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ミステリー界に女性探偵が登場した背景には、'60年代後半から始まったウーマンリブの運動が大きく影響している、と『女性探偵たちの履歴書(プロフィール)』の著者・大津波悦子さんは語る。
「1968年に登場した作家・ドロシー・ユーナックが描くクリスティ・オパラ刑事にはチームの紅一点という役割が与えられ、男の世界で頑張っている元同僚の妻を、周囲の男性達が暖かく見守る、という構図があります。夫を亡くした女性に、夫の会社なり仲間が仕事の世話をするの現実によくあるパターンで、これはまだまだ男社会に守られての自立といえますね」
その後社会にウーマンリブが浸透するとともに、女性探偵は仕事を通じて自己を確立し始める。
'72年に登場したイギリスの作家・P.D.ジェイムズによるコーデリア・グレイは、助手時代には「情報が欲しくて仕方のない無邪気な娘」だったが、プロの探偵として警官と向き合うようになると「かわいいが役立たずの子供をあしらうような態度で扱われたく」ないと、プロとしての自覚に目覚めていく。
さらに'77年に作家・マーシャ・マラーのシャロン・マコーンが登場すると、ヒロインは責任の取り方にこだわる。ある法律家組合の調査員を勤めるシャロンは「真実」に対して「ナイーブかつアブノーマルなまでのこだわり」を持ち、そのことが彼女を悩ませる。人任せにすることができずに、誰が感謝してくれるわけでもない真実を求め、人間としてなすべきことをするだけと、自分なりの責任の取り方を熟知していくのだ。
しかし仕事に対する真面目な彼女の姿勢は、恋愛においてはプラスにはならない。シリーズ一作目・『人形の夜』でのマーカス警部との恋愛は、お互いの性格と職業上のライバル意識が邪魔をして失敗してしまう。
ここで描かれる'70年代の女探偵たちは、そのまま働く女性の姿を反映しているといえよう。肩肘を張って「男と同等に」と叫ぶウーマンリブたちは、決して幸せになれなかった。任務は責任を持って全うする、しかも女性ならではの感性を大事にし、恋愛も成就するというしなやかな女性探偵たちの登場は、'80年代を経て、'90年代になってようやく実現するのだ。
「ハードボイルドといえば男性のやせ我慢の美学だった。それが'90年代に入ってからはヒロインのキャラクターの魅力によって人気を博するようになる。同時に女性をとりまくリアルな環境をも描いているから女性読者を獲得していったんです」
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大津波悦子:プロフィール
1954年横浜生まれ。早稲田大学在学中にワセダミステリクラブに所属する。卒業後は出版社に勤務しながら書評やミステリ評論を続けている。ミステリクラブの先輩で翻訳家の柿沼瑛子氏とともに『女性探偵たちの履歴書(プロフィール)』(同文書院・絶版)、『本は男よりおもしろい』『本は男より役に立つ』(社会思想社)を出版。
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