|
次世代の翻訳者養成のために教鞭をとる翻訳者・田口俊樹さん。翻訳者は表現者であるという持論でこれまで100人以上の生徒と接触してきた。田口さんが感じる「ミステリー翻訳者」としての資質とは何だろう。
母校の早稲田大学の一般教養課程で翻訳演習を担当したり、10年以上に亘って専門学校で教えたりとミステリー翻訳家・田口俊樹さんは次世代の翻訳家を養成する教師としても活躍中だ。
多くの学生たちと関わってきた田口さんは、生徒の最近の傾向を次のように語る。
「いつの時代でもそうですが、日本語の乱れが顕著ですね。それから翻訳の文章にダイナミズムが足りない。読者を作品に引き留めておく力が弱いんですよ」
きちんとした文章を書こうよ、と生徒たちに呼びかけているという田口さん。翻訳者にとって何よりも大切なのは、"読解力"だと強調する。
「原文を読んでこの作品のテーマや作者が言わんとしていることが具体的にイメージできるかどうか。これが肝心です。英語をただ訳せばいいというのではない。想像力のない人は優秀な翻訳者にはなれないですね」
翻訳者は表現者という自覚を持つことが大事だ。そのためには多くの作品をとにかく読み込んで読解力を身につけることが、何にも勝る修行だと田口さんは語る。これまで100人以上の翻訳家の卵たちを見てきた田口さん。プロとして一人立ちできるのは、このうち5〜6人だという。
「夢の実現のために努力を惜しまない人には、いつか何らかの答えが返ってきますよ」と励ます田口さん。
翻訳の専門学校の場合、受講生は30歳前後の女性が圧倒的に多い。手に職をつけたいと願う独身女性や、子育てを終了した主婦がアイデンティティを求めてなど実に様々だ。「男性は少ないですね。翻訳だけで生計を立てていくことが難しいという現状の顕れ受講の理由です」。
翻訳本がロングセラーになると、印税生活も夢ではない。しかし翻訳者の現実は厳しい。例えば文庫本1冊600円として、印税8%で1冊につき50円が翻訳者の取り分だ。2万部刷ったとしたら100万円のギャラである。しかし翻訳に2〜3ヵ月もかかると計算すると年収は300〜500万円だ。家族扶養の義務を背負う男性にとって、このギャラでははっきりいってキツい。
しかしそれでも翻訳の仕事を目指す人は後を絶たない。田口さんに翻訳者として成功する人のタイプの人を聞いてみた。
「根気のある人で、調べることを厭わない人。才能は生まれもったものなのでいかんともしがたいが、センスは磨けば身につくもの。とにかく翻訳が好き、これに尽きますね」
田口俊樹プロフィール
1950年生まれ。早稲田大学文学部英文科卒。出版社勤務、児童劇団スタッフ、都立高校教員を経て『ミステリマガジン』から翻訳家デビュー。ブロック『八百万の死にざま』、リューイン『探偵家族』など訳書多数。 |
|
|