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【著者からのことば】
「どんなものを食べているか教えてくれたまえ。君がどんな人物か当ててみせよう」
『味覚の生理学』を記したフランスの伝説的美食家、ブリヤ・サヴァラン(1755−1862)による有名な言葉である。サヴァランにならって、もしも「アメリカ合衆国」が「ひとりの人間」だったら…というつもりで、「食」をテーマに観察してみたのが本書である。いろいろな意味で巨大な、そして多様性に富み、変化のスピードが速いこの国も、「食」という身近な切り口を通せば、ひょいと素顔が見えてくるかもしれない。とにかくエネルギッシュで、日本人にしてみればちょっと不思議な感じがしないでもないアメリカ人の食べっぷりを、まずは楽しんで読んでいただければうれしい。

食べるアメリカ人
加藤裕子


3大ファーストフードのルーツを探る

ファーストフードは悪者か

アメリカの食べ物といえば、ファーストフード。簡単で、便利で、安い値段でお腹いっぱいになるというその魅力は、アメリカのみならず世界中を席巻している。ファーストフードを目の敵にする傾向は、最近とみに強いようだ。しかし、時間に追われる生活があたりまえの現代人にとっては、ただ単にファーストフードを「悪者」扱いすればそれですむ、というわけにもいかない。良心的な生産者が手間ひまかけて作った「本物」の食材を心豊かに楽しむ「スローフード」には憧れるものの、ワンコインで一分もかからずに差し出されるセット・メニューの便利さも、やはりなくてはならないものである。糾弾すべきは、ファーストフードそのものより、それに頼らざるを得ない、せわしない生活スタイルにあるのかもしれない。

動物性脂肪で油ぎった、添加物や保存料がいっぱいの、ビタミンやミネラルなどはほんのわずかしか摂取できない「ジャンクフード」、それが、いわゆるファーストフードの一般的なイメージだろう。だが、ファーストフードとジャンクフードは、本当にイコールで結ばれるのだろうか。たとえば、全粒粉のパンにオーガニック・ビーフのバーガー、やはりオーガニックのタマネギやレタスやトマトをはさみ、オーブンで焼いて岩塩を振ったポテトを添えたハンバーガー、となると、これは「ファースト」であっても「ジャンク」とは呼べない。ホットドッグだって、職人が昔ながらの手法で、スモークチップの香り高く燻した自然素材のソーセージを使い、こだわりのピクルスやマスタードと一緒に出せば、立派にグルメ食品の仲間入りをする。そんな商品を売るファーストフード・チェーンはないから、夢物語、と言ってしまえばそれまでだが、ハンバーガーやホットドッグは何も、店で買わなくても食べられることを忘れてはいけない。

初めてアメリカでハンバーガーを食べた時の衝撃は、今でもはっきりと覚えている。ホームステイ先の家族が、炭火を起こしたグリルでたっぷり五センチはある挽肉のパテをジュウジュウと焼き、ありあわせの野菜、ケチャップにマスタードを好みでパンの間にはさんだその味は、「今まで食べていたハンバーガーはいったい何だったんだろう」と呆然とするほど、力強いおいしさに満ち満ちていた。混じりけのない肉のうまみ、新鮮でみずみずしい野菜、何より作りたての熱々を食べる幸せ…自分の胃袋が、アメリカ人ほど巨大でないのが、あれほどうらめしかったことはない。

アットホームなバーベキューの機会がなくても、アメリカでは、ダイナーやなんてことのないレストランで、とびきりおいしいハンバーガーに出会うことがある。そうした店では、肉のボリュームはもちろん、野菜も、ピクルスも、皿の脇の山盛りポテトも実に豪快な量で、アメリカのファーストフード本来の実力をまざまざと見せつけるかのようだ。そんなハンバーガーを一度食べてみると、日本ではせいぜい昼食かおやつの一時しのぎにしかならないハンバーガーが、アメリカ人にとっては、昼はもちろん、十分に夕食の主役となりうるのも、なんだかわかる気がするのである。

スローフード (slow food): 1986年にイタリアで始まった、伝統的な食文化を守る運動。「消えてゆく恐れのある伝統的な食材や料理、質のよい食品、ワイン(酒)を守る」「質のよい素材を提供する小生産者を守る」「子どもたちを含め、消費者に味の教育を進める」という三つの指針を掲げるNPO「スローフード協会」は現在世界に約七万人の会員を持つ。

加藤裕子『食べるアメリカ人』(大修館書店)より

Page3:どうしてもやせられない

著者プロフィール
加藤裕子(かとう ひろこ)
1970年生まれ。生活文化ジャーナリスト。早稲田大学卒業後、女性誌の編集者を経て、99年にフリーランスに。同年渡米。The Vegetarian Resource Groupに籍をおき、アメリカのベジタリアン事情、食生活、健康志向などをテーマに取材。帰国後は日米のメディアで活動している。著書に『寿司、プリーズ!〜アメリカ人寿司を喰う』(集英社新書)、『「シャキッと炒める」を英語で言うと』(幻冬舎)などがある。

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