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【著者からのことば】
「どんなものを食べているか教えてくれたまえ。君がどんな人物か当ててみせよう」
『味覚の生理学』を記したフランスの伝説的美食家、ブリヤ・サヴァラン(1755−1862)による有名な言葉である。サヴァランにならって、もしも「アメリカ合衆国」が「ひとりの人間」だったら…というつもりで、「食」をテーマに観察してみたのが本書である。いろいろな意味で巨大な、そして多様性に富み、変化のスピードが速いこの国も、「食」という身近な切り口を通せば、ひょいと素顔が見えてくるかもしれない。とにかくエネルギッシュで、日本人にしてみればちょっと不思議な感じがしないでもないアメリカ人の食べっぷりを、まずは楽しんで読んでいただければうれしい。

食べるアメリカ人
加藤裕子


どうしてもやせられない

アメリカ人の半分以上は、要ダイエット

大相撲の力士並みの体格の男女が「ごろごろいる」というのは、何も誇張ではない。ニューヨーク大学教授マリオン・ネッスルの『フード・ポリティクス』(Food Politics)によれば、アメリカでは、「太りすぎ」の成人は35パーセント、さらに進んだ「肥満」は18パーセント、合わせれば50パーセント以上のアメリカ人が「医学的見地から要ダイエット」のカテゴリーに入れられてしまうわけだ。しかも、肥満度は年々進行しているのだから、恐ろしい。成人男女における「肥満」「太りすぎ」の割合は、1990年代に6〜10パーセントも上昇、同様の事態は子どもたちの間にも起こっている。1970年代後半から1990年代前半にかけて、「太りすぎ」に分類されたのは、6歳から11歳で8パーセントから14パーセントに、ティーンエイジャーでは6パーセントから12パーセントと、ほぼ倍増の勢いだ。

これほどの肥満が、健康に良いわけがない。2000年には、約30万人ものアメリカ人が、肥満に関係があるとされる病気(虚血性心疾患、糖尿病、高血圧、脳卒中、結腸ガンをはじめとするある種のガン、関節炎など)で死亡したという(アメリカ公衆衛生局調査による)。ここまでになると、肥満予防の努力はもはや国をあげての一大プロジェクトだ。アメリカ政府は「フード・ガイド・ピラミッド」などで、健康的な食生活の啓蒙に努めているし、人々も「体に悪い」脂肪を多く含む赤身の肉の消費を減らして、代わりに鶏肉や魚を多く食べるようになった。今やファーストフードでさえ、より健康志向の「サブウェイ」があの「マクドナルド」の全米店舗数を抜くまでにいたった(2001年12月の時点で、「サブウェイ」が13,247店舗、「マクドナルド」が13,099店舗)。

そして、何よりも目立つのは、「ローファット」「ファットフリー」商品の氾濫ぶりである。

実際、アメリカのスーパーマーケットに行けば、ほとんどすべての食品に「ローファット」か「ファットフリー」のラベルを見ることができる。牛乳、ヨーグルト、チーズ、ポテトチップスなどのスナック類、アイスクリーム、冷凍食品、ドレッシングやマヨネーズ…例を挙げればきりがない。もちろん、需要があるからこうした商品が市場に並ぶわけで、「カロリー・コントロール・カウンシル」(Calorie Control Council)が1998年に行った調査によれば、実に90パーセントのアメリカ人が「低脂肪か脂肪の少ない食べものや飲み物を消費している」という。しかし、その努力にもかかわらず、前述した通り肥満の割合は増えているのだから解せない話だ。

だが、専門家に言わせれば、ことは単純なのである。全米心臓医師協会(The American Heart Association)によれば、「人々は、脂肪が少ないからといって、それらの商品を食べ過ぎている」のだ。確かに、太る原因は、脂肪だけにあるのではない。脂肪を減らした食品の中には、風味を補うために砂糖などを多く使い、カロリーを見れば、結局通常の脂肪を含む食べ物と同じになってしまうものもある。それに、「ファットフリー」の牛乳を飲んでいるから安心、とばかりに、ほとんど砂糖水のようなソフトドリンクをがぶ飲みしていたとしたら、普通の牛乳を主に飲んだ場合と比べて、はたしてどちらがやせられるだろうか。

しかも、「ローファット」食品を食べていることを免罪符に、たいした運動をしていないなら、食べた分のカロリーは確実に体重増加へとつながっていく。要するに、「ローファット」や「ファットフリー」食品は、やせるための万能薬ではないのだ。

太りすぎ(overweight)・肥満(obese):BMI(Body Mass Index:体重kgを身長mの二乗で割ったもの)が25以上だと「太りすぎ」、30以上だと「肥満」となり、健康上のリスクが高いとされる。
フード・ガイド・ピラミッド(Food Guide Pyramid):1992年以降、アメリカ政府によって発表される健康な食生活の指針。ピラミッド状の絵に各食品群の摂るべき割合が描かれ、多い順(底一辺)から、穀物(パン、シリアル、米、パスタ:6〜11サービング)、野菜(3〜5サービング)、果物(2〜4サービング)、乳製品(牛乳、ヨーグルト、チーズ:2〜3サービング)、肉・鶏肉・魚・豆類・卵・ナッツ(2〜3サービング)、油脂と糖分(控えめに)、となっている。1サービングの量は、食品によって目安が示され、たとえば、全粒パン1切れ、小さめのベイクト・ポテト1個、4分の1カップのドライ・フルーツなどがそれぞれ1サービングとなる。
「体に悪い」脂肪:飽和脂肪酸(saturated fat)を多く含む動物性脂肪を指す。
サブウェイ(Subway):サンドイッチのファーストフード・チェーン。全粒パンや好きな野菜をチョイスできたり、マヨネーズの代わりにオイルとビネガーで味つけしてもらえるなど、力ロリーを低くする工夫ができる。肉抜きのメニューもある。日本にも1991年進出。

加藤裕子『食べるアメリカ人』(大修館書店)より

Thanks to:
株式会社 大修館書店
〒101-8466 東京都千代田区神田錦町3-24

著者プロフィール
加藤裕子(かとう ひろこ)
1970年生まれ。生活文化ジャーナリスト。早稲田大学卒業後、女性誌の編集者を経て、99年にフリーランスに。同年渡米。The Vegetarian Resource Groupに籍をおき、アメリカのベジタリアン事情、食生活、健康志向などをテーマに取材。帰国後は日米のメディアで活動している。著書に『寿司、プリーズ!〜アメリカ人寿司を喰う』(集英社新書)、『「シャキッと炒める」を英語で言うと』(幻冬舎)などがある。

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