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 映像翻訳の現場から

劇場映画、字幕翻訳者の世界とは
----林完治さんに聞く

取材・文/佐々木真理

image 映画の公開日が決まると、主演の俳優たちが来日。その華やかなプロモーションの場に私も同席できる日が来るかも・・・などと夢見る明日の翻訳者予備軍もいるかもしれない。だが、その晴れやかな舞台の裏には、徹夜も厭わない、常に臨戦体制で仕事に臨む翻訳者の姿がある。月曜に続き、ヒット作をいくつも持つ林さんから、業界事情を聞き出してみた。

 
林完治さんが語る、劇場映画字幕翻訳者の世界

「劇場映画の字幕翻訳の仕事は、目指してなれるものではない。偶然なった、くらいの感覚でとらえてください」。

のっけから厳しい。しかしそれが現実なのだという。この世界は例えてみると、大学の教授制度に似ている。つまり現役の字幕翻訳家の引退がない限り、公開本数から考えても新しい世代が生まれてくる可能性は少ないのだ。「僕の場合は業界の周辺にいて、ラッキーといわんばかりのチャンスに恵まれました」。

林さんは文系の翻訳者が比較的苦手とするSFやコンピュータものなどを手がけた。字幕翻訳の世界は、ヒットの理由が字幕翻訳のお陰ではないとはいえ、ヒット作を手がけるとそれに類似したジャンルの仕事依頼が続くという。現在39歳の林さんはそれでも字幕翻訳者の中では若手と言われている。

「脂がのってくるのは40代で、どんなジャンルでもこなせるようになるには、さらに精進が必要です。年齢を重ねてこそ理解できる作品も多いですからね。ダントツに有名な字幕翻訳家が頑張っていらっしゃる姿からも、一目瞭然です」 この世界に入るのも難しい、そして実際の仕事の現場もほぼ3Kに近いといっていいだろう。以下に、字幕ができるまでを見てみよう。

『マトリックス』の場合は、まず英語の台本をもらって試写を見る。このときにどこからどこまでを1枚の字幕にするか決めるために、英語の台本に区切りを入れていく、「ハコガキ」という作業をする。そのあと、1枚1枚のセリフのしゃべっている長さを測った表に従い、1秒4文字という字数制限の中で、音だけのテープを頼りに(映画会社によってはビデオをもらえる場合もある)翻訳。ひととおり翻訳が終わったら、もう一度、試写室で映画を見ながら訂正を入れ、原稿を提出。そして最後に実際に字幕の入ったプリント(初号)を見て最終的な訂正を入れるというのが字幕翻訳作業の流れ。

翻訳の期間はだいたい1週間から10日。他の作品も抱えているときは徹夜になることもある。しかも字幕を作るときはいつも一苦労という。 「『マトリックス』の場合は単純に映画の面白さを伝えようと思いました。それからいつものことですが、観客層を意識しましたね。でも、SFにつきものの造語も多かったので、実は見た人からよく分からないと言われそうだなぁと思いながら訳してました(笑)」。

字幕は映像とともに残る。だからこそ、1作1作が勝負の世界。厳しさは想像以上である。ではこの世界のギャラはどうなっているのだろう。 「ギャラは内緒です。ただ、映画は夢を与えるものですが、夢のようなギャラではありませんよ。昔から、1本翻訳すると100万円ですか?なんてよく聞かれましたけど、22世紀くらいには現実になるかもしれませんね(笑)」。最後に、これから字幕翻訳者を目指す人に、どんな資質が必要かを伺った。 「翻訳の世界は日本語が堪能であるべき、と言われていますが、それだけではなく日本語の表現力も外国語の能力もすばらしい、完ぺきなバイリンガルのような人が次の世代には求められると思いますね」。


 明日は、『ライフ・オブ・ポール・ボウルズ』を担当した関美冬さんが登場。