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アメリカン・カルチャーを知る英語講座

Updated every Monday, 更新日:4月12日

ジャーナリスト 西森マリー先生

日本ではほとんど知られていないもう一つのアメリカから情報発信するジャーナリスト、西森マリーさん。背景を知れば、英語もなっとく。マリーさんから、もう一つのアメリカとアメリカ英語の背景を学ぼう!


アメリカン・カルチャーを知る英語講座 2
なぜ、映画『The Passion of the Christ』が物議をかもしたのか? その1
"The Passion of the Christ" Controversy I
西森先生
西森先生のプロフィール
 

今回から4回、映画を糸口にキリスト教に関する記事をお届けします。

アメリカ人(特にRed Americaの人々)と対等に会話をしたいと思ったら、キリスト教は、絶対に避けては通れない概念です。(Red Americaについてはこちら

宗教をまともに学ぶのはちょっと堅苦しくて気が引ける、と思われる方が多いでしょうが、映画から入れば宗教もちょっとは親しみやすく感じられるはずなので、肩肘を張らずにお読みになってくださいませ。

今回は、メル・ギブソンが監督した映画『The Passion of the Christ』がなぜ物議を醸しているのかをご説明いたしましょう。

この映画は、fly-over statesの原理主義的キリスト教の団体(英語ではFundamentalists)が、布教活動の一環としてチケットを大量に買い占めて配りまくったのが功を奏し、公開6週目で3億3400万ドルものセールスを達成し、すでにアメリカ映画史上歴代10位という興行成績をあげています。

でも、その一方では、ユダヤ人や、心あるキリスト教徒の人々から「The Jews killed Jesus.(ユダヤ人がキリストを殺した)、という誤った固定観念を助長する」として非難されています。

『パッション』はキリストの最後の12時間を“新約聖書の記述に忠実に描いた作品”、というのがウリなんですけど、実はそれこそが問題の根元なんですよね。

キリストの処刑に関する聖書の記述を、かいつまんでご紹介しましょう。

まず、キリストの弟子の一人ユダが彼を裏切り、ユダヤ教の司祭長や律法学者たちにキリストを引き渡します。

彼らは「He is guilty of death.」(彼は死刑に値する)と最初から決めつけ、キリストの顔にツバを吐き、拳で殴り、平手で打つ、という暴力をふるい、次の朝、キリストを当時のイスラエルを占領していたローマ帝国の総督ピラトに引き渡します。

ピラトは彼らがキリストの人気をねたんでいたことに気づいていたので、なんとかキリストを救おうとし、ピラトの妻も「Have thou nothing to do with that just man:」(あの正しい人に関わり合わないでください)と懇願します。

ピラトは、囚人を一人赦免してやることになっていたので、キリストを赦免したいと思っているのですが、ユダヤ教の司祭長や長老たちは、群衆(ユダヤ人の土地で起きていることなので、“群衆”は皆ユダヤ人です)が、もう一人の囚人バラバの赦免を願い、キリストの処刑を求めるように仕組みます。

司祭長たちにすっかり乗せられた群衆は、バラバの赦免とキリストの処刑を望み、ピラトに「Why, what evil hath he done?」(彼がいったいどんな悪いことをしたと言うのか?)と、たしなめられても、さらに激しく「Let him be crucified.」(彼をはりつけにしろ)と叫びます。

この状況はもう自分の手に負えない、と判断したピラトが

...he took water, and washed his hands before the multitude,
(群衆の前で水を取り寄せ手を洗って)
I am innocent of the blood of this just person: see ye to it.
(この人の血に関して私には責任はない。自分たちで始末せよ)

と言うと、群衆は
His blood be on us, and on our children.
(彼の血は我々や我々の子どもたちの上にかかるがいい)と答えます。

ざっと読んだだけでもおわかりだと思いますが、聖書の記述は、血に飢えた卑劣なユダヤ人たちがキリストを殺した、と言わんばかりの描き方になっているんです。

だから、聖書に書いてあることを、文字どおりに受け取り、そのまま歴史的に実際に起こったことだと信じている原理主義的なキリスト教徒たちはthe Jews killed Jesusと思ってしまう傾向が非常に強いのです。

こうした背景が見えてくると、原理主義者が多く、非キリスト教徒や有色人種への差別が未だに根強く残っているRed Americaでこの映画がウケるワケ、そしてユダヤ人がこの映画を強く非難している理由が分かってきますよね。

聖書は、読み物として読むとけっこう面白いしタメになります。それに、なんといっても欧米人とまともに話し合うには、聖書の記述を知っておく必要があるので、お時間のあるときに日本語訳の聖書を読んでみるといいですよ。

注:Fundamentalistは、聖書に書かれていることのみが真実であると信じている一派で、聖書の価値観や理念を何よりも重視しています。そのため、ダーウィンの進化論などの科学を受け入れず、社会の世俗化を非難し、自分たちと違う価値観の人々が社会を支配することを阻止しようと努力しています。


Words Box
宗教:religion
原理主義者:fundamentalist
ユダヤ人:Jewish(略すとJewだが、蔑称的印象もあり、略さない方がよい)
ユダヤ人は、日本語でヘブライ人、イスラエル人と訳されることもある
はりつけ(磔):crucifixion
はりつけにする:crucify
はりつけにされる:be cricified, die on the cross
the Passion:キリストの苦難(この意味の場合、必ず大文字で始まることに注意)
ピラト:Pilate, Pontius(キリストの処刑を許可した人物として、欧米では一般常識に属する有名人)

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