それまで何世紀にもわたってケルト神が信奉されていた国で、なぜ瞬く間にキリスト教が広まったのか。思えば奇妙な話だが、その答えとして、興味深いいくつかの説がある。
例えば「セント・パトリック=語り上手」。セント・パトリックの優れた話術がアイルランド人を魅了した、という説だ。アイルランドでは、もてるのに必ずしもルックスは関係しない。何より大事なのは、話術と話の中身である。
また「ケルト神話と聖書物語の類似性」という説もある。ケルト神話と同じくらいドラマチックな聖書物語に人々が惹かれていった、というものだ。
この「物語好き」は、今のアイルランド人にももちろん受け継がれている。試しにアイルランドの街角にあるパブで、適当な常連客をつかまえて会話してみれば、自然にかつ延々と続くストーリーとその話術には、きっと驚かされることだろう。語るのが大好き。その根底には彼らの、人間に対する限りない愛情と好奇心、それに豊かな想像力とが横たわっている。