。

ベルナルド・ギーは彼を異端者としたかったのだが、私は彼を無罪にした。その後、ベルナルド・ギーは彼を擁護した私を異端者として糾弾し、私は法王に上訴したが、牢獄に入れられ、拷問されて無罪判決を撤回した。
アドソ: その後、どうなったんですか?
ウィリアム: (翻訳した)男は火あぶりにされ、私はこうしてまだ生きている。

次に、フランシスコ修道会の修道士が、ローマ・カトリック教会の使節団から詰問されるシーンのやりとりを見てみましょう。

フランシスコ修道会の修道士に、
Did Christ or did he not own the clothes that he wore?
「キリストが着ていた服はキリストの持ち物だったか否か、それが問題なのです」

と問われ、ローマ法王からの遣いはこう答えています。

Beloved brethren of the Franciscan order, Our Holy Father, the pope, has authorized me and these, his faithful servants to speak on his behalf. The question is not whether Christ was poor, but whether the church should be poor.
「親愛なるフランシスコ修道会の兄弟たちよ、我らが聖なる法王は、私とこの忠実なる使節団が法王の代弁者となるようにと命じました。問題は、キリストが貧しかったか、ではなく、教会が貧しくあるべきか、ということです。

You Franciscans wish to see the clergy renounce its possessions and surrender its riches the abbeys dissipate their sacred treasures and hand over their fertile acres to the serfs---- thereby depriving the church of the resources needed to combat unbelievers and wage war on the infidel.
あなた方フランシスコ修道会の人々は、聖職者が所持品や富を捨て去り、大修道院が神聖なる財産を処分して、肥沃な所有地を農奴たちに与えることを望んでいらっしゃる --- そんなことをしたら教会は不信心者と戦い、異教徒と戦争をするための財源を失ってしまいます」

これらの台詞は、異端審問がどれほど不条理なものだったか、さらにローマ・カトリック教会がどれほど権威を持っていたかを知っていると、より深く味わうことができますよね。


ちなみに、今年4月に就任した新法王ベネディクト16世は、ガリレオ裁判に関して、枢機卿時代の1990年にこうおっしゃっています。*脚注2)

At the time of Galileo the Church remained much more faithful to reason than Galileo himself. The process against Galileo was reasonable and just
「ガリレオの時代には、教会のほうがガリレオよりも理性をもっていたので、ガリレオに対する処分は道理にかない、正当なものだったのです」

脚注
*1.フランシスコ修道会
カトリック教会の修道会の一つ。莫大な権力と富を保持していたカトリック教会に対し、フランシスコ修道会は、世俗的な富を否定している。人々から食べ物を施してもらっていたため、托鉢修道会とも呼ばれる。フランシスコ修道会については過去のコラムを参照。

*2.当時の法王ヨハネ・パウロ2世は、1992年にガリレオ裁判が誤りであったことを認めている。

関連サイト
スペインの異端審問について(過去のコラムから)

DVD『薔薇の名前(原題:The Name of the Rose)』

小説『薔薇の名前』 全世界でベストセラーになった。
 
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ボキャブラリー
the Inquisition:異端審問、宗教裁判
flesh:肉体
witch:魔女
scripture:聖書
heretic:異端者、異教徒
recant:取り消す、撤回する
pope:ローマ法王
abbey:大修道院
infidel:異端者

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