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なんや、これ? アメリカと日本
なんや、これ? アメリカと日本

ようやく実現した在留邦人の在外投票になぜ著者は参加できなかったのか。また、「民主主義国アメリカ」でなぜある科学者が濡れ衣のスパイ容疑をかけられたのか。生き馬の目を抜くアメリカの人事事情から、パソコンに四苦八苦する作家の日常まで。渡米してから40年、日米の狭間でイライラ、ヒヤヒヤする著者による最新エッセイ集。

なんや、これ? アメリカと日本
米谷ふみ子(著)

アカデミー賞と少数民族

今年(一九九六年)もきらびやかなアカデミー賞授賞式が終わった。主演女優賞はスーザン・サランドン、主演男優賞はニコラス・ケイジ、作品賞は『ブレイブハート』に決まったが、一年たつと皆去年の受賞作は忘れてしまう。だが貰った本人には、出演料が跳ね上がるから大変値打ちのあるものである。二十一年前、夫のジョシュ・グリーンフェルドが『ハリーとトント』の脚本で候補に挙がった時、授賞式に参列したことがあるが、今度のアカデミー賞の中継を観て、若い人ばかりで世代替わりを感じた。

部門ごとに異なるが、脚本の部門では、候補になると、賞の決定権のあるアカデミー会員になる。そうでない人でも、書いた脚本が二つ以上映画になり、会員の推薦を受けることで会員になれる。終身会員制。年会費二百ドル。毎週アカデミー劇場(一千人以上収容)で新しくリリースされる映画の試写会に行ける。初めて行った時、私は四十代の半ばであったが、会員がみな年寄りで養老院で映画を観ているような感じがした(今は私たちもその世代になってしまったが)。その上、私一人が少数民族だったのである。それからも一人や二人アフリカ系や東洋系の人を見かけたが、彼らは必ずしも会員とは言えない。私のように会員について来ている(一人は連れて行ける)のが大方であろう。私はあの時夫に言った。「どこにも少数民族がいないやないの。映画界が一番排他的やわ」「そうだね。この年寄り連中が死に絶えないとね、変わらないよな」

あれから二十余年、スパイク・リー、ウーピー・ゴールドバーグ、デンゼル・ワシントン、モーガン・フリーマンらが出てきたけれど、なにぶんにも少数民族の出ている映画の数が少ないので目につかない。ジェシー・ジャクソン牧師が今年のアカデミー賞の候補に黒人は一人しかいないと抗議し、中継しているABCテレビ局の前でデモをした。今でも少数民族は、『ライジング・サン』の中のマコ・イワマツや他の日系俳優のようにステレオタイプの悪者の役しか貰えないのがほとんどである。投票権のある会員の中に少数民族の数を増やすには、彼らに威厳のある役割を与えること。これによって候補に挙がる機会ができ、投票数が獲得される。


毎年二月半ばに候補を選考するのは部門別で、脚本の部門では、会員がその年公開された映画の中から優秀な脚本を選んで郵便で投票する。その一か月後に全部門の候補の中から、部門ごとの最優秀賞をアカデミー会員全員約五千人が選んで郵送投票して決まる。

この三年ほど、十一月ごろから、郵便の量が大変なものになり出した。各映画会社が自社製作で推している映画を候補に挙げてもらおうと、ビデオテープを会員に送りはじめたのである。優秀なものでも、見落とせば票がもらえないのは確かだ。ことに冬は雨期で寒く、年寄りの会員はそう頻繁に映画館に行かない。各ビデオには「人に貸すことや売ることをFBIによって禁じられている」というプリントが画面の下に十分ごとに流されるから、捨てられもせず私の家の床の上をビデオテープが泳ぎ出す。また会員のために、十一月から各映画館は会員証を示し名前のサインをすれば二人入場無料になるという便宜をはかっている。票を得るための袖の下は効かないし、厳禁である。以前スペインの映画が候補に挙がった時、スペインの領事館からパーティの招待が届いた。早速、アカデミ−委員会から電話があり、投票してもらいたいという魂胆であるから行かないようにとのお達しがあった。友だちだから投票するということは人間の社会の常だろう。でも五千人もの会員を動かすことは難しい。

前述のように、会員に少数民族が少ないから、少数民族は候補に挙がりにくいという悪循環がある。これを変えるには、映画製作の決定に少数民族がかかわらなければならない。が、アメリカの大都市人口は少数民族が半数に増えていても、一番知識人の集まっていると思われるマスメディアですら七%が雇用されているに過ぎない。


ニューヨークのヒップな雑誌の社主と他の雑誌の女性記者の結婚式に参列したことがある。参列者(ほとんどが雑誌関係)が五百人いる中で、少数民族は私と中国系の男とアフリカ系の女だけであったし、最近の全米ブック・コンベンションでは、顧客には東洋人がちらほら見られたが、大出版社の社員に少数民族はいなかった。知り合いの社長に指摘すると「いるじゃないか、ほら」と指さしたのを見ると、白人女性であった。政治家もご多分に漏れず議会の上院議員百人中、女性と少数民族は十二人で、下院では四三五人中、十二人というあり様だ(一九九六年現在)。

過去二十年、アカデミー会員の顔触れが少しも変わらないのも、結局は、二十年の共和党政治の影響で、良心の呵責なんてなきがごとく、ますます少数民族が締め出されているアメリカ社会の昨今を反映していると考えざるをえない。

それでも、九六年のアカデミー賞授賞式の製作者はクインシー・ジョーンズ、司会者はウーピー・ゴールドバーグで二人ともアフリカ系である。二十年前には考えられないことであった。少しは進歩があったと見るべきか? ラテン系やアジア系はもっとひどい状態で、日系のソニーや松下がスタジオを持っていても何の助けにもなっていない。

岩波書店『なんや、これ? アメリカと日本』より


Thanks to:
岩波書店
〒101-8002 東京都千代田区一ツ橋2-5-5
Tel:03-5210-4000
ホームページURL:http://www.iwanami.co.jp/


著者プロフィール
米谷ふみ子(こめたに ふみこ)
1930年、大阪生まれ。作家・画家。大阪女子大学国文科卒業。二科会に三年連続入選し、関西女流美術賞受賞。1960年、米国からフェローシップを受け、渡米。作家ジョシュ・グリーンフェルドと結婚し、二児の母となる。現在、ロスアンジェルス郊外在住。 1985年、『遠来の客』で文学界新人賞、『過越しの祭』で新潮新人賞、第94回芥川賞受賞。1998年、『ファミリー・ビジネス』で女流文学賞受賞。 他の小説に『プロフェッサー・ディア』『0線に向かって』、エッセイ集に『ちょっと聴いてください アメリカよ日本よ』『老いるには覚悟がいる』『けったいなアメリカ人』などがある。

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